第1話 : 冬休み [4]

本屋を出るとまた冬の風に襲われる。


二人で歩いてしばらくしてケーキ屋に着く。ケーキ屋の入口から少し離れたテーブルに座ることに決める。 2人だけで気楽に会話ができるという考えから下した決定だ。 彼はショーケースのケーキに目を通し、店員を呼ぶ。 店員が注文を取りに来たと、彼女はまだメニューをじっと見ている。 彼はしばらく待って、我慢できずに先に話を切り出すことにした。


「まだ悩んでいるの?」 彼は退屈そうに目を覚ましたまま、彼女を見つめる。


「うん… 決められない。」 彼女はためらうような表情で答えた。お腹が空いている彼女にとって、目に入るものすべてがおいしそうに見えるだけだった。


「何を食べたいの?」と、彼は不機嫌そうに尋ねました。 文芸部の未来を心配するのに、このように真剣に取り組んでほしいが、いざこのようなことにだけ関心があるのが残念だ。


「チョコレートとイチゴ!」 彼女は2種類のケーキを交互に指差し、期待に満ちた表情で彼を見つめた。


彼はどんなケーキでもいいけれど、彼女が深く悩んでいるのを見ると、冷静に決定できないようだ。


「じゃあ、全部食べられる?」 もう一つのケーキを食べられなくて残念だろう。 どうせ思い切って買ってあげるのにもかかわらず、けちだと言われたくない。


「両方買ってあげるの?」彼女はそれを聞いて驚いた表情で尋ねる。


「望むなら、代わりに全部食べなければならない!」ケーキをもう一つ買っても特に構わない。


「もちろん、全部食べられるよ! やはり二つとも気に入れば二つのうちのどちらかを選ぶよりそれがいいじゃない?」その言葉に大きな声で答える。 まるで二つとも食べようとそのように演技していたかのような気もする。


「そうだね、じゃあ今すぐ注文しよう。ためらうことはないよね?」


「ちょっと待って!」


「なんで?また何が問題なの?」


「このチョコレートはダークチョコレートかな?」


「それは何のこと?」


「私はダークチョコレートケーキが食べたいんだけど、ホワイトチョコレートかもしれないじゃない?」


「ただ君の選択だよ…」 自分が食べると言っておいてこんな気まぐれをするなんて困るばかりだ。


「私はイチゴケーキだけ食べる。」


「あと一つは食べないの? 大丈夫か?」


「うん。出てからがっかりするよりはましじゃない?」


「うん、好きにして。」


「よし!」 彼女は両手で手をたたきながら呼応する。 彼女の表情から心配と迷いが一瞬にして消える。


彼女はケーキ選びに夢中で、すぐ隣に店員がいることさえ気づかなかった。


「あ、すみません。」 彼はすぐにメニューに目を通し,チーズケーキを選ぶ。


彼はすぐにメニューを店員に見せ、チーズケーキとイチゴケーキを指さえた。飲み物は紅茶を2杯選んだ。


店員は注文を受けて席を立つ。


「もうじっと待つだけだ。」彼女は期待に満ちた表情であたりを見回す。


彼は特に話すこともなく、雰囲気がまた落ち着いた時、本屋で出会ったことを思い出す。


「何をそんなに深く考えるの?」彼女もやはり彼のぼんやりした表情を発見する。


「い…いや…何でもない。」彼も彼女の質問にすぐ正気に戻って手を振り回す。


「へえ… 口はそう言うけど、表情が全く事実じゃないって? 今日は少しおかしいんだけど? 何が問題なの? さっき文芸部室で争ったことが気になるの? それとも?本屋で会った女の子が気になるの?」二つのうちどちらかは確かだ。もしかしたら、二人とも気になるのかもしれない。


「えっと、実は…」今日あった出来事を振り返りながら、言葉に詰まる。


「本当ですか? 何か他に気になることがあるんじゃないの?」 彼がいくら隠そうとしても明らかな問題だ。 余計な言い訳で言い繕おうとしても決してだまされないと固く誓う。


「知らない!」 彼は目をそむけて返事を避けようとする。


「あ!なんで…避けるの?」 彼女は眉をひそめてがっかりしている。 彼の内心が明らかに見えるにもかかわらず、いざ彼が自分に正直になれないのが残念なだけだ。


「これは絶対秘密だよ。 ケーキをなぜ私が買ってあげるのか忘れていないの?」 彼は彼女が約束を破って書店であったことを誰かに打ち明けるのではないかと不安だ。


「もちろん秘密にしてあげないと! これがどれくらい続くかはわかりませんが…」彼女は内心気になることがあってとても確信に満ちた返事をすることができない。 彼女は彼が疑っていることを発見し,その意図でこのようなことを言ったわけではないと主張する。 無意味な誤解は起こしたくない。 これがかえって彼が自分自身に率直になれないようにすると、彼女はよく知っているからだ。 彼のためにも彼女のためにもいいことはない。


「どういうこと?」 彼は漠然とした不安に襲われて眉をひそめる。 彼はいざ彼女が心配していることが何なのか分からずに首をかしげる。


「その女の子のカバンに付いているキーホルダーのマークを見た?」


「いいえ。」 彼は当時の記憶を振り返ろうと頭を絞り出すが、ただ謝ったことだけを思い出す。 困った状況を収拾するのに汲々として、そんなことまで気にすることができなかった。


「私もちらっと見て確信は持てないけど、うちの学校のマークがついたキーホルダーだったよ。」 彼女はその少女が自分の学校の生徒かもしれないと考えている。 もしそうなら、再び偶然会うかもしれないかもしれない。 荒唐無稽な期待かもしれないが、本当の必然かもしれない。 これがその約束に向けた意志を揺さぶる一種の変数なのだ。


「あ、入学する時にあげるキーホルダーのことだよね?」 彼もやはり自分がこの学校に入学する時に記念としてもらったキーホルダーを思い出す。 相変わらずランドセルにかかっている。 敢えていつもつけて通う必要はないと明らかに知っているが、彼自らその事実を表に出しながら同校の生徒という一種の所属感を楽しむのかもしれない。


「ああ、覚えているかい?」 彼女は彼がキーホルダーをすでに捨てたと思ったが、まだ持っているのが意外だ。


「何だ、その反応は? まるで当然忘れてしまっただろうという表情。 まだ私のランドセルにかかっているって!」 特に興奮することではないと知りながらも、同校の生徒だという点に自負心を感じる彼は、その答えがやはり気に入らない。


「あ…わかった。 ごめん。」 彼女は彼が気分を害したことに気づき,急いで謝罪する。


「それでは君のキーホルダーはどこにあるの?」 彼は依然として気分が良くならないので眉をひそめて尋ねる。


「私?当然、ここのランドセル。」 彼女は隣のランドセルを持ち上げて、彼にキーホルダーを見せる。


「え?」 彼女はその瞬間、自然の時計の針が故障したかのように行動を止めるしかない。 自信にあふれる態度にふさわしくないように、いざランドセルにはキーホルダーがついていないので慌てて頭の中が真っ白になる。


「どこ?見えないんだけど? 透明でもあるの? 私だけ見られないのか?」 彼は顔をランドセルの方に近づけて問い返す。


「なぜ…ないの?」どれほど当惑することか彼女の表情にそっくり現れる。


「彼は君がなくしたからそうではないのか?」今の状況が荒唐無稽なのは彼もやはり同じだ。 「失った当事者がなぜいないのか」と問い返しているのだから、極めて当然のことを言うしかない。


「そんなはずがない。 いつもつけていたのに。」彼女は同じことをつぶやきながら頭を掻く。


「どこに?目を洗ってみても何もないね。 ただ失くしただけだよ。」


「あ…どこに消えたの?」


「どうかな?」


「貴方が持って行ったのではないか?」彼女が無念の気持ちで彼を睨みつける。


「私がそれをどうして持っていくの?」じっとしていて余計な疑いを受けるから悔しいだけだ。


「そうだね…だろう?」 彼がかっとなるのを見て、自分が感情に勝てなくてした虚しい妄想が恥ずかしくなる。


彼はそんなに混乱している彼女をじっと見ていて,キーホルダーのせいで突然おかしくなった雰囲気を変えようとする。


「それにしても…確か?うちの学校の生徒だというのは?」 彼もやはり感情を抑えようとしています。 かっと叫んだことが訳もなく恥ずかしくてはまるで何もしなかったかのように平然と対話を本来意図した方向に回そうとする。


そんな劇的な偶然が本当に現実に起こらないという保障はないが、希薄な可能性に頼りたいとは思わない。 本当に事実なら、これは単なる偶然ではなく、最初から互いにパズルのピースのように組まれた必然なのだ。


「まだそこまで知らない。」 そんな単純で些細な証拠だけで我が学校の学生だと確信するには無理がある。 同じ学校に通う生徒に偶然会ったかも知れないという考えで嬉しい限りの紗耶香も、やはり今はこれが単なる推測に過ぎないと思わざるを得ない。 残念だが、今のところこれ以外に特に証拠として掲げるものはない。


まさにその瞬間に注文したケーキが出てくる。


「わあ!」 彼女はケーキを見るやいなや目が変わる。 ケーキの甘い香りが彼女の表情に溶け込んでいる心配さえ溶かしてしまう。 期待感とともにフォークを手に取り、大きくケーキをすくって口に入れる。両頬にケーキを詰めながら喜びの笑みを浮かべる。


彼はまだぼんやりとした表情で考え込んでいる。 フォークを持つどころか、宙ばかり見つめている。 ケーキには興味がないようだ。


彼女は何か言いたいのですが、口いっぱいのケーキのせいでどうしても口を開けられない。 口がむずむずするだけだ。 ケーキの塊をごくりと飲み込んで紅茶を飲む。


「まだその考えだけ続けているの?」 とため息をついてから落ち着いた口調で話しかける。


「見たところ本を読むのも好きなようだが。 後で会って私たちの部に入ってくれば、これもそれなりの縁ではないか?」 事実ならいい偶然であり、そうでなければただの錯覚と考えればいい。 こんな偶然はその時になって喜んでも遅くなさそうだ。 彼女も彼がこれを肯定的に受け止めてくれることを願うばかりだ。


「本当に、小説みたいな話だね。」 彼は依然として冷ややかな表情と口調で答える。 同じ学校の生徒であろうとなかろうと、すぐには何の意味もない。 本が好きな人だということに小さな同質感を感じるだけだ。 偶然のように感じられるほど素晴らしい偶然を努めて無視しようとする。 本当に必然なら、後で特別なきっかけでまた会えるだろう。


彼はすぐにフォークを手に取り,ケーキをすくい、口の中に押し込む。 紅茶をもしそうなら、再び偶然会うかもしれない。 ため息を大きくつくと、頭の中も一層きれいになるようだ。


彼女はざわざわと騒ぐが、彼の耳に入らない。 詩らしくないおしゃべりには無関心になるだけだ。彼はまるで壁と話しているかのように、魂のない返事を続けた。


彼は彼女とケーキ屋を出た。 おかしな偶然に無駄な意味づけをするので、すべてが面倒に感じられるだけだ。 今日一日あったことをじっくり振り返ってみると、疲れた悩みに苦しむのが全てだった。 精神的に疲れないのがかえっておかしいのだ。彼女はまだ行きたいところがあるようだが、彼はただ家で休みたいだ。 不満に満ちた彼女の視線を無視して、この辺で次の機会を約束する。 ちょっと申し訳ない話だが、仕方のない選択だ。 勝てないふりをしてついて行ったところで、まともに楽しむこともできないようだ。 彼女もやはりがっかりするだろう。


「この辺で各自の家に帰ろう。 疲れているね。」彼は何事も面倒くさそうに眉をひそめる。彼女の期待に応えられないのは申し訳ないが、一日中彼女に付き合うわけにはいかない。 今は自分の意思を尊重する時だ。


「うーん。」彼女は不満が残っているので肯定的に受け入れられない。 彼女の表情に物足りなさがそのままにじみ出ている。


「後でまた一緒に歩き回る機会があるだろう。」 彼は努めて平気なふりをしようとする。 このような懇願に心が弱くなれば、彼女はもっと未練を残すだろう。 むしろこのように何ともないように答えた方がすっきりする。


「うん、そうだね。」いう気持ちで訳もなく彼を他の場所に連れて行っても特に面白くなさそうだ。 お互いに気を悪くするのは明らかだ。


「よし。また会おう!」彼もやはりこのように送るのが申し訳ないだけだ。 彼女が去る後ろ姿をしばらく眺めてから足を向ける。

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