第38話:極悪村・佐藤克也視点

「逃がすな、逃がしたら破滅だ、1人残らず殺せ!」


「「「「「おう!」」」」」


 農業を手伝ってくれる人を雇いに来たはずなのに、なんで?

 なんで、普通の村の人たちが武器を持って襲って来るの?


「殺すな、生け捕りにしろ、克也様に血を見せるな!」


 常に僕の側にいてくれるイワナガヒメが神使たちに命じる。

 人間が神使たちに勝てるはずがない。

 豆まきよりもずっと暴力的な戦いが行われる。


「胸が痛い、吐き気がする」


「このような事になって申し訳ありません。

 後は神使たちに任せて城に戻りましょう」


「うん、お願い」


 ★★★★★★


「昨日のは何だったの?」


「克也様が開墾された農地を耕す者を集めようとしたのですが、この世界は誰かから奪うのが普通なので、雇われるより襲う方が得だと思ったら、直ぐに襲うので。

 力を見せつけたら襲ってこないと思ったのですが、追い詰めすぎました。

 ああなる可能性も少しは考えていたのですが、本当に襲って来るは思っていませんでした、申し訳ありません」


「そうか、いいよ、いいよ、僕のためにやってくれたんだもん。

 思っていた通りにならない事もあるよね。

 お医者さんも看護婦さんも、僕を助けようとしてくれていたけれど、助けられなかったんだから、氏神様だって失敗する事はあるよね」


「……はい、本当に申し訳ありません。

 2度と昨日のような事がないようにいたします」


「もういいって、いつもガンバってくれているから、気にしないで。

 それよりも、あの後どうなったの?」


「克也様が後で知られて胸を痛められないように、殺さずに捕らえました。

 ただ、克也様を殺そうとした事は絶対に許せません。

 克也様は、農民として働いてくれたら良いと言われるかもしれません。

 ですが我々としては、農民として幸せに暮らせさせる訳にはいきません!

 商人を殺して金や商品を奪おうとした盗賊として、帝国に突き出しました」


「うん、分かったよ、悪い事をしたら捕まえないといけないよね」


「はい、捕まえないと同じ事を繰り返します。

 克也様の後であの村を訪れる商人や旅人が殺され全てを奪われます。

 命を奪われる者もいれば、ドレイにされて誇りや尊厳まで奪われ者もいます」


「そっか、そうなんだね、生活が苦しかったからしかたがなかったんだと、簡単に許したらいけないんだね」


「はい、もし許すのなら、責任を負わないといけません」


「責任?」


「許した後で、あの者たちがまた人を殺したら、自分も死なないといけません。

 2人3人殺したら、自分1人では命が足りません。

 親や兄妹姉妹を殺して、殺された命の償いをしないといけません」


「そんな、そこまでしないといけないの?!」


「克也様は1つの命と3つの命が同じ価値だと思われますか?

 100円と300円が同じだと言われますか?」


「え、命とお金を一緒にして良いの?」


「いけないと思われるのですか?」


「思うよ、命とお金を同じ様に考えちゃいけないよ!」


「では、お金を払えば人を殺しても許されるのはおかしいですよね?

 罰金を払えば人を殺しても許されるのはおかしいですよね?」


「うん、そうだね、おかしいね」


「では、命を奪ったのに牢屋に入るだけで良いと思われますか?

 毎日3度食事が与えられ、誰かに襲われる事のない、安全な場所で生きられる。

 それが命を奪った罰になると思われますか?」


「……分からないよ、僕には難しくてわからないよ。

 でも日本で観た動画では、人を殺しても殺されないよね?

 1人2人殺しても10年くらい刑務所に入るだけだよね?」


「はい、その通りでございます。

 克也様が日本のやり方をこの世界に取り入れられるのでしたら、そうなります」


「じゃあ、僕が許せと言った人が誰かを殺したら、僕が死なないといけないの?

 2人殺したらお父さんかお母さんを殺さないといけないの?

 そんなの嫌だよ、絶対に嫌だよ!

 そんな事をしないといけないなら、王になんてなりたくないよ!

 そんな事をやらせないでよ、代わりにやってよ!」


「申し訳ありません、王の責任の重さを知っていただきたかっただけで、嫌な思いをさせたかった訳ではありません。

 そんな想いをしていただく事のないように、私たち氏神が支えさせていただきますので、ご安心ください」


「じゃあ全部任せるから、お父さんやお母さんが殺されないようにして。

 僕の胸が痛くならないようにして!」


「分かっております、克也様が胸を痛める事のないようにさせていただきます。

 その代わりと言っては申し訳ありませんが、絶対に殺すなというのは止めていただきたいのです」


「……ダメなの、殺さないとだめなの、どうしても殺さないとダメなの?」


「できる限り殺さなくて良いようにいたします。

 ですが、絶対にと命じられると、相手を殺さないために、神使が殺されてしまうかもしれません、それでもよろしいですか?」


「ダメだよ、絶対にダメだよ、お父さんやお母さんが殺されるものダメだけど、神使たちが殺されるのも絶対にダメだよ!」


「はい、私たち氏神も、克也様の家族が責任を取らされるような事にはしたくありませんし、仕えてくれている神使たちをムダ死にさせたくありません。

 非常の場合は、この世界の神や人を殺す事を御許しください。

 ただ、この世界の神のように、生まれ変われないような浄化はしません。

 生まれ変われる殺し方をしますので、殺す事をお許しください」


「許す、許すけど、僕の分からない所で殺して、お願い!」

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