第20話 逃避行(3)
最後に話すのは僕の番だった。ここまでの感情をいれるのがむずかしい話で、今までの事務的なやりとりでは拾えなかった学習もあってか、聞き取り能力はだいぶ向上したと思う。しゃべるほうもけんさくくんがカンペのように言葉を教えてくれるのでそれを頑張って口にするだけだ。ネイティブの発音に近づけるのはそれでもむずかしい。
さて、何をどう話せばいいのか。みんな興味津々で見ている。ダルドも無関心を装いきれていない。
「キチは遠いところから、きた」
うんうんそれから、と促される、まあ言葉が通じなかった時点でそれはわかってるよね。
「ある日、そこからとても強い人が連れてこられた。自分はたまたまその人の近くいた。一緒に連れてこられた」
この発言に彼らはざわざわしはじめた。
「リド、朽木屋敷のじいちゃに聞いたことがある。どこからともなく迷い込む英雄がいるって。キチは英雄? 」
「英雄は連れてこられた強い人。キチは彼女に助けられてるところを一緒に連れてこられた普通の人」
ああ、ここは嘘もいいとこだな。でも悪の秘密結社だとか末端戦闘員だとか説明してもわからないし、たぶん意味がない。
「キチみたいな人が普通なの? 」
クルルが質問する。言いたいことはわかる。毒茸を食うし、中毒性のある魔物の肉を好んで食べるし、最初はアストラル体なんかみえなかったのに今ははみだしてるし、しかも蹴るとなんかそれが強くなってるし。彼女は見ていたよな。
「君たちと何もかわってはいない。ただ、死なない程度にひどい目に合うと、普通より早く回復して強くなったりするようになってた」
六地蔵のことはいわないでおこう。この国では彼らは邪神あつかいでした、だと大変だ。
「キチのいたところではどんな作物を作ってたの? 」
カザンが無邪気に空気も読まずに質問してきた。さすがお子様だ。ダルドがさらなる無関心を装うのだけど、少しわざとらしい。
小学校の授業でならったバイオプラントの説明をすることになるけど、うまくやれるかな。
いいサンプルとして、着火具があった。これはクルル達も普通に使っていて、原理はともかく「こういうもの」で機械装置の存在を説明することができた。
で、機械装置の動力源として魔力でない何かを利用していることを説明。
「こういうものがたくさんあるのがキチのいたところだよ」
子供たちは信じられないという反応と、素直にすごいと思う反応を見せた。
着火具のような魔法具が当たり前にたくさんあるのは裕福な貴族や商人なので、僕のいたところは金持ちばかりかと思われたようだ。
まあ、大企業を大商人として、大貴族、大商人がそういう魔法装置みたいなので食べられるものを作ってるという説明には彼らもわかったようなわからんような顔をした。
「それで、どんなのを作っているんだ? 」
結局、そこで作っているものが伝統的な農業のどんな作物だったのかことこまかに説明させられることになった。
「キチはなにをしていたんだ? 」
カザンが寝てしまって、そろそろ寝ようかという頃合いになって、農作物談義がようやく終わりを迎えるとクルルがずっとあたためてたらしい質問を持ち出してきた。
「盗人も多いところだったからね。商人の一人に見回りの警備として雇われていた」
少し考えて、彼女にわかりやすいようそう説明した。
「なるほど、それで少し心得があるのね」
正規戦闘員や特戦隊にくらべると遊びみたいなものだけどね。
それでもう少し強くなったほうがいいかな、と思ったのでクルルに蹴ってくれと頼んでみたが、断られた。
この日は気づかなかったが、おたがい打ち明け話をしたことで会話はかなり流暢になったと思う。けんさくくんの補助ありきではあるが。
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