3
3
「ん、う~ん……」
「あ、お疲れ様でーす。上手くいったようで、良かったですよ~」
ソファから上半身を起こし、何度目かの光景を見てようやく、自身が過去改変から戻ってきたことを実感する。覗き込むウミカの手には、過去改変へ行く前にも持っていた筆が握られていた。ウミカの背後にあるキャンバスには、先ほどとはうって変わって別の絵が描かれている。
「今回は前より長かったですね~。どうでした?彼女とのイチャイチャタイムは?」
「茶化すな。……そりゃあ、良かったけど」
「ぷふーっ!青人が素直にそうやって言ってると、なんだか気持ち悪ーいですねぇ!」
そう言って頬を膨らませ笑いを堪えている様子のウミカ。相変わらず、右拳で殴り飛ばしたくなるような表情だ。いつか本気で殴ってやろう……。大きくため息をついてから、ウミカに問いかける。
「そんなことはどうでも良いんだが……それにしても、どうして今回はあの黒点が出る時間が分かったんだ?前に分からないって言ってただろ?」
するとウミカは、あーあれですねっ!と言ってから、またまた無い胸を思いっきり突き出し、自信満々に説明し出した。
「ふっふっふ……それがですねぇ~、前回青人が過去改変を行った後!改めて自身の能力について考えてみた訳ですよー。そしたらなんと……!」
「……なんと?」
「ここから先は広告をご覧になってから――いったあ!?」
もったいぶったので手刀をかます。割と強めにやったので、ウミカはそれを受けて涙目でこちらを軽く睨んだ。
「なんですかいきなりっ!?だいたいこういうのは広告見た先にあるじゃないですかー!?」
「くだらねぇこと言ってねぇで、早く続き話せ。ここに居られるのも時間制限があんだから」
「うぅ~……分かりましたよ!……自身の能力というかキーホルダーなんですけど、これをどれだけ
「それ、自分で刺せるのか……?」
「もちろんですともっ!ただまあ……私は特に変えたい過去もないので、てきとぉ~な場所に行くだけですけどね~」
自分でも刺せることもそうだが、なによりウミカ自身も過去改変へと行けることに何より驚いた。
「そういうことは先に言っといてくれよな……」
「いやぁ~なんだか今回は前回よりもガンギマリレベルでキマッてそうだったので……」
そんなに表情硬かったのか……。それにしても、気を遣うなんて言葉を知らなさそうなウミカがそう思うとは。ただ陽気で失礼なだけのやつだと思っていたが、俺もウミカへの評価を変えなくちゃな。
「……そうだったか。いや、なんか気を遣わせて悪かったな」
「ホントですよっ!この私に、青人ごときが気を遣わせないでくださいよっ、全く……」
……前言撤回。今にもこめかみの血管が切れそうな思いである。もう一回手刀かましてやろうかなコイツ……。
「そろそろ時間切れですね……それじゃ、また何かあったら来てくださいね~。あと、夜以外で浴槽に飛び込んでもここに来れないですからね~」
「知ってたのかよ……行けるか試したまでだ。今度からはやらないよ、じゃあな」
消えゆく俺の身体に向かって、はーいと言いながら馬鹿にしたような笑顔で手を振るウミカにため息をつき、瞼を閉じる。
開けばすでにあの部屋ではなく、浴槽内で座り込んでいた。……きちんと、過去改変は上手くいったのだろうか。確認しようとスマホを見ようとしたが、やはりどうにも眠く、睡魔に誘われるまま廊下にて朝まで眠ってしまった。
***
物音がして目覚める。部屋の中からではなく、恐らく隣人が玄関扉を閉めた音だろう。玄関扉の上にある優しい陽光が廊下と自身の身体を照らす。
立ち上がって、自室の時計を確認しにいく。九時十五分――四月二十六日の、九時十六分だ。遮光カーテンを開けると窓には、薄曇りのなか地上を優しく照らし出す陽光に、晩春の山々が青々と映されている。
しばらくボーッとしていたが、昨日の出来事を思い出し、咄嗟にスマホと
……?
――あれ、
スマホの電源が点き、彼女からメッセージや何かしらの反応が来ていないか確認する。そう、海夏である。しかし何の連絡もないようだ。果たしてきちんと過去改変は起こったのだろうか……?
「……俺は何を、描いてたんだっけ」
確かウミカがベースの、それらしい絵を描いていたはず……駄目だ、どうにも思い出せない。それに画用紙には
一体俺は、何を失って海夏との関係を改変したのだろう……?きっとそれは大切な、それこそウミカという俺の……なにかを表したものだったような――
ピコン。
考えている最中、不意にスマホの通知が鳴る。通知欄に表示された名前と一文を見て、すぐにメッセージアプリを開く。するとそこには、長らく俺が待ち望んでいた結果とも言える人物からの、唐突なメッセージが。
《ねぇ!ゴールデンウィークの最初に、海行かない!?》
突然の海夏からのメッセージに、喜びと共に疑問と、海夏が追加で送ってきた場所の情報に何故か、少しの恐怖を覚えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます