兄(4)

「うわあああ〜ッ‼」

「お前なら出来る筈だ。出来ねば……お前は、もう、どこの家の子供でも無い。お前の本当の父親に恥をかかすな」

 魔力・霊力・気、なんと呼んでもいいが、その手の「力」を検知する能力が無い俺でも……体が、どんどん、ダルくなるのは判った。

 どうやら、父や祖父や親類達は、俺を新しい弟の「霊力袋」にするつもりらしい。

 膨大な霊力を持ちながら、自分の力を認識する事も操る事も出来ない俺と、霊力は、俺に遥かに劣るが、霊力を操る技術については、そこそこ以上になるであろう弟。

 それを組合せて、いわば「2人で1人の術者」を生み出すつもりだったらしい。

 いや、あわよくば、俺の霊力を弟が完全に奪い、俺は「原因不明の急死」をしてくれたら、一族にとっては御の字だったのかも知れない。

 まぁ、「使(居るとすればだが)

 しかし、初日から父親や祖父の目論見通りにはいかなかったようだ。

 俺の霊力は、余りにバカデカいらしく……新しい弟は、俺から奪った力を巧く制御出来ていないらしい。

 父や祖父の視線を見る限り……何か、とんでもない事が起きているようだが、その手の力を……自分自身のものであっても……認識出来ない俺には、何が起きているか、全く理解出来ない。

 ……いや、推測さえも無理だ。

「先は長い。いつかは出来るようになる筈だ。もう2人とも休め」

 お互いに何を話せばいいか判らないまま、俺と新しい弟は……修行場を兼ねた離れを出る。

 台所では、母親が夕食の用意をしていた。

 本当の母親ではない……感情をめったに出さない……必要ない事は何も口にしない……そんな女だった。

 後になって思えば……感情が枯れ果てていたのかも知れない。

 けれど……何かが変だと、すぐに気付いた。

 妹が居なくなり、弟がやって来た。

 家の人数は……差引ゼロの筈だ。

 でも……用意された食事は……1つ足りない。

「貴方は、今日から別に食べてね。貴方の部屋に、もう、持って言ってるわ。食べ終ったら、台所に持って来て」

 大人になってから気付いた事が有る。

 母(養母だが)のような、絵に描いた「女言葉」を使う女には……現実で出会った事が無かった。

 全て、作り話の中の登場人物だけだった……母のような話し方をするのは……。

 地獄のようだと思っていたが……それでも、我が家だと信じてきた場所が……まるで、全く知らない場所のように思えた。

 俺の部屋に用意された食事は……弟の為に用意された食事よりも品数が少なく……そして冷え切っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔導狂犬録:BELIEVER @HasumiChouji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ