16話 大阪観光
最初の部屋が大きくなったことはニュースで取り上げられたが、進化したダンジョンは探索者たちの間では概ね好評だった。
特に未完成とされていた8階層で諦めた人たちが町田ダンジョンに戻ってきて、1日で過去最高のポイントを獲得できた。
改装で使ったポイントが順調に回復していって何よりだ。
そうこうしているうちに、卒業式の日から1週間が経った。
今日はみんなで大阪に卒業旅行に行く日。
朝8時に新幹線に乗る駅に集合する。
俺が駅に着く頃には、集合場所に1人いた。
「おはよー。早くない?」
「はよ!楽しみすぎて早起きしちゃった!」
「学校ではいつも遅刻ギリギリだった癖にな」
「旅行と学校は別物だって」
「それはそう。他の2人は?」
「時間までには来るっしょ」
現在の時刻は7時45分。集合時刻まではまだ余裕がある。
「じゃあ俺コンビニでお菓子買ってくるわ」
「俺の分もよろ!」
「はは、自分で買え」
いや、まぁみんなで食べれるもの買うけどさ。
駅構内のコンビニに行き、お菓子数種類と一緒にお茶も買っとく。
数分で戻ると、1人増えてた。
「おはよ」
「おはよー。あとアイツだけか」
「なに買ってきた?」
「激辛ポテトチップス」
「俺食べれねーじゃん」
「嘘だよ」
新幹線でみんなで食べる予定なのに激辛はない。普通のを買った。あとはチョコ系のお菓子にグミ系のお菓子だ。
3人で喋りながらあと1人を待っていたが、集合時間を過ぎても来ない。
電話をかけまくって、ようやく出たそいつに話を聞くと、シンプルに寝坊らしい。あと5分で来ると言っていた。
新幹線の時間にはギリギリ間に合って、4人向き合って座りながら新大阪へ向かう。
道中はトランプとかやってた。
新大阪に着くと、今度は電車に乗り換えて、梅田に行った。
本当は最初に商店街に行く予定だったが、梅田で乗り換えが必要だったからな。ここで一回おりて、ダンジョンに寄っていこうって話になったのだ。
梅田ダンジョンは梅田駅から徒歩数分のところにある駐車場に出現した。
建造物はそれほど大きくなく、先週大きくした俺のダンジョンの最初の部屋と同じくらいの広さだ。
「ここが梅田ダンジョン!」
「なんか思ってたよりしょぼいな」
「お、厳つい人達がいる」
「探索者だろうね」
男女入り混じった6人パーティで、防具をつけ、各々の武器を持っている様子からは歴戦の猛者っぽい雰囲気を感じる。
同じダンジョンでも町田ダンジョンにくる人達は初心者が多いからか、探索者の雰囲気が全然違う。
「俺ちょっと話しかけてくる!」
俺らの中で1番ダンジョンに興味を持ってたやつが探索者に話しかけに行った。
「あいつ基本馬鹿だけどコミュ力はすごいよな」
「将来探索者目指してるのか?」
「さぁ。聞いた事ないけど」
もし探索者になるとした町田ダンジョンには来ないで欲しいな。
見知った人間に来られるのはなんか気まずい。
数分で探索者の元に行った友人は戻ってきた。
「お待たせ!」
「おかえりー」
「何聞いてきたんだ?」
「えーと、いつから攻略始めたのかとか、どの階層まで行ってるのかとかかな。意外と優しい人達だった!」
「よかったな」
話を聞けたことに満足したようで、次の目的地に向かう事にした。
日本一長いことで有名な商店街で食べ歩きだ。
たこ焼きに、コロッケに、ソフトクリームにとどれも美味しかった。流石大阪。
2時間ちょい滞在した後、電車で次のところに向かう。
動物園か水族館かで揉めて、じゃんけんで水族館の方へ行くことになった。
「ペンギンかわいい」
「熱帯魚綺麗だな」
「ジンベイザメでっか」
「カニ食べたくなってきた」
途中休憩しつつ、順路に回って終わり。
結構楽しかった。
全部見終わる頃には日が暮れ始め、今度は晩御飯を食べるために道頓堀に行く。
「グリコだ!」
「みんなで写真撮ろーぜ」
「全員グリコポーズな」
「すみませーん、写真撮ってください」
歩いていた人に声をかけて、4人全員で写真を撮ってもらった。
「ありがとうございましたー!」
道頓堀に行くとだけ決めていて、どこのお店で食べるかは決めてなかったから、歩きながらめぼしいお店を探す。
「やべぇ、看板に観覧車着いてる」
「ド派手だ」
「俺これ乗りたい」
「明日ユ⚪︎バ行くじゃん」
「確かに!じゃあいいや」
ということで、観覧車には乗らず、途中飛び込む人が居る事で有名な橋に寄って、ようやくお店に入った。お好み焼き屋だ。
食べ終わったら今日はもうホテルにチェックインする。
順番に風呂に入って、やっぱりトランプをやりながら高校生時代の思い出や今後について語り合う。
気づけば日を跨いで夜中の1時になっていた。
みんなが寝たのを確認して、コンビニに行くというていで軽装に着替えてホテルを抜け出した。
向かう先はもちろん梅田ダンジョンだ。
ホテルからはちょっと遠く、歩いて20分ほどかかる。
電車がもう走ってないからなぁ。タクシー呼んで子供だからと通報されたら困るし歩くしかない。
こんな夜中なのに外で人が普通に歩いている事に驚きつつ、無事にダンジョンにたどり着いた。
ダンジョンに踏み入れたらすぐに隠遁者を使う。
そう決めて入ろうとした時。
「蒼斗?」
「は?
ホテルに置いて来たはずの友人に声をかけられた。
「ドアが閉まる音で起きてさ。そしたら蒼斗いないじゃん?絶対ダンジョン向かったなと思って来ちゃった」
「来ちゃったって……よくわかったな」
「蒼斗がライセンスを持ってなくても入れるって言ってたからな。ぴーんと来たんだ!」
あー、瑛士はさっき探索者に話しかけに行くくらいダンジョンに興味持ってたもんな。それで同じ波動でも感じられたのか?
にしてもどうしよう。これじゃ隠遁者は使えない。
「瑛士に先帰ってもらう事は?」
「できないねー。俺も中入ってみたいもん」
まぁ追い返せるわけないか。
これじゃここで帰ることもできない。
「もしライセンス持ってないってバレたら一緒にごめんなさいしような」
「わかった!」
俺が恐れているのはライセンスの未所持よりも梅田のダンジョンマスターに通知が行く事だったんだけど。もう寝てる時間だと信じよう。
もし通知がいっても、2人同時にならバレない可能性に賭ける。
「朝早いしちょっと中見たら帰るから」
「わかってるよ。モンスター危ないし……」
声が途切れた事に疑問を持って振り返った。
瑛士が足を止めている。
「……瑛士?」
呼びかけても答えない。
それどころか、びっくりした目でこちらを見ている。
もうダンジョン内だし、あんまり止まっていたくないんだけどな。
いや、待て。瑛士はなにでびっくりしたんだ?
なんか不味い事が起こったような感じがする。
「ねぇ。変な事聞いていい?」
「いいけど」
「蒼斗ってもしかしてダンジョンマスター?」
ひゅっと喉から息が漏れた。
どうしてバレたんだ。鑑定スキル?
いや、改竄スキルは解除しない限り継続的にステータスを誤魔化し続ける筈だ。
他に俺がダンジョンマスターだとわかる方法……まさか。
思い当たる方法がある。俺だってそれであの女がダンジョンマスターだとわかった。でも、そんなことあるか?
同じ高校で、同じクラスで2人も。
思い返せば、元日のあの日。声なんて摩訶不思議なものが聞こえたら真っ先に連絡を送って来そうなこいつは遅れて返事をしていた。
あの時の声は人類にしか聞こえなかった。だから反応できなかったのでは?
さらにいえば、卒業旅行の候補に大阪をあげたのもこいつだ。ダンジョンマスターが自分のダンジョンを見たがるのは何も不思議なことではない。
思い当たる節といったらこの2つくらいだが、さっきのタイミングの驚きようと俺がダンジョンマスターってわかったことを考えるともうそれしかない。
つまり瑛士はここのダンジョンマスターである。
どういう抽選方法とったらそうなるんだ。
あーあ。AIの通知に間違いはないからな。他に同タイミングでダンジョンに入った人もいない。言い逃れする方法が思いつかない。
まさかこんな事でバレるとは。
「瑛士は梅田のダンジョンマスター?」
「うん。あーびっくりした。急に声が聞こえるんだもん」
「俺もビックリしたよ。急に言われたから」
さて。どうしようか。
梅田のダンジョンはその立地の良さから1番人気とも言っていいほど人が多く訪れているダンジョンだ。
ライセンス制度ができる前、一般人の犠牲が出たといっても、その時のおかげで情報が多く集まってる。何も知らないところよりは知ってるところを探索者は選ぶ。
人がたくさん訪れているならそれだけ相当レベルは上がっているはずで、もし戦闘になったら到底敵いそうにない。
まず、瑛士が何を思ってダンジョンを運営しているか探るところから始めないとか。
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