第13話 結ばれる気持ち

「わあ、美味しそう……!」

「コーヒーの香りもしっかりとしていますし……これは期待が出来ます」

「ふふ、ではどうぞごゆっくり」

「はい。それじゃあ……」

「いただきます」



 私と桃尾さんは手を合わせながら言ってからしゅーくりーむを手に取る。そして一口かじった瞬間にほんのり甘い皮とバニラビーンズの微かな苦味やしっかりとした甘さが際立つカスタードクリームの風味が口の中に広がり、思わずほっぺたを押さえてしまいそうになるくらいに美味しいと感じた。



「美味しい! こんなに美味しいシュークリーム、初めて食べました!」

「シュークリームだけでなくこのコーヒーも美味しいです。ただ苦いだけのコーヒーと違って風味やコクもしっかりとありますし、シュークリームと一緒に味わう事でお互いが引き立てあってより美味しく感じられます」

「喜んでいただけたようでよかったです。さて、狐崎さんのお悩みですが、先程お話されていた通りで、少しだけでも事務所の力、正確には玉藻さんの力をお借りするのはいいと思います」

「やっぱりそうですよね。でも、どんな風に力を借りたら……そもそも玉藻を出すなら一度事務所にも相談をしないといけないし……」

「そのために桃尾さんがいらっしゃるのではないですか?」



 雨月さんに言われてハッとする。たしかに桃尾さんは私の事をデビュー前から支えてくれて、子狐としての活動をする前も色々相談に乗ってくれたり配信を聞いた上での感想を伝えてくれたりしている。頼りにするなら、これ以上ない程の人だ。



「桃尾さん……今回の件も色々相談に乗ってもらえますか?」

「ええ、もちろんです。私はあなたのマネージャーですからね」

「ありがとうございます、桃尾さん。雨月さん達も本当にありがとうございます。ここに来られて本当によかったです」

「お力になれたようでよかったです。もっとも、桃尾さんが狐崎さんのために頑張りたいのはまねーじゃーさんだからというだけではないようですが」

「え?」



 私は驚きながら桃尾さんを見る。桃尾さんも驚いてはいたけれど、その顔はどこか照れたように赤くなっていた。



「もしかして……」

「……はい。マネージャーという立場ではありますが、私は狐崎さんの事を女性としても好きなんです。ですが、どうしてそれを?」

「私は心を読む事が出来るので、勝手ながら桃尾さんの心を読ませていただきました。たしかにお二人の立場からすれば交際をするというのは少し難しいかもしれませんが、まずは事務所の方や一緒に活動をなさっている方に相談をし、その後で応援して下さっている方々にお知らせするという形ならばお二人も心の準備をしやすいのではないかと思いますよ?」

「たしかに……」

「狐崎さんはどうですか? もっとも、聞くまでもないことだとは思いますが」



 雨月さんが優しく微笑む。もちろん、それは聞くまでもない。桃尾さん、いや九音さんは私にとってマネージャー以上に大切な存在になっていたし、今回このカフェを一緒に探してくれるとなった時に少しだけデートみたいだなと思ってはいた。だから、私の気持ちは決まっている。



「私も九音さんの事が好きです。マネージャーとしても、男性としても」

「狐崎さん……」

「事務所とか他のライバーさん達の前以外では翔子って呼んでください。私もそういう時は九音さんって呼びますから」

「……わかりました、翔子さん。まだしっかりとした告白はしていませんが、改めてよろしくお願いします。マネージャーとライバーとして、そして恋人として」

「はい!」



 九音さんの言葉に嬉しさを感じながら答える。その様子を雨月さん達が静かに見守ってくれていた。そして雨が降り続ける中、『かふぇ・れいん』の店内で私達はしゅーくりーむとほっとこーひーを味わいながら子狐と玉藻のコラボ配信の計画についてしっかりと話し合いをした。

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