第3話 : 出会 [4]

祐希は特に用がないので、弘が入ったトイレの前で待っている。


一方、栞奈も同じ時間に駅に到着する。


彼女もやはり彼らと同じ気持ちで、電車に乗る前にトイレに行くことに決める。


祐希はトイレの前で待っていて、栞奈がトイレの方に近づいているのを見つける。遠くから見るとただ似たような人だと思い、大したことではないように受け入れるが、少しずつ近づくと彼女だと確信できる。彼女がなぜこの時刻にここにいるのかはわからないが、そんなことを考えている暇はない。急いで彼女を避けようと周りを見回すが、今すぐ隠れる場所はトイレしかない。


「終わりました。今からゆっくり電車に乗りに行けばいいと思います。」弘は小便をして出てきた後、不安そうな祐希に平然と手招きする。


「ちょっと待って…」栞奈とまっすぐ向き合いそうで、今は出られない。さらに弘と一緒にいる状況だ。祐希は栞奈だけでなく、今すぐ行こうという弘の催促に押されて、トイレの個室に入ってドアを閉める。


「どうしましたか?」さっきまで平然としていた祐希だったが、突然の事態に狼狽せざるを得ない。


「今、急用ができて…ちょっと待って…」と彼は時計をこっそり取り出す。汽車が出発する直前までここで粘り強く待つつもりだ。突然このような荒唐無稽な意地を張って申し訳ないが、今栞奈と出会ってぎこちない状況を作り出すよりはましだ。


「ちょっとだけですって? 行かなければならないようだが。」このままだと汽車の出発時間に遅れるのではないかと不安で、トイレのドアを切なく叩いてみる。


「10分だけ…10分でもない…7分?8分?」特に小便をしたくはないが、できるだけ焦った声で話す。彼もまた別の理由で焦りを感じているため、自然に声に出てしまう。


男子トイレで大騒ぎになっている間、栞奈は洗面台の鏡で着こなしを確認する。


彼女は電車の出発時間になる頃に平然とトイレから出てくる。


祐希は数分間トイレで必死に持ちこたえ、自分で飛び出す。


彼らは黙って全速力で電車に向かって走る。


栞奈は複雑な汽車の中で人々の中をかき分けて席に座る。自分の席でようやく余裕を取り戻し、ため息をつく。新しい学校に行って見知らぬ環境に向き合うとき、ここが懐かしく感じたが、二度と戻らないと思った。実際にここにあったことを考えると、ひょっとするとそうせざるを得た。彼女の決意が込められたその予想が外れてしまった。懐かしい場所を離れ、自分の夢のために越えなければならない山に向き合ったとき、一番最初に思い浮かぶのはまさにその思い出が残る場所だ。アイロニーと言わざるを得ない。名目上は小説のためのインスピレーションが必要で行くと言っているが、自分がこの旅行を通じて本当に得たいのがこれなのかはまだ確信が持てない。霊感を得るどころか、この旅行に満足感を感じるかもしれない。目的すら不透明にするその不確実さは、彼女の勇気と自信さえも奪い取る。一応夢のためだと言ったが、ただ恐怖を振り払うことができなかった自分が現実逃避のための旅行をしているかもしれない。ただ一つ確かなことは、その不信と疑念のために栞奈が電車に乗り込んだということだ。直接行くことに決めたにもかかわらず、その意志と確信が足りない彼女は、ただ汽車に身を任せることにする。心から望むかどうかにかかわらず、正当な代価を払ったので、自ら連れて行ってくれるという信頼があるからだ。やはり誰もが明確な目標を持って電車に乗ったわけではないかもしれないと思う。方向感覚を失った誰かは、お金を払って身を任せたはずだ。彼女は自分自身をどうやって行くのかさえ知らない他の人と区別する必要はない。少なくとも電車に乗っている間は同じ立場だ。同じ区間を絶えず循環する汽車は乗客に数多くの方向を提示し、その中から自分の目的地を選ぶ権限を与える。これが列車の役割であり、彼女もその権限を与えられた。数多くの人が多様な事情と夢を抱きながら乗り降りする過程を彼女はじっと見守る。


一方、彼らはあえぎながらやっと電車に乗り込む。もう少し時間を延ばしていたら、きっと遅れていただろう。


「ふぅ… ギリギリだったね。」額に汗がにじんだ祐希はまだ息を切らしている。


「早く席に行って座った方がいいと思います。」弘もあえぎながら話を続ける。


「うん、そうしよう。」彼は手で扇ぎながら、赤く熱くなった顔を冷やそうとする。


彼らは狭い通路を進み、両側の座席番号を確認しながら席を見つけようとする。


しばらく進んだ後、目の前の2席が空いているのを見つける。座席番号と照らし合わせて確認すると、この席が正しいことがわかる。


席に座ってからしばらくして、出発を知らせる放送が始まる。


旅に出る実感が湧いてくる。


心を落ち着けようとする。


「このように電車に乗ってどこかに行くのも久しぶりだと思う。」祐希はこっそり弘に話しかけ、おかしくなった雰囲気をようやく直す。


「実はそうなんです。以前は時々両親と一緒に旅行に行ったりしていました。」


「ああ…そうなの?両親と仲がかなり良いようだね?」それを聞くと胸の中でさまざまな感情がこみ上げてくるが、努めて抑えようとする。いざ話を切り出せば、果てしなく続くだろう。昔感じた感情を思い出して、きっと旅行の雰囲気を害するだろう。


「これを…親しいというか、それとも…依存していたというか。」いつも両親と一緒だったし、両親が見せてくれた世の中が実際に彼が見た世界の全てだった。いつも一緒だったからただ親しい間柄に見えるかもしれないが、いざそうだと言うには難しい部分もある。明らかに存在した圧迫感が理由だった。その関係で「抑圧」という言葉が似合うとは思わないが、彼自身が受け入れたくない統制があった。


「実は高校生くらいになれば両親より友達と旅行に行く方がもっと好きじゃない?」自身が特に彼の環境が羨ましくてそうするのではないと彼自身が断言する。言葉を慎んだ方が、より多くのことを表現できる手段になるかもしれない。


弘もまた祐希の言葉に同意する意味で首を縦に振る。彼はこのような果敢な決定を下させてくれたその小説に感謝の気持ちを感じ、それからそっと取り出す。自分が行きたい場所を内心決めておき、今は羅列された文字を通じて小説の内容を理解する時間ではなく、自分が主人公になったように直接経験しながら自分だけの感覚で小説の感性を受け入れる時間だ。小説の人物の足跡を辿りながら、彼らの感情を振り返ってみることにする。きっと何か得られるだろう。弘はまた、栞奈が彼に感じてほしかったことが何かも考えてみる。


一方、祐希は弘がその小説を持ち出すのを見るやいなや、栞奈を思い出す。本屋で彼女が手にしていた本だ。いざ彼がその小説を持っているのを見ると妙な気分になる。弘は今、小説のインスピレーションを得るために旅立つが、栞奈は自分の小説のために何をしているのか考えてみる。同じ本を持っていることが大したことではないと言えるが、すでにあきれた偶然のような運命を一度感じたので、どうしても偶然とは思えない。


祐希は物思いにふけってその本をじっと見ている。


弘もやはりその視線に気づく。


「この本、読んでみましたか?」弘が先にぎこちない雰囲気に耐えかねて話を持ち出す。


「その本…読んでみたよ。好きだよ。」祐希には多くの意味が込められている本だ。実は最後に読んでからかなり経ったが、数え切れないほどたくさん読んでみたので、内容はまだはっきり覚えている。


「おお…そうですか?私もこの本が大好きなんです。」この本は、退屈な始業日に弘に降りてきたタイムマシンのような存在だった。


「純粋な夢の価値を教えてくれたんだ。」祐希はその本に込められた思い出をじっくり考える。


「そうですか?実は初日、同じクラスで新しく会った友達がプレゼントとしてくれたんですよ。」弘にはただ時間を過ごすための物以上の価値がある本だ。


「あ、本当?」初日と言えば、彼が本屋で再会した日だ。単純な推測に過ぎないが、偶然というにはあまりにも正確に合致するので、自分が書店で栞奈と交わした対話を思い出さざるを得ない。


「あの人がもしかしてこの本に対するあなたの考えを知りたがっていたのか?」祐希はその時栞奈が誰かにその小説をプレゼントしたと言っていたことを思い出す。彼女が言ったその人が今そばにいる弘なのか疑わざるを得ない。


「はい、そうです。どうして分かったんですか?この小説を読んでから感想を話してくれたのですが、いざ特に気に入った答えではなかったようで…私が何かまともに鑑賞できなかったのかなと思いました。また、この小説が何の考えもなく生きてきた私に何かを始めたいという気持ちを植え付けてくれたので、この小説をきちんと鑑賞すれば、きっと私が書きたい小説が何で、他の人に伝えたいことが何なのか教えてくれるかもしれないと思ったんです。」


「そうなんだ。」あえて言うまでもない。祐希は努めて平然とした表情をしようとするが、弘にこの小説をくれた人が栞奈だと確信する。実に奇妙な必然だ。栞奈が弘にその小説をくれたおかげで、祐希が本屋で再び栞奈に会い、栞奈に文芸部に入るよう勧めることができた。ところが今、栞奈は競争相手となり、弘は祐希の味方になっている。祐希は運命のいたずらのような状況に泣くべきか、それとも笑うべきか分からない。


「どうしたの?」弘はその答えを聞いて首をかしげる。


競争相手が自分にその本を与えた人なのかさえ知らないだろう。祐希はこの状況をどう説明すればいいのか分からず、弘に事実を打ち明けるか、それとも知らないふりをするか迷っているだけだ。


訳もなくそうしたところで頭の中だけが複雑になるから、いっそ今はこのままにしておいたほうが良さそうだ。


「あ、違う…君は小説を書くことに集中しなさい。」祐希の好奇心はさらに高まるばかりだ。どうしても今日駅で栞奈に会ったことを単なる偶然とは思えない。弘がここに来た理由と同じ理由ではないかもしれないが、きっと何か関係があるはずだ。今日弘と一緒に旅行しながら、栞奈のことを何か分かるかもしれない。


「あ、はい…」弘もやはり祐希の反応が少し気に障るが、努めて無視することにする。


しばらくして彼らは目的地に到着し、汽車から降りると、澄んだ空のどこかから吹いてくる海風が彼らにこの事実を感じさせてくれる。


駅での出来事は無視しようとする。余計な疑いにかられて気分を害することはできない。鉄道駅はどこかへ行こうとする人が集まる場所なので、偶然出会うことがある。栞奈は多くの選択肢の中から明らかに別の場所を選んだだろう。弘と同じように、その小説の舞台となったところを訪問しに来たのでなければ。横浜で彼女に会ったら、絶対に偶然とは言えない。

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