6
「兄ー!」
「兄!」
声が聞こえて目を開ける。見た目が一桁になる元気な男の子三人と女の子二人が、誰かに声をかけていた。
「わは逃げないよ。落ち着き」
声変わりのしていない高い声が隣から聞こえる。隣を見ると、
「
名前を呼ぶと周囲の風景がはっきりとする。
狭いながらの土の床に、柱を立てて葦などの植物で屋根を作っている内装だ。竪穴式住居。着物の生地は質素であり、庶民が着るような服を着ている。
母らしき人物もおり、赤子を抱えていた。幼き
「ほら、落ち着き。弟が泣いちゃうよ。しぃーだよ。そろそろ耕しにいこ」
優しく撫でて微笑む姿は兄らしい。彼ら母に声をかけていた。
「母さま、わぁみぃんなと畑やってくるー!」
「はぁい。いってらっしゃーい」
赤子を抱えて手を振る母と幼い弟の面倒を見る妹に、笑顔を送って彼は入口から出ていく。
わとは昔の日本人が使っていた一人称だと
かなり長い時間土を耕したのか、一息をついて宗寛は休憩に入ろうとする。弟と妹も地面に座って休んでおり、
内容はともかく、リズムも音程は昔の日本民謡のように感じた。兄が歌ったのが驚いたが、次第に楽しそう
大変だった当時でも、彼らなりに楽しかった時間があったようだ。
雨音がする。激しい雨のようだ。
中に入ると、食事の風景が現れた。当時の庶民の食事を作っているのだろう。アワとキビ、麦類などを混ぜた米を雑炊にしており、
器に副菜を並べ終えて、食事ができると
「あっ、母さま。また自分の少なくしたー!」
「でも、私より、皆のほうが大事なの」
「……父さまが早く亡くなった。父さまよりも少しでも長生きすることが、わぁのため! ほら! 少しあげる!」
母親思いが嬉しいのか、彼女は嬉しそうに笑っていた。
穏やかな食事風景を眺めて
何かの映像が映画のように現れた。
映像には顔色が悪く瞳が虚ろな女性が
その女性は見間違いでなければ彼の母だ。
母親は病が酷くなって亡くなったのだろう。亡くなったからこそ、人が亡くなる場所に置かれる。当時の風葬地と呼ばれる場所なのだろうか。
弟と妹たちが泣いている中、
次の映像には彼の妹と彼の弟が病で死にそうな場所を風葬地に置かれ、同じように弔われる場面がある。まだ弟と妹の幼い姿を見る限り、流行り病でなくなったのであろう。
弟が事切れるのを見届けると、
「……みんなとちがう。いっしょじゃない」
ポツリと呟き、亡くなった姿を見つめて呟く。
風葬。
映像がすぎると、違う風景が目の前に現れた。
殴る音が聞こえた。彼女は目の前に起きている光景に驚く。
晴れた日の空の下。どこかの道であろうか。青年が二人の大人に殴られており、尻餅をついた場面である。着ている着物も少し異なっていた。小袖と袴を着ているが、真新しさはない。一人は
人さらい。家族を連れ去ろうとしている場面のようだ。
殴られた
「っふふ……たいしたことないなぁ。弱いなぁ」
声変わりしたてのように感じ、顔もまだ幼さがある。中学生ぐらいの年齢だろう。
「っ! 何だと……!?」
顔を上げて挑発するように男の子を手を握る大人に笑う。
「そこの人も殴ってみなよ。その弱い両手と足でわを叩いたり蹴って」
「っ……! この!」
男の子の手を離すと、暴力と罵りが全て彼に行く。男の子は泣きながら、彼に背向けて逃げていった。
「兄! ごめんなさいっ……!」
背後から声が聞こえる。
振り返るとあの
あの痛みつけから弟を守ったあとらしい。
「大丈夫だよ。兄、いたいいたい、好きだから。
弟と妹、守れるから好きなんだよ」
「でも、兄に痛みを向けるのみるのつらい」
「兄が、悪いのを向けさせろうとするの。多すぎていやだ」
「兄もやったほうがいいよ。わぁはこわくないよ」
「傷付くこもう見たくない。兄が強くても、見ててわぁはつらい」
泣きながら、弟や妹に言われている。塗っている草は薬草ではなく、そこら辺の雑草だろう。医療というものは上流貴族しか受けられず、庶民は民間療法に頼らざる得ない。
「ごめん。でも、わは残った家族を一人にしたくないんだ。かかさまが死んで、他の家族は大きくなる前に亡くなった。わは大きくなるまでお前たちを見捨てられない。だから、元気に大きくなって」
優しい兄の言葉を送られ、弟と妹は
水に沈む音が響く。渚は真っ暗な水の中に沈められた。
周囲は真っ暗であり、水面の光はない。自分だけが光っており、口と鼻からは僅かな気泡が漏れ出す。
映像が過ぎる。
彼も現代の成人男性の年を過ぎたあと、妹と弟の様子を見に行ったのだろう。
弟達には家族ができた。妹も家族はできていたようだが姿はない。風葬の地で弔われたようだ。宗寛は妹が弔われた場所に花を手向けている。
花を手向け終えて弟と妹が亡くなると、彼は本格的に組織の仕事をするようになった。妖怪や人を多く手にかけては騙し、利用する場面が多く現れる。
映像は彼女の口から出る気泡とともに登って消えていく。
「先生。これは、まだ人の年齢であった頃の記憶の断片ですか……?」
聞くものの答えない。気泡が上へ登っていくのを見ながら瞼を閉じた。
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