時間逆行をして記憶があるのは何も貴女だけとは限りません

璃々丸

第1話前編

 遂に、悪女シュルヴィアを断頭台に送ることに成功した。



 己の欲望の為なら幼い子供ですら手に掛ける恐ろしい義姉は聖女として表では名を馳せていたが、悪事に手を染め過ぎた彼女は最後は神聖力を失くし、その力はミンミに現れた。

 そのお陰で、形勢を逆転させて恋仲であったこの国の第一王子ルーカス達と共に退治する事に成功した。



 これからはわたしがこの国で一番愛される聖女になるのね。



 シュルヴィアの名は地に落ち、今やその名は忌まわしいものとして誰も口にしない。

 これから向こう十年は腕輪と指輪の力で暫くは大丈夫だとミンミはにんまりとほくそえんだ。



 彼女の右腕とその中指にある華奢な造りの腕輪と、指輪。



 腕輪は人の神聖力を吸い取り、それを自分の力として使える邪悪なアイテムで、指輪は魅了の力が込められており、魅了された者は使用者の言いなりになる恐ろしい物だった。

 最初は周囲の人間から少しづつ力を吸い取り、最後はシュルヴィアから全ての力を奪い取ってやったのだ。



 そのお陰で、シュルヴィアは神聖力を失くしミンミの捏造した偽の証拠と魅了された者達を扇動してシュルヴィアをギロチン送りに成功したのである。



 しかし、異変は直ぐにやって来た。



 数日と経たずミンミの腕輪から神聖力が消えたのである。そのせいで、同時に王国周辺に張られていた神聖な結界が消えると言う事態に陥った。

 急いでミンミが派遣されるが元々神聖力を持たない彼女が結界を張れる筈も無く。そして魅了されていた人々も夢から覚めたように正気に返って行き、ミンミを見る目が戸惑いから不審、そして悍ましいものを見る目に変わるのにそう時間はかからなかった。



 そしてとうとう彼女の部屋に武装した騎士達が乗り込んできたのはそれから一か月後の事だった。



 その先頭に居たのは大公ヤルヴェライネン家の長男でミンミの義兄ヨエルであった。



「貴様を聖女シュルヴィアに冤罪を掛けて殺し、国家を混乱と恐怖に陥れた国家騒乱罪で逮捕するッ!」



 剣を突き付け、忌々し気に吐き捨てる義兄にミンミは怯えて動けなくなりそのまま捕らえられてしまった。



 その後、裁判も無く────シュルヴィアの時もそうだった────ミンミは火刑に処された。



 本当ならシュルヴィアの時に火刑にしたかったのに大公家が反発した為ギロチンになったのだ。



 どうしてわたしが火あぶりなの?火あぶりになるべきはお姉さまなのに。



 義姉にギロチンの刑が言い渡された時不服を抱えていたミンミは、皮肉にも自身が火刑を言い渡されたことになる。



 丸太に括り付けられ、足元にうず高く積まれた薪に火が点されるのを泣きながら見ていたミンミは次第にその熱さに絶叫しながら煙に巻かれ、意識を手放すのであった。





「・・・・・・ッ!」



 びくりと身体が跳ねて、ミンミは目を覚ました。



 え、どうして・・・・・・わたし、生きて・・・る?



 手足を確認するが何処も火傷や傷も無く。身体は普通に動くようだ。



 それに、ここは・・・・・・。



 元は白かったのだろうが、経年で随分薄汚れてしまった漆喰の壁や古ぼけてやや傾いた家具達。

 豪華で贅の尽くされた大公家の城とはまた違うが、見慣れた光景だった。ミンミの人生は此処から始まったと言っても過言ではない。



 ここ、アルホ孤児院だ・・・・・・。



 ミンミは此処に赤ん坊の頃預けられ、七歳迄ここで暮らしていた。



 え、どういう事?わたし、どうしてこんな所にいるのかしら?



 不思議そうにしていたら、誰かが部屋に入って来た。



「ミンミ、具合はどう?」



 そう言ってきたのは年嵩の少女だった。



「あ、アイリ。ありがとう、もう大丈夫」



 自然とそう言う言葉が口を突いて出る。するとアイリと呼ばれた少女は安心したようにうんと頷いて。



「じゃあ、一緒にご飯食べようか」



 手を差し出して来たのでミンミはその手を取って食堂に向かった。

 どうやら自分は死んだと思ったが、今迄のは夢だったのだろうか、とミンミは思った。



 何て怖い夢だろう。でも、大公様のお家に養女になれたころのはとてもステキだったなぁ・・・・・・。



 まさに思い描いていたお姫様のような生活だった。

 素敵なドレスに自分にかしずく使用人、そしてハンサムで素敵な王子様達・・・・・・。

 どれもがまさに夢のような日々だった。



 まあ、たしかに夢だったんだけど。



 と、半ばがっかりしながらテーブルに着いた。



 今日もやっぱりじゃがいもと野菜くずのスープ、そして黒パンだった。

 もし、何かお祭りでもあれば塩漬けの豚肉の欠片だったりまたはミルクが入って少しだけ豪華になるのだけど。



 お祈りを捧げ、スープを一口口に運んだ。



 う・・・ッ、マズいッ!



 咄嗟だったとは言え、不味いと言う言葉は何とか口に出さずに済んだ。

 大公家での豪華な食事に慣れてしまった身体は孤児院の質素な食事が不味く感じたのだ。

 


 『夢の中』での食事はそれはそれは美味しかった。



 沢山の香辛料の効いたジューシーなお肉にお魚、お砂糖たっぷりなお菓子。どれも美味しかった。



 ああ、またお肉が食べたいなあ・・・・・・。



 そんな事を考えながら秘かに嘆息していた。 

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