第44話

 店構えから考えて、地元の人達の憩いの場と言ったところだろうか?


 店内には壁一面に立派な書架があり、まるで図書館の中に喫茶店があるように感じる。

 店の中央には二つのソファーと一台のピアノが置かれている。


 スマホで調べて見るとこう言う本がいっぱい置いてある喫茶店のことを『ブックカフェ』と言うらしい。

 それに加えて店員さんの服装は『ディアンドル』と呼ばれる。ドイツ南部のバイエルン~イタリアのアルプス地域の民族衣装だそうだ。


「これ内線じゃないわ。あのレコードから出てるみたいね」


 ドゥさんが指差した方向には、昭和レトロを感じさせる一台のレコードプレーヤーが鎮座している。

 近づいて見て見ると、どうやら昔からある機械のようでお金を入れて番号を押すと好みの音楽が流れる仕組みになっているようだ。


「へー、ブックカフェとジャズ喫茶の融合って感じか……」


「……何と言うかあたしたちには場違いって感じがするわね」


「そうだな……」


「それにしても意外だわ。だって勇気くんってあまり冒険しない性質たちでしょ?」


「よくわかったな」


「何度か勇気くんと食事をしているけれど、味の想像がつかないようなメニューを頼んでいないもの」


「そう言えばそうだな……ハラミステーキ、唐揚げ……言われてみれば無難だ……」


「軽く食べると言っても勇気くん……いえ、食べ柄盛りの高校生ならラーメン屋とか中華料理屋で小を頼めばいいと考えるのでしょうけど、私に配慮して喫茶にしてくれたんでしょ?」


「一人で失敗すると洒落にならないけど、二人で失敗したら笑い話になるからな……」


「何よそれ……」


「こちらメニュー表ですごゆっくりどうぞ」


 お冷とおしぼりとメニュー表が置かれる。

 店員さんは僕達とあまり年齢が変わらないように見える。学生のバイトだろうか?


「店員さん若かったね」


 僕の視線に気づいてかどうかは判らないが、バレている前提で動いた方が良さそうだ。


「そうだな……僕達とそんな変わらないんじゃないかな?」


 無性に喉が渇いてしまってお冷を口にする。


「ふーんならいいんだけど……」


 そう言うとドゥさんメニュー表を開き眺めている。

 どうやら悩んでいるようだった。


「僕は無難にソフトドリンクとトーストにしようかな?」


「パスタとかホットケーキもあるみたいだよ?」


 確かに昔ながらの喫茶店ならそう言う割としっかりしたメニューは多いのかもしれない。


「このお店『モーニング』あるみたいだよ?」


 『モーニング』とは名古屋発祥のチェーンで一躍有名になったものだったハズ……発祥の地も愛知県の一宮と豊橋説がある。

 コーヒー一杯でトーストやゆで卵と言った朝食が付いて来るサービスだ。


「もう昼過ぎだっていうのに気前のいい店だな……」


「ホントだね……」


ドゥさん、とりあえず冷たいカフェオレが飲みたいって言ってなかったか?」


「そう思ってたんだけど、ドリンクのメニュー見たらどれも美味しそうで……」


「なるほどな。確かに種類もたくさんあるし、これは目移りするのも仕方ないな」


「あたしブレンドコーヒーとパンケーキにしようかな?」


「ガッツリ食べてもいいか?」


「遠慮せずに食べなよ男の子だし……」


「じゃあ……」


 メニュー表を借りてページをめくる。

 手羽先、味噌カツ、味噌煮込みうどん、カレーうどんやあんかけスパゲティ、おでんなど店主がもしかしたら愛知県民なのだろうか? 名古屋走りされそうで怖い。


「デミグラスハンバーグとブレンドコーヒーにしようかな?」


 注文を通すと他愛のない話を続ける。

 その内に店員さんが注文した商品を持ってきてくれた。


「凄い厚み」


 ドゥさんが注文したのはパンケーキ。

 ふわっふわっパンケーキと言う名前に恥じることのない厚みのパンケーキの上にはバターとメープルシロップがたっぷりとかかっている。


 デミグラスハンバーグは鉄板の上でじゅうじゅうと焼き音を立てており大変美味しそうだ。


「コーヒーもすぐにお持ちします」


 コーヒーを注文しているためか、サラダとトーストが半分乗ったお皿も配膳される。


「凄いな……」


 圧倒的なボリュームに気圧される。


「写真とってインスターとSNSに投稿しよ」


 スマホを取り出すと、パンケーキを撮影して直ぐにSNSに投稿する。

 一通り写真を撮ると互いにナイフとフォークで食事を始める。


「美味しい。ふわわわで生地自体に優しいあまさもあってもうたまんない!」


 デミグラスソースは濃いめで添え物のフライドポテトやブロッコリー、人参もデミグラスソースが美味しく食べさせてくれる。

 家の近くに欲しかった。


食事を終える頃にコーヒーを持って来てくれた。


「凄くいい香りね」


「仄かにフルーティーな香りもする」


 香りでコーヒーを一通り楽しむとマグカップに口を付け一息つく。


美味い。


 焙煎の度合が良いのか旨味のある苦味の後に仄かな甘みを感じた後には、フルーツっぽい少し青臭い匂いが鼻腔に抜けとても飲みやすい。

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