73 国王からの褒美

 国王自らの命令と言う事もあり、咲はこれでもかっていうくらいにスルスルと何の障壁も無く王城へと入ることが出来たのだった。

 そしてあっという間に謁見の間へと案内され、国民の血税を注ぎ込んで作られた煌びやかな玉座に座っている国王を見上げる形となった。


「貴殿がワイバーンの大群を退け、魔龍王を討ち取った戦士で違いないんじゃな」


「ええ、その通りです」


 そう言って咲は国王の前で片膝をつく。

 彼女自身、別に国王に敬意などを抱いてはいなかったのだが、出来る限り穏便に事を済ませたいと思っていたためにひとまず形だけでも国王を敬う素振りを見せることにしたのだ。


「ふむ。ではその功績を称え、褒美を与えるとしよう。持ってまいれ」


 国王が軽く手を叩くと、奥からクソデカイ革袋を持った使用人が出てきた。


「大金貨500枚じゃ。受け取るがよい」


「ありがたき幸せ」


 咲はそれっぽいことを言いながら立ち上がり、使用人から革袋を受け取ろうとする。

 その瞬間のことである。


「ッ!!」


 突如として大量の魔術師が現れ、咲に向けて拘束魔法を発動させたのだった。 

 その結果、強大な力を持つ魔術的な檻が彼女を包み込むこととなった。


「どういうつもり?」


「なに、簡単なことじゃ。最初から我は貴様の力に用があったのじゃよ。そのためにこうして王城へと呼び出したのである。まさか馬鹿正直に正面から無警戒にやってくるとは思わなかったがのう」


 国王は今にも笑い出しそうな声と顔のままそう言った。

 とは言え、想像以上に咲が簡単に拘束出来てしまったのだからそれはもう笑わない方が無理という物だろう。

 

「もしかして、この程度で拘束できるとでも思ってる?」


 しかしこんな状況でも咲は冷静だった。

 今なお拘束魔法を使われているのにも関わらず、その余裕を一切崩さずに国王を挑発する。


 そもそもの話として、彼女は最初から周りに隠れていた魔術師の存在には気付いていたのだ。

 しかし咲の方から手を出す訳にも行かないため、国王側が動くのを今か今かと待っていたのである。


「確かに貴様は相当な強者じゃろう。しかし、この拘束魔法はそんじょそこらの拘束魔法とは一味も二味も違うのじゃ。何しろ王国を代表する最高位の魔術師数十人がかりでやっと発動できるものじゃからな。いくら貴様と言えど、抜け出すことは出来まい」


 国王は自信満々に、勝利を確信した様子でそう言い放つ。

 それを聞いた咲は彼に対して憐みのようなものを抱いていた。

 

 勝ちを確信した状態から突き落とされること以上に惨めなものは無いのだ。

 つい先程の魔霊王との戦いで嫌という程それを実感した彼女は、あの国王にすらほんの少し同情してしまったりしなかったりしていた。


「ならやってみようか」


 とは言え咲にとって国王は敵だ。

 彼に対する慈悲など、すぐに彼方へと消し飛んでしまっていた。


 その後、彼女は魔術で構築された檻に近づき……。


「カルノパンチ」


 拳を一発ぶち込み、いとも容易く檻に穴を開けるのだった。


「な、なんじゃと……!!」


 それを間近で見た国王は心底驚いていた。

 咲が簡単に穴を開けてしまったがために、この拘束魔法がとても弱いもののように見えてしまうことだろう。

 だが決してそんなことは無いのである。


 アルタリア王国最高位の魔術師と言えばその実力は上位冒険者を優に超えており、そんな化け物が数十人集まって発動させているこの拘束魔法は強大な魔物であるドラゴンすらも拘束してしまえるだろう。

 もっとも消費する魔力が多すぎるうえに詠唱にも長い時間を使うため、実戦で使われることはほとんどないのだが。


 そんなとんでも魔法をグレートカルノライザーに変身している咲は容易く破壊してしまったのである。

 国王が驚愕しないはずが無かった。


「じゃ、じゃが……こちらにもまだ手はある!」


 彼がそう言うやいなや奥から一人の女性が歩いてくる。


「ごめんなさい……本当に」


 そして檻の近くにまで進むと、咲に謝罪をしながらとある魔法を発動させた。


「……」


 その瞬間、咲はまるで意識を失ってしまったかのようにその場に崩れ落ちてしまう。


「ハ、ハハ……! 馬鹿め、まんまと洗脳にかかりおったわい!!」


 同時に国王がこれでもかという程の声量で笑い始めた。

 この女性は洗脳魔法を得意とする魔術師であったのだ。

 そして彼女は持ちうる中でもとびきりに強力な洗脳魔法を咲に使用したのだった。

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