第18話

味方の小型艦を守るように割り込んだ中型艦はアルの指揮する艦だった。

「割り込んだのはいいが、どうするんだ?」

まわりは敵船だらけの状況だ。

普通なら絶望的な状況だろう。

「時間は稼ぐ。落ち着いて1隻ずつ排除だ。

アルは風魔法を発動させる。

強風で敵船が近づいてくるのを少しでも遅らせるのが目的だ。

「おおう。すげぇ。魔法が得意なのは知ってたがここまで威力を出せるとは・・・」

快適な船旅のためにずっと風魔法は鍛えてきたのだ。

このような使い方をするとは思っていなかったが鍛えていてよかった。

動きの止まった海賊船に向け、次々にアームストロング砲が火を吹く。

極限状態ではあるが確実に周囲の海賊を排除する。

「味方艦は無事に離脱した。撤退だ」

アルは全員に聞こえるようにそう叫ぶと敵に向けて放っていた風魔法を自船の帆にあて全力で離脱する。

危機は去ったが海戦はまだ続いている。

次の戦闘に向け全員の気を引き締める。

全体を見回してみれば艦隊は体勢を建て直し戦闘を有利に進めていた。



海戦が終われば航行できない小型艦が出たぐらいで被害は軽微だった。

その被害も積み荷を新たに提供した小型艦に移すことでなかったことになっている。

アルは旗艦に呼び出されていた。

「アルフレッド様。なぜ、危険を犯したのですか?」

開口一番そう叱責される。

「すみません。味方を助けようと思って・・・」

「意図は理解できます。が、貴方はご自分のお立場をわかっておられるのですか?」

アルはこの国の跡取りである。

他の人とは立場が違う。

味方が窮地に立たされても身の安全を優先しなければならないのだ。

「先頭に立って戦ってこそ、下の者もついてくる。僕はその責任から逃れるつもりはありまあせん」

「アルフレッド様。この件は陛下に報告させていただきます。王都に戻るまで謹慎していてください」

「わかりました・・・」

アルは素直に引き下がった。

指揮官には悪いことをしてしまったな。

彼の立場では慎重にならざるを得ないだろう。

謹慎と言ってもアルに与えられたのは大型艦の船長室だった。

統治のために戦力を残しつつ艦隊は王都に向かって戻っていった。

船から降りれば多くの国民が港に押し掛けていた。

アルは民衆に向け馬車の中から手を振る。

すると大きな歓声が響き渡る。

「マルコシアス王国万歳」

といつまでも響きわたる。

同乗した総旗艦の指揮官は複雑そうな顔をしていた。

国民の熱量とは反対にこれからマーカスに報告する内容を考えれば同情してしまうが見て見ぬふりを貫いた。

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