第9話 関係構築(1)

 それからしばらく、僕は彼らのおもちゃだった。

 日数にして、二日ほどだが、僕をどうするか彼らは相談しているようだ。その間にも腹は減るし、厠も行きたくなる。その間だけ、部分的に縛めをほどいてくれるのだが、変なことをすれば蹴るとあの少女が構えていてどうも緊張する。

 この子供ばかりの四人、どうやら村の生き残りらしい。親が時間を稼いで逃げた。そんなところだろう。最初に覚えた現地語は彼らの名前だった。意味はわからない。

 少女はクルル、少年はダルド、小さいほうの少女はリド、小さいほうの少年はカザンで、クルル以外はきょうだいらしい。僕も名前を名乗ったが、吉之助という少し古風な名前が長すぎるらしく、彼らにはキチと呼ばれている。

「キチ、食べ物」

 さらに単語のいくつかがわかるようになったが、彼らがさしだしてくるのは毒茸など毒のあるものばかり。一度食べたものはよほど毒性が強くないかぎり平気になるんだが、初めて、あるいは毒の強いものならうんうん苦しむことになる。それを見て小さい少年少女は目をきらきらさせて、たぶん「すごい」といってる。クソガキめ。

 暴力は捕まったときからこれまでさらに二回あった。どっちも逃げようとした、あるいはリドになにかしようとした、と誤解されて反射的にけられたり、殴られたもの。クルルの攻撃はプロボクサーのフィニッシュなみに痛い。

 いや、プロボクサーに殴られたことはないけど。

 信じられないことに、彼女になぐられて超回復が働いたようなのだ。

 回数ごとに痛さが減ってきて、最後はうっとうめくくらいで済むようになってきた。

 何が、と思ったが最初に蹴られた時、ぼんやりみえていたもの。彼女の足をおおうライトグリーンのものが、自分の体からも少しはみだしているのに気づいたときにどうもこれがダメージを受けて超回復しているのだとさとった。

 いやこれ本当になんなんだ。

 ぼんやりしか見えてなかったそれが、クルルの全身を靄のように覆ってるのが見えるようになったし、蹴るぞのポーズをとるとそれがつま先でとがって硬そうな形状に変わるのも見た。

 これ、なんだろう。

 どうもクルルにも見えるらしく、僕のほうをガン見して首をかしげているのを見た。それ以来、蹴るしぐさはするが実際に蹴ったり殴ったりはしてこない。

 もしかすると、これが彼女の蹴りの威力の源なのかもしれない。

 違う世界には違う法則があると無理に思うしかなかった。

 オカルト用語だが、このライトグリーンのもやもやをアストラル体とよぶことにする。これでどこまでできるかわからないが、痛い蹴りを放つことができるのと、超回復したことから、相手のアストラル体にダメージを与えることはわかった。

 アストラル体が体からはみ出るほどになっているのは見たところクルルだけだ。見えるようになったのは彼女に蹴られてからだから、大人はどうなのかわからない。

 確かなのは、僕に彼女のそれが見えるなら、彼女にもそれができるはずだということだ。超回復で、ほとんどなかったのがはみ出すくらいになるのを見たのなら、むやみになぐらないほうがいいと思うだろう。

 使い方はわからないが、物理的なものにも影響を与えることができるのは殴る蹴るで体験済だ。これ、縛めを力技でほどいたりできやしないだろうか。

 …いや、やり方がわからん。

 クルルが蹴りの構えをとるときは、特になにかしている様子もないので、意識して制御できそうなんだが。

 たぶん何をしているか理解しているクルルが寝静まるのを待っていろいろ試してみた。

 最初はいろいろイメージしてやってみたが、うまくいかない。鋭利な刃物のイメージ、盛り上がる筋肉のイメージ、イメージすることはどうも違うようだ。

 背中にくらった爆発、アストラル体でやったことなら火とか出せるんじゃないだろうか。肉体強化でないほうのイメージも試してみたが、ほんのり温かくなるだけだった。この方針もまちがってないのかもしれないが、練習か、アストラル体のさらなる強化か、いずれにしろ正しい指導がないとうっかりやけどすることになりそうな気がする。

 最後に、深呼吸して何も考えずに力を入れてみた。

 あっさり引きちぎれた…。

 もしかして、呼吸かもと思って足のほうは息を止めてためしてみるとちぎれない。はっと息をはいてぐっと力をいれると…なるほど。

 自由になったところでそっと抜け出し、大きくのびをした。

 不自由な姿勢を二日だ。体がばきばきいっている。

 さて、これからどうしようか。

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