98 エピローグ
それから一週間が経った頃。
魔龍神王による攻撃で半壊してしまった拠点も多くの魔物たちや咲による復旧作業の結果、突貫工事とは言えそれなりに経済活動を再開できる程には回復していた。
また意識不明だったゼルも目を覚ましており、より一層穏健派に活気が戻るのだった。
しかし残念ながら失ったものも決して少なくはない。
拠点はいくらでも建て直せるが、魔将や魔龍神王によって殺された者はもう二度と戻って来ることは無いのである。
とは言え、それでも彼らは前を向き続けた。
死んでいった仲間たちや罪の無い人々のためにも、今を生きねばならないのだ。
そんな中、二人はこの拠点から離れ旅に出ることを選んでいた。
当然このまま彼らと共に生きて行くことだって出来たし、彼らも魔龍神王を討ち取った英雄である彼女らを温かく迎え入れることだろう。
それでも二人の決意は揺るがなかった。
元の世界に帰るための方法を探すためにはその選択が最善であったのだ。
「……なんや、もう行ってまうんか? あまり長い付き合いじゃないけども、こう……いざ別れるとなるとなんか寂しいな。もっとゆっくりしてってもええんやで?」
「お気持ちは嬉しいですけど、もし帰る方法があるのであれば出来るだけ早めに見つけたいんです」
二人にはこの世界で過ごす程に元の世界での記憶が薄れて行く実感があった。
そのため、このままでは元の世界での大事な思い出や大切な人の記憶も思い出せなくなってしまうのではないかと言う焦りもあったのである。
「……そっか。ならこれ以上は引き留めんわ。達者でな二人共!」
ゼルは杖で体を支えながらも、これでもかと言う程の声量で別れの挨拶をするのだった。
下手に未練を残させるよりはスッパリと爽やかに終えた方が彼女らのために、何より自分のためになると思っての行動だったのだが……。
「ゼルさんも、お大事にしてくださいね……!」
「おう、たりまえや! 誰にモノ言っとると思って……あイタァ!?」
「ゼルさん!?」
無理に大声を出したせいで傷が開いてしまう。
まだ彼の体は全快では無いのだ。それどころか本来は歩くことすらままならないはずの状態であった。
そんな状態でそれだけの声を出してしまえば、当然体にも悪影響が出るというものである。
「だ、大丈夫や……けど、大きい声はもう出さん……絶対に。んじゃ改めて、咲、桜……二人共、達者でな」
「はい、ゼルさん……皆さんも、どうかお元気で!」
「短い間でしたけど、ありがとうございました!!」
ゼルや見送りに来ていた魔物たちに別れの挨拶を済ませた後、二人は地図を見ながらアルタリア王国の国境へと向かって歩いていった。
「さて、ひと段落ついたからひとまずフェーレニアに行ってレイナさんに挨拶しよっか。今後どれくらいアルタリア王国に戻ってこられなくなるかもわからないし」
「そうだね。それにエレナちゃんにも会いにいかないと」
「よし、決まり! それじゃ、まず最初の目的地はフェーレニアということで!」
そう言うと咲はケツァライザーに変身した。
「えっ……」
その瞬間、桜はこの後何が起こるのかを瞬時に理解してしまい顔を青く染めた。
「歩いて行ったらどれだけかかるかわからないから、飛んで行こうと思うんだけど……駄目かな?」
「……それなら、またあの状態になれば解決だね」
しかし今の桜には秘密兵器と言えるものがあった。
彼女の言う「あの状態」と言うのは、魔龍神王との戦いの時に手に入れた彼女らの新たな力である合体形態のことだ。
「そっか。それならもう桜も怖がることは無いね」
「それ、本当に根本的な解決になってるのか……?」
一方でその会話を聞いていたカルノンは根本的な部分が何も解決していないことに気付いていた。
そう、いくら二人がアルティメットデュアルライザーに変身したところで……。
「ああっぁ怖い! 高い!」
結局のところ桜自身が高所に飛びあがっていること自体は全く変わらない事実なのである。
そんなこんなで移動だけでも大変な旅にはなってしまいそうだが、固い絆と深い愛で結ばれた二人ならばいかなる困難があろうと乗り越えられるだろう。
もちろん、その旅路は決して楽しいだけのものではないことも確かである。悲しいことも、苦しいことだってあるかもしれない。
それでもこの二人ならきっと何とかなると、そう思わせるものを彼女らは確かに持っていたのだった。
「あっ、そうだ! ねえねえ咲ちゃん!」
「ん、なに? どうかしたの?」
「確か帰ってきたら『もっと凄いの』をしてくれるって……」
「あっ……えっと、それは……」
咲はあの時完全にノリと勢いでそう口走っていたことを思い出す。
「まさか、あれだけ派手に言っておいて何もする気はないだなんて、そんな酷いことないよね……?」
「えっと、その……」
「ふふっそれじゃあ今夜、私がお手本を見せてあげるから……また今度を楽しみにしてるね?」
「は、はい……精進します」
もはや反論することも出来ず、咲は桜に言いくるめられてしまう。
……やはりこの旅は咲にとっては試練の旅になるのかもしれない。
ともかく、二人の旅はまだまだ続くのだ。
いつかきっと元の世界に戻れるその日まで……!
【固有能力『変身』を使いヒーロー活動をしていた私はどうやらファンタジーな異世界でも最強のようです】 完
※お知らせ
最終話が98話でキリが悪いので、あと2話おまけを追加してぴったり100話にしようと思います。
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