23 早朝 (終)
目が覚めて。
遠くで何やら鳥が鳴いていて。
近藤さんの部屋で一晩過ごしたことに気付いて。
寮の狭い一人用のベッドで男二人眠ると身を寄せるしかない。
近藤さんの腕の中でおはようのキス、というか、がっつりディープなキスをして。
まだ誰も起き出さない時間のうちに僕は自分の部屋に帰ってきた。
松川に連絡をしなかったから、心配してるか怒ってるか。一晩部屋を空けるなんて寮の規則違反だ。
桜野さんに呼ばれた時のことも話しておかないといけないと思うし、ちゃんと謝らないといけない。
ドアを開けると、人が二人いて。
「すみませんっ、間違えました」
つまり自分の部屋のドアを開けたつもりが別の部屋を開けていたようですぐさま閉めた。失礼極まりない。早朝から僕は何やってるんだ。鍵がかかっていてもおかしくない時間なのに。
「違う! 市原、合ってるよ」
閉めたドアが再び開いて、松川が顔を出した。
え?
でも人が。僕がいないのだから、部屋に人影は一つしかないはずなのに。
……あ!?
「ああっ!」
みんな眠ってるだろう早朝の廊下、大きな声はもちろん出せないのだけど。松川が開けたドアの向こうに、僕と松川の部屋の中に、桜野さんが、いた。
ええ……え。ああ……。
服をきちんと着てはいた。桜野さんも松川も。
「おはよう、エツミちゃん。大人の階段おめでとう」
部屋の中に入ると、松川の椅子に座っていた桜野さんが満面の笑みで僕を見た。この人、昨日の晩、ここで寝たのか。松川と。寝たというか、眠ったというか、ええと……。
それを僕が咎めることは当然できないけど、やっぱり生々しい。
「おはようございます。あー……それ、は……」
歯切れが悪い僕に桜野さんは眉をひそめる。
「やってないの?」
……そんな露骨に。
「え、っと……その……」
「まさか、おてて繋いですやすや眠りましたで終わり?」
「いえっ」
思わず否定に力が入ってしまって。何だかそれでは近藤さんの沽券が……実際そうではないし。
「ふうん、で?」
よくよく考えればニコニコと促すこの人に話す必要はない。僕は何を言われてもいいけど近藤さんは。
「あの……最後僕が眠ってしまって……」
実は、いざ動かん(近藤さん談)という時に僕が寝落ちてしまったようで、近藤さんもそこで諦めたらしい。申し訳なくて情けなくて。
「半分ってわけか」
松川まで……。そりゃ上級者で、先輩だろうけど。
「それでも。よかったね、エツミちゃん。あの時は意地悪なこと言ってごめんね」
桜野さんは済まなそうな顔をした。
「いえ……本当のことなので」
「そんなことないよ、違うってことをちゃんと証明したんだから。和臣君てさ、面食いな上にエッチはねちこいみたいだから、覚悟したほうがいいよ」
……その片鱗はもう経験した気がする。
「余計なことを吹き込まないでください」
わ。
ドアがノックなしに開いていて、近藤さんが立っていた。
「……お前、ネクタイ忘れてっただろ」
言葉の通り、その手には大雑把にたたまれたネクタイがあって。
あ。首元を触ると確かにノータイだった。
「ありがとうございます……」
わざわざ持ってきてくれた近藤さんに礼を言う。今日は学校は休みだから急いで持ってきてくれることもなかったのだけど。鍵に続いて忘れ物を持ってきてくれたのは二度目だ。しかも二度とも僕は無いことに気付いていなかったという間抜けっぷり。
「近藤さん、俺、すみませんでした」
僕の横に立った松川が直角に頭を下げた。謝りたいと言ってたから。
「お前は悪くない。だから謝るな」
近藤さんは穏やかな声でそう言って、松川の頭をぽんと軽く触れた。
……僕は別に。それが羨ましかったわけではない。松川の肩の荷が下りればそれでいいのだから。うん。
「面子揃ったし、この後みんなでご飯行く?」
「えっ!?」
とは松川。
「なんてね、いつかそういう日が来るといいね」
桜野さんはにっこり笑った。
「じゃあ、俺と飯行きますか?」
「そうだね。エツミちゃんは陽人と後から来るといいよ」
……もう少しだけ僕たちの関係は内緒で。
だけど背中合わせの食事も悪くない。
終
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます