63 ゾンビワイバーン

 咲が倒したはずのワイバーンは何故か致命傷を負っているのにも関わらず再び動き始めていた。


「一体何が……!?」


「私にもわかりません……しかし少なくとも放っておいて良いものでは無いでしょうね」


 咲とソリスの二人は武器を構え、動く死骸と化したワイバーンの次の行動に備える。

 そのすぐ後、ワイバーンは先ほどと同じように真っ黒なブレスを吐いた。


「咲さん、こっちです!」


「わ、わかりました!」


 ブレスを避けた二人は追撃を警戒し、近くの木々に隠れて射線を切った。


「やはりあれは闇属性のブレス……」


 そして一旦息を落ち着けた後、ソリスはそう呟くのだった。


「闇属性……? それがどうかしたんですか?」


 その際の彼女の様子がおかしいことに気付いた咲は思わずそう尋ねていた。


「ええ、闇属性は本来ワイバーンが使うことの無いはずの属性なのです。ただ……」


「ただ……?」


 ソリスはワイバーンたちに起こっている現象に心当たりがあるようだった。

 しかし同時に、そうであって欲しくはないとも思っていた。


「私も実際に見たことは無いのですが、どうやら『ゾンビワイバーン』なる存在は闇属性のブレスを放つらしいのです。それにゾンビワイバーンはワイバーンの死骸から発生するとのことなのでほぼ間違いないでしょう。ただ、これだけの数が一斉に現れることはまずないはずなのですが……」


「ゾンビワイバーン……そっか、ゾンビかぁ」


「はい、厄介なのはそこです。アンデッドと化した以上はどれだけ物理的な致命傷を与えた所で効果は薄く、有効なのは光属性の魔法のみ……」


 彼女の言う通りゾンビワイバーンはアンデッドと化したワイバーンであり、生命維持の必要性が無いことから物理的な攻撃がほとんど意味を成さないのだった。

 さらには魔法に関しても完全に無効化こそしないものの、光属性以外は効果が薄くなってしまうため中々に対処の難しい魔物であった。


「……どうやら気付かれたようですね」


 そんな厄介な存在であるゾンビワイバーンをどのように倒すか考えていた二人だが、いつの間にかゾンビワイバーンたちに囲まれてしまっていた。


 ソリスの知らない情報として、彼らには生気を求めてさまようと言う性質があったのだ。

 そのため視覚や聴覚と言った五感に頼らずとも彼女らの持つ生気でその居場所を認識していた。

 特に二人は常人に比べて圧倒的に生気が多く、ゾンビワイバーンにとっては「ここにいますよ~」と言われているのと同じ状態となっていた。


「こうなったらもうやるしかないですよ!」


 咲はそう言って飛び出していく。


「咲さん、いくらなんでも無茶です!」


 それを止めようとするソリスだが、時既に遅し。

 咲は大量のゾンビワイバーンの前にその姿を晒していた。


「仮に光属性しか通用しないんだとしても、動けなくしてしまえば何も出来ないはず……なら!」


 咲は再びグレートカルノライザーに変身し、カルノセイバーを振り回し始めた。


「その手足を削ぎ落せばいい!」


 無数の斬撃がゾンビワイバーンへと向かって飛んで行く。

 それは彼らの手足を見事に切り落としていき、彼女の目論見通り移動手段を絶つことに成功していた。

 こうなってしまえばアンデッドだろうが何だろうが、地面でモゾモゾと動くだけの肉塊であることに変わりは無かった。


「よし、これで脅威は無くなったね」


 やっていることとは裏腹に、咲はやり切った感を出しながら爽やかにそう言い切る。


「咲……お前、かなりえげつないぞ」


 それに対しカルノンは苦言を呈していた。

 それだけ彼女の所業に感じるものがあったのだろう。


「今はこうするしかないんだから仕方無いでしょ」


 もちろん咲だって何も感じていない訳では無かった。

 当然、無意味に殺害をするような人間ではないし、殺される生物の事を可哀そうだと思うこともあった。

 とは言え目的のためには殺さなければならない存在がいるのだと言うことも理解しており、その辺りの覚悟はドラゴラゴンとの戦いで既に身に着けていた。


「咲さん! ……良かった。無事のようですね」


「はい、これでひとまずこの辺りのゾンビワイバーンは無力化出来て……」


 咲は自身の元に走って来たソリスにゾンビワイバーンの無力化が完了したことを伝えようとする。

 しかし、その瞬間のことだった。


「……ない!?」


 目の前で起こっている異常な光景を見た彼女は思わず叫んでしまったのである。


「嘘でしょ……再生してるんだけど……」


 その異常な光景はゾンビワイバーンによって引き起こされていた。

 なんとゾンビワイバーンは切り落とされた自らの手足を再生し始めていたのだ。


「ありえない、欠損を完全に治してしまう程の再生能力があるなんて……!」


 その光景を見たソリスも同様に、驚きに満ちた声でそう言う。

 回復魔法も無しに肉体の能力だけで欠損部位を治すのはあまりにも常識外れな事であり、超位冒険者が驚愕する程の一大事であったのだ。


 その結果、咲が無力化したはずのゾンビワイバーンたちは全て五体満足な状態に戻ってしまい、再び彼女らを狙い始めていた。

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