3
外傷はない。怪我はない。意識を失っていると分かっている。だが、
「なぎ、さ……ちゃん」
会う気もなく、会うことも避けてきた。
記憶や存在を消し、認識も阻害していたと思った。そのはずが彼女が自分から駆け寄り死にかけた。咄嗟に助けて怪我なく無事で済んだが、気を失ったようだ。彼女は力なく項垂れており、彼はすぐに救急車を呼ぼうとした。だが、
「……っすみません。誰か! 誰かっ、助けてくれませんか……!」
遠くから救急車とパトカーのサイレンとの音が聞こえた。救急隊員に状態を確認され、
彼女と知人である旨を伝えて、
もう大丈夫だと救急隊員の声掛けで、体の力が抜けた気がした。
その後、警察からの事情聴取に求められた。
話し終えると、警察官が心配そうに聞いてきた。
「あの、大丈夫ですか? 相当顔色が悪いですよ」
指摘を受けて、
他人に指摘されるほどに、感情が表に出ていたことに驚く。すぐに切り消えて、彼は微笑みを作る。
「……えっ、あっ……はい、大丈夫です。すみません」
「にしても、彼女を助けて怪我なしとは……運が良かったとしか言えませんよ。人を助けたのは凄いですが、あまり無茶しないようにしてくださいね」
「はい、気をつけます。ご苦労さまでした」
警察官に褒められ、
野次馬に声をかけられる前に去ろうと考えるが、声をかけられる。
「あの」
顔を向けると、二人の低学年の小学生がいた。墓参りの香花と荷物を
「これ、おにいさんのですよね?」
黄色い帽子を被りランドセルを背負いながら、背伸びをして渡そうとしている。弟妹たちの姿が一瞬だけ過ぎりるものの、すぐに我に返る。
「っ……ああ、そうだよ!」
「ありがとう。僕のものだ。わざわざ持ってきてくれたのかい? 偉いね」
「えへへ」
「ありがとう!」
優しく褒めると二人は嬉しそうだが、彼は注意を交えた。
「拾ってくれて嬉しいよ。でも、次、落し物を拾うときは交番に届けるか。怪しいものは一一〇番してね。落とし物を届けるのは偉いけど、その落とし物の持ち主が良い人とは限らない。僕と約束してほしい」
「はーい!」
「わかりました!」
それぞれの返事を受け取って、
「元気でよし、じゃあね!」
「はーい! さようなら!」
「じゃーね!」
小学生の二人も手を振って、走って去っていく。
心配で声をかけようとした人物もいるだろう。歩く速さと雰囲気から拒む物を見せて、彼はゆく。
人の場から離れた後、彼の歩く足取りに覇気がなくなった。
墓地とは違う方向におり、手にしている荷物を彼の力で消す。
「今日のお墓参り、行けないか」
怪しまれないようゆっくりと人気のない場所まで来た。
深く息を吐いた。
本人がいない前で謝罪を口にしても彼は意味ないと知っている。吐き出す言葉は自責が相応しかった。
「この街にいなければよかったか」
胸の上を強く掴み、痛そうに表情を歪める。
「大馬鹿か……
同じ気持ちを親しい人に何度かさせている。苦しげに吐き出し、
「……ははっ、わかっているのになぁ。……
人は人を傷付けて生きる。わかっているからこそ、彼は自身を謙る。
性善説と性悪説。あるならば、
彼は電柱から離れて、空を見上げる。
「本当、タイミングが悪かったな」
夢の中で告げられた言葉を思い出す。彼にとって威力が強かったようだ。頬を赤く染め困った顔をしつつ、
「優良物件は他にもいるのにな。でも、なぎちゃん。強くなったよ」
子供の頃は、大人しく手のかからない子ではあった。だが、大きくなると、
大きくなる過程で、彼女は真面目に育ち、家を継ぐという責任感を強く持ったのだろう。しっかりとして気が強く。彼女の性格を振り返っていると、彼はなんとも言えない笑みを浮かべる。
「……その前に、彼女について来れそうな男の人いるかな?」
彼女の伴侶はどんな人になるのか、想像できなかった。
不思議に思うが、彼女の運ばれた病院が近付くに連れてその気配の違いがはっきりと感じ取れた。
とても懐かしい気配のような気がし、彼は病院に近付いていく。
物陰に隠れた。かつての教え子でもある
これでは様子を確かめられない。
「……日を、改めるか」
彼らの邪魔をしてはならない。
「……遠くから彼女の元気な姿を見たら、お盆や彼岸以外の墓参りだけにしよう」
もう今日のような出来事を起こさないために、日程とスケジュールを考える。病院から
「けど、その前に、
龍の瞳を湛えながら、歩みには力が入っていた。
信号無視をした運転手を彼は探しに行く。
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