第42話 クラーケン

Side:コラプ

 あの地面にワイバーンを叩きつけた攻撃はなんだ。

 わけが分らない。

 風魔法なのか?


 斥候の報告では、風は吹いてないと言っていた。

 何か得体の知れないものと戦っているような気さえする。

 どういう原理だ。

 ブタキム、奴は一体何者だ。


 正体が掴めない限り勝てないとさえ思える。

 中身が神だったらどうしよう。

 そうなったら邪神様に降臨いただくしか手がない。

 いや人間の肉体で、神の魂の一部でも入れられるはずない。

 古来から、色々な教団で神を降臨させる実験を行ってきた。

 邪神教の邪気でさえ持て余している感がある。

 神の魂などどうやっても無理だ。

 嫌な予感がおさまらない。


「未来予知を」


 予言スキル持ちに俺は尋ねた。


「【予言】。クラーケンに邪気を与えるべきです。指を使うべきでしょう。成功確率は50%です」


 くっ、指を使っても半々か。

 それに奴の知識がどこから来ているのかが分からない。

 天才なのか。


 密偵からの情報では、これと言った情報は出て来ない。

 ただ気になるのは新しい食べ物をいくつか開発している。

 材料はありふれた物が多い。

 ネジル教徒の誰かが考えている可能性もある。


 うーん、引っ掛かるが、料理は関係ないだろう。

 クラーケンだ。

 小舟でクラーケンの出る海域に漕ぎ出した。

 この場所に来るまで2週間の期間を要した。

 ブタキムが要請を受けても、甚大な被害が出た後だろう。


 海が荒れ始めた。

 海面に巨大な触手が上がってきて小舟をひっくり返そうとした。

 触手に触り邪気を行使した。

 指が腐り落ち、体に痛みが走る。


 クラーケンは黒く染まった。


「よしよし、港を攻撃して人をたらふく食ってやろうな」


 クラーケンの触手は俺を愛撫するように動ぎ、海の中へ消えて行った。

 残った指は1本。


 残った指を使わなくてももう長くないような気がする。

 差し違えてもブタキムを倒す。


 港で戦果を確認することにした。

 最初大波が来て、大勢のひとを飲み込んだ。

 そして、触手が、人々を海に引きずり込む。


 良い具合だ。

 ブタキムが来るまで煮この国の港の全ては壊滅するだろう。


 さあ、物資を買い締めしよう。

 きっと上がりまくって利益が出るに違いない。


 海路が立たれれば、貿易の半分は死んだも同然だ。

 これだけでも何人もの人が死ぬだろう。

 港が全部壊滅したら、モンスターを使って陸路も潰そう。

 そうすれば、国の血流は停まったも同然だ。


 この国が滅べは戦乱も起こるに違いない。

 邪神様に栄光あれ。


Side:リード


 この前のオーガに興奮剤を使った手は見事に失敗した。

 ブタキムは卑劣な奴だ。

 ライラをレイプすると言って僕を脅した。

 あの脅しには屈せざるを得ない。


 忌々しいことに僕のレベルは封印された。

 これを解くということはブタキムの封印を解くということ。

 でも僕がレベル1ではどうもならない。


「【封印】、解放」


 また、ブタキムが自分の封印を僕にとばして来たらと思うと、勝つ目なんてこれっぽっちもないじゃないか。

 弱くなった演技をしておけば悟られないな。

 とりあえずはそれしかない。


 コプラさんにせっかく教わった興奮剤を扱っている店が潰された。

 ブタキムの仕業に違いない。

 コプラさんによれば他の店も軒並みらしい。

 他の街の同様な店は全て捜査が入った。

 仕入れ元の数が少ないので、帳簿を解析されてそこを押さえられたらどうようもない。

 ブタキムが手を回したと分かっているが、僕の実力では国は敵に回せない。


「リード、手を抜いているのか?」


 授業で先生に怒られたが我慢だ。


「封印されてしまって、力が出ないんです」

「そうか大変だな。頑張れ」


「災難だな」

「頑張れよ」

「応援してる」


 クラスメートにそう声を掛けられた。

 忌々しいことにブタキムは絶好調だ。

 木剣で案山子を両断したりしている。

 全部のレベルが戻ったわけではないのは分かっているが、これ以上封印を解かせてなるものか。


「ブタキム、いきなり強くなったな。何をしたんだ?」


 そんな奴に話し掛けるなよ。


「普段は実力を隠している。その一部を解放しただけだ」

「じゃあ、全力はもっとすごいのか。あやかりたいぜ」

「俺の力が全て戻ったら、レベルを10くれてやろうか。俺のネジル教に入ればな」

「おう、レベル10か、それは凄いな。是非頼むよ。今日ネジル神殿に行って入信してくる」


 くっ、何で、あんな奴が。

 悔しいことに、ジャスティスに入った奴もレベル10に釣られて、ネジル教に入信すると言い出した。


「お前、正義の心はどうしたんだ?」

「だって、興奮剤をモンスターに使うのが正義か。今までも疑問だったけど、お前の正義は分からない」

「あれはライラに加わって欲しくてやったことだ。大事の前の小事だろ」

「いまのブタキムみていると、けっこう良い奴だ。色々と与えてくれるしな。菓子を何回か差し入れしてくれた」

「それがネジル教徒の手だとなぜ分からない」


「いや、偽善だとしても、良いんじゃないかなと、俺は楽しいのが好きなんだ」

「勝手にしろ」


 ジャスティスの仲間がひとりふたりと欠けていく。

 くそっ、セックス教団なんかになびきやがって。

 だが、少数精鋭になったと言える。


 使えない奴なんか要らない。

 こっちから願い下げだ。

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