第4話 異世界へ

 考えれば、どっちも強力な特典だ。

 超回復はザコ戦闘員だった僕が強くなれる可能性を秘めている。毎回痛い思いをしないといけないという欠点があるが。

 そして強くなるとしても上限はないのかと聞くと、それがないのだという。

「強くなるほど死ににくくなるから、いずれ頭打ちであろう。そして死なないわけはないから、大きな脅威に殺されないというだけで難易度が高くなるであろう」

 不死は、強くなることはないが死なない。それだけで素敵な気もするが、回復までの時間は受けたダメージによって違うし、六地蔵はぞっとすることを言った。

「それに、死にたくなっても死ねない。おそらく発狂するだろう」

 これはなかなかの究極の選択だ。

 結局、僕は超回復を選んだ。

 炎の色が赤くなった。

「では、歩み入り給え。超回復の能力を与え、地上に送り届けよう」

 行く場所は選べないらしい。

「最後に教えてもらってもいいか」

 国家特戦隊の彼女がどんな特典をもらったのか。

 簡単にだが教えてもらえた。

 彼女の受け取ったのは四つ、肉体的損傷が今の状態に戻る現状回復、共通語とされる主な言語を習得する言語理解、損傷ではなく動力の損耗を回復する動力回復、そして容量は大き目のスーツケースくらいだが、重量の負荷もない自由にあけしめできる収納だそうだ。

 僕の超回復とちがって成長の見込みはないが、国家特戦隊は最高の技術をつめこんだ最強の体。十分に強い。収納もこういうお話にはテンプレだが、僕にはそなわっていないことになる。うらやましい。

 四つもあるので、彼女の使命は僕のより難易度が高そうだが、それは教えてもらえなかった。

「では、炎へ」

 うながされ、おっかなびっくり手を伸ばしてみても、案に相違して炎は熱くなかった。むしろなんかひんやりして気持ちいい。

 だが、安心して踏み込んだとたん。全身が熱くなって思わず悲鳴をあげた。

 どれくらい時間がたったかわからないが、意識を失っていたらしい。

 気が付くと、そこはもう異世界だった。

 そこは集落らしいが、どうもとっちらかったところだった。鍋や釜、桶やお玉、はしごやすだれが湿った土の路面に散らばっている。そして、なにかこわれる音が聞こえていた。

 赤いものが流れていることに気づいて、ようやく散らかっているもののなかに人の体だったものがいくつもあることに気づいた。老若男女逃げる背中から刺されたり切り付けられたりして朱にそまっている。すぐ横の漆喰の壁には血の花が咲いていてその真下には潰れた肌色の生き物の死骸がある。叩きつけられて死んだのだろう。それが赤ん坊だとわかるまで少し時間が必要だった。

 その前に喧噪に悲鳴がまじっていることに気づき、どこかで炎があがっているのがわかった。

 そこは、少し大きめの村だった。そして僕の目の前で虐殺が行われていたんだ。

 えらいところにほうりこまれた。

 酸鼻を極める現場に、胃がきゅうっとなったがそんなことより危機感が増して吐いたりは後でやることになった。

 この惨状を生み出した連中がまだいる。見つかると面倒だ。そいつらが普通の人間の暴漢程度だとしても数がいればやばい。

 慌てて僕は身をかがめ、建物の影にひそもうとした。

 が、少し遅かったらしい。

 毛皮のどてらを着た、洗髪なんかしてない固まったぼさぼさ頭に無精ひげの汚れた顔の男が二人、どうみても切れ味の悪そうな鉈や黒ずんだ染みのべったりついた棍棒を手に現れた。どてらの下は半裸で黄ばんだふんどしだけだったり、女物らしい明るい色の長じゅばんのようなものをまとっていたりする。

 どう見ても山賊か何かだ。

 背後から現れたものだから、隠れるのが少し遅かった。

 わからない言葉で何かいい交わしたかと思うとだっとかけてくる。友好を温める気じゃないのは振り上げた武器で明白だ。

 とりあえず身をまもらなければならない。自分でもってるのは警棒だけだが、リーチが圧倒的に足りないので、手近にあった鍬を手にして迎え撃った。

 連中の動きは常人のもののうえ、連携のようなものはまったくなかった。訓練の敵役の同僚よりぜんぜんとろくさい。おまけに臭い。風呂とかしらないのだろう。

 とりあえず、隙のおおきな右のじゅばん男を片付けた。訓練通りの動きをアレンジして頸椎に鍬の刃をつきたてたから当然死んだ。人を殺したのは初めてなんだけど、びっくりするほど何も感じなかった。改造されたときなんかされたのかもしれない。

 ふんどし男はためらいなく、流れるような動きで相棒を殺されて目を丸くした。

 そして飛び退って片手を口にそえてかんだかい鳥の鳴き声のような合図をだした。

 助けをよぶ合図だった。

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