第13話 教育を受けた豚共(鬼系)
「今後、俺達の仲間のモンスターを強くして行く必要がある」
「そもそもそんな雑魚共なんて必要ございません。私一人いれば輝夜様の護衛から下のお世話まで、十分でございます」
「後半は聞かなかった事にして。仲間は多い方が良い。富川家と派閥争いした相手も当然貴族。敵は相当多い。戦争、なんて事に万が一があったらユイ一人じゃ不安だ」
「その時は逃げましょう。全てを捨てて。私達なら地上でも⋯⋯」
俺がそんな事絶対にしないと分かっている唯華は途中で言葉を止めた。
「出過ぎた事を。申し訳ございません」
「いや、大丈夫。そんな事で目くじらは立てない」
「それはダメです。メイドの分際で偉そうな口を開くな。この雌豚め、と罵りながら鞭打ちするべきだと私は思います」
「思わん」
閑話休題。
モンスターを強くするために唯華には剣術を教えて貰いたいと考えている。
彼女は我が父から色々と武術を教わっている。幼い頃から身体能力は大人を軽く超えている彼女は武芸の才能があった。
俺も多少は教えられていたが、才能は無くて知識の方を優先させられた。
俺のアビリティはモンスターを仲間にして戦って貰う事を得意としているため、知識は重要となる。
「どうかな?」
「輝夜様になら手取り足取りあんな事やこんな事を教えても構いせんが、それ以外は嫌です。ぶっちゃけ面倒です。輝夜様の傍にいたいです」
「素直だなおい」
今回はおしおきを望んでの発言では無く、本音だろう。
唯華は他者に基本興味が無い。
そんな彼女を説得するのは難しいだろう。
「どうしたら教えてくれる?」
「脱ぎたてパンツを毎日嗅がせてください」
「⋯⋯い」
凄く嫌。しかし、モンスターを強くするには技を教えるのが手っ取り早いだろう。
その為にはきちんと教えられた唯華が適任。
ここは俺の感情を噛み殺して、お願いするべきだろう。
「わ、分かった」
「あと、毎日おしおきしてください」
「条件は一つだけだ。そうじゃないと等価交換にならない」
「相手は複数ですから一人頭の条件で良いと思いますけどね」
「うぐっ」
こちらが怯むと、微かに口角を上げて微笑んだ。
何が楽しいのか分からないが、楽しそうな唯華は最初の条件で引き受けてくれた。
まぁ、身体を洗う日や洗濯の日を決めてるから毎日提出する必要は無い。
数日後、地上に向かって俺達は配信を始めていた。
なので、当然俺はゼラモードとなっている。
「視聴者の皆、こんにちは。ゼラ様とメリーの配信が始まりまーす」
ものすっごく適当な挨拶を唯華がした。
“ゼラ様の下僕参上!”
“今回は何するの?”
“おしおき会議?”
“どうもアンチです”
“初見”
“つまんなそう”
“最近うちの地区で流行り始めてる”
“早くしろ”
「ゼラ様に下僕は必要ない、失せろ」
「止めんか!」
唯華がコメントに対してぶち切れたので宥める。
今回もコンセプトは同じように進めて行く予定だ。
唯華がミスをしたらそれをおしおきしながら叱る⋯⋯問題があるとすればその頻度がくっそ高い事だろう。
⋯⋯なので対策を用意してみた。
「今回はせっかく仲間にしたんだから、働いて貰うわよ」
俺は前回仲間にしたゴブリンを召喚する。
現れたゴブリンの身長は平均的な大人並になっており、大きくなっていた。
かなりの巨体となったゴブリン達。同じ目線だった彼らがいない。
「⋯⋯ご、ゴブリン達は? な、なんか目の前に、お、おお、オーガが見えるんですけど?」
“ゼラ様涙目”
“ビビりやん”
“急に目の前にオーガが現れたら子供は誰でも泣く”
“地上に子供は行けない定期”
唯華に震える声で質問する。
「⋯⋯えっと。確か⋯⋯」
唯華は視線をあちこちに向けて、思い出したように手の平に拳をポンっと押し当てた。
「数日間みっちり特訓したらいつの間にか大きくなってました」
「そんな超適当な説明で納得できるか!」
“それな”
“同感”
“てかモンスターに訓練してたんだ”
“人間並みの知能がついたら厄介では?”
“大丈夫だと信じたい”
“メイドさん並に強くなるのかな?”
“流石に無理だろ”
“言うてオーガ”
“ゴブリンの進化系ってオーガだっけ?”
“一応ゴブリンも鬼の系譜だから進化先である”
“でもゴブリンの次ってホブじゃなかったけ?”
“その後に進化したんじゃね?”
“ペースが速い”
“何か特別な方法でも知ってるの?”
“くっそ知りたい”
“教えろ”
ゴブリンかと思ったらオーガが出て来た。
流石に驚いた。
管理世界への扉を開いて唯華に色々と任せきっりだったのが悪かったか。
定期的に俺も顔を出さないとな。信頼関係も必要だし。
「そ、それじゃ⋯⋯移動を⋯⋯」
オーガ達は俺に尻を向けて四つん這いになった。まるで叩いて欲しいと言っているようだ。
その中心には唯華がおり、同じように四つん這いになっている。
「⋯⋯ふぅ。移動しよっか」
俺は精一杯の明るい笑顔を作り、彼らの懇願を無視した。
オーガの肩は広くて、かなり安定する。
少女の欠点である足の遅さが解消されて少しありがたい。
「移動が得意なモンスターを仲間にしたいなぁ」
「それだったら突起物のあるようなモンスターが⋯⋯」
「乗るのに不便そうだから却下」
「うぅ。⋯⋯あの、ゼラ様。少しよろしいですか?」
「何?」
「どうして私はロープで縛られ荷物のように運ばれているのでしょうか。あ、もちろん嬉しいですよ。ただ少し、ショーツの方が濡れて来まして」
「換装すれば良いでしょ」
俺を乗せて歩くオーガを斬り殺さん勢いだったから、ロープで縛って別のオーガに運ばせている。
唯華なら力尽くで引きちぎる事もできるが、嬉しそうなのでそんな事しないだろう。
モンスターを探してオーガ達と戦わせたいが、中々見当たらない。
「お?」
そんな事を考えていると、遠くにオーガと同様の影を発見する。
団地があった場所なのだろうか。区切られた土地が多い場所だった。
瓦礫の上に集まっているモンスターはオーガ達で、仲間のオーガ達が反応した。
それは怒りに近い感情だった。瞳の奥に燃え煮える憎しみが見える。
「メリー、オーガ達でアイツら倒せる?」
「⋯⋯可能かと思います」
「そう。オーガ達、やっておしまい! ゼラ様に恥をかかせたらタダじゃおかないんだからね!」
そんな事を言うと、動きがぎこちなくなるオーガ達。
それを見た唯華が一言。
「分かるっ!」
「分かるな!」
と言うか、いつの間にか普通に脱出してロープをしまってやがる。
オーガとオーガの戦いは中々に見応えがあった。
“いつの間にかテイマー配信者になった?”
“メイドさんの活躍が観たい”
“もう止めろオーガ”
“メイドさんが倒しておしおきされる所を観たい”
“なんか違う”
“そうじゃないだろ”
“つまんね”
“意味不明”
オーガ達はダメージを負いながらもなんとか勝利して、雄叫びをあげた。
俺は金が稼げるし十分かな。かなり楽かもしれん。
しかし、あの怒りの感情はなんだったのだろうか。少し不思議である。
だが、勝利に喜んでいる彼らを見るのは気分が良いな。
「まぁ、ゼラは何もしてないけど」
「ゼラ様、如何なさいましたか?」
「ううん。ただ、ありがとうって思っただけ」
「ん?」
喜びを味わっていたオーガ達の前に肌が赤いオーガが現れた。
一瞬で場を凍らせる威圧感を放つオーガ。
「レッドオーガ⋯⋯オーガの亜種か。まずいな。全員引け!」
レッドオーガはCランクに分類される。オーガとは一つランクが違う。
それだけで勝ち目は薄い。
人数が多くても連携の訓練はしてないだろうし、不利だ。
「グオオオオオオ!」
「ッ!」
レッドオーガの咆哮が俺の心臓を捕まえた。
それはオーガ達も同様の用で、一歩も動けずにいる。
一番レッドオーガと近かった仲間に奴が手に持っていた金棒が振るわれる。
「ゼラ様の所有物を壊すのはメイドとして許容できませんね」
誰もがビビって動けない中、唯華だけは素早く反応してオーガを助けた。
「この程度の相手に怖気付くとは⋯⋯まだまだ教育が足らないようですね。ゼラ様に恥をかかせる事を私が許さない、魂に刻め」
オーガを睨む唯華。彼女が一番怖い。
「⋯⋯ゼラ様、この豚モドキを処理してもよろしいでしょうか?」
「豚もどきって⋯⋯良いよ!」
「それでは⋯⋯ふんっ!」
唯華の拳がレッドオーガの身体を粉砕した。
“メイドパンチ!”
“ワンパンだ!”
“やっぱメイドさんよね!”
“今回は純粋にカッコイイね!”
唯華は俺の前まで来て、鼻をスンスンと鳴らした。
「⋯⋯もら」
「してない!」
「おしおき⋯⋯」
「しないっ!」
「そんな⋯⋯」
「悲しむなっ!」
◆あとがき◆
お読みいただきありがとうございます
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます