45 絶望的な実力差
しばらく膠着状態となっていた二体の獣。
互いに動く様子も無く、ひたすらに隙を探り合っていた。
その時、ついにレイナが動くのだった。
「中々良い動きだ。だが……」
狼としての脚力で一気に魔獣王との距離を詰めようとするレイナ。
そんな彼女を魔獣王は軽くあしらった。
「動きに無駄が多い。それに獣としての野生の勘も無い。……お前、さては白狼では無いな?」
たった一度、レイナの攻撃を見ただけの魔獣王はそこまで言い当てるのだった。
確かに彼女の動きは素早く、洗練されたものではあった。
しかしそれはあくまで人間基準でしかないのだ。
白狼の祝福により生まれた時から狼だったかのような動きが出来るレイナではあるものの、それは裏を返せば狼としての練度はたいして高くないと言うことでもあった。
「お前のような混ざりものが我を倒せるはずなかろう」
「くっ……!?」
今度は魔獣王が動く。
四肢の足は力強く地面を踏み込み、あっという間にレイナとの距離を縮める。
そして蛇の尻尾が彼女の首に巻き付くと同時に、魔獣王は両手でレイナの足を掴むのだった。
「どれ、力比べといこうか」
「ぐぁっ……がっ……」
ギュウギュウと首を絞められ、レイナの意識は徐々に朦朧としていった。
とは言えされるがままなはずも無く、レイナはそれを振りほどこうと抵抗する。
しかし彼女と魔獣王とではそのパワーが違った。
「どうした、その程度か? 所詮は偽りの獣か。最強にして獣の王たる我には敵わん」
「獣の王……か。ハッ……それだけ人の形をしておいて、何が獣の王だ……」
レイナは少しでも隙を作り出そうと、そう言って魔獣王を挑発した。
その言葉に彼は怒るでもなく、ただただ純粋に困惑していた。
「妙なことを……人もまた獣であろう。であれば最強の獣である我が、こうして人の要素を持つのもまた道理なり」
「人も獣だと? 馬鹿なことを……! 貴様のようなクソッたれの獣と……一緒にされては困る……!!」
魔獣王の発言に怒りを覚えたレイナは全身に力を入れて拘束を解こうとしていた。
……だがそれでも届かない。彼女と魔獣王とでは生物としての格が違うのだ。
白狼はこの世界の生態系において間違いなく上位に入る生物であり、その力は確かに強大であった。
しかしそれでも獣の王である魔獣王の足元にも届かなかったのだ。
「残念だ。魔人王をあそこまで追い詰めたのだから、相当な強者なのだと期待していたのだがな」
「ぐぅっ……!?」
期待外れだったと言わんばかりの声色で魔獣王はレイナの首を締め上げる力を強めて行く。
「レイナさん!」
その時、大盾を修復し終えた咲が戦いに戻ってくるのだった。
『トリケラホーンバッシュ!!』
そして大盾を構えて突進し、その角で魔獣王の蛇の尻尾を攻撃する。
「はぁっ……はぁっ……感謝します、咲さん」
その攻撃はレイナの拘束を解くことは出来なかったものの、彼女の首を絞めていた蛇の尻尾を無力化することには成功していた。
「ッ!? なんだ貴様は!? ……いや、そうか。フッ、中々期待できそうな強敵ではないか」
彼にとって咲の存在は未知そのものであり、その攻撃についても完全に予想外のものであったようだ。
しかし魔獣王はすぐに冷静さを取り戻し、彼女を強敵として認識すると同時にすぐさま攻撃の準備をするのだった。
「では、これはどうだ」
レイナを拘束したまま魔獣王は蹴りを放つ。
「あがっ……!?」
それを大盾で受けようとした咲だったが、その一撃は予想以上に重く、遥か後方へと吹き飛ばされてしまう。
そして闘技場の壁へと凄まじい勢いでぶつかり、ガラガラと崩れる瓦礫に飲みこまれてしまった。
「げほっ……これ、ちょっと不味いかも」
かなりのダメージを負ってしまった咲は瓦礫を押しのけながらやっとのことで立ち上がる。
今の一撃で大盾は完全に砕け散っており、彼女の纏うアーマーにも無視できない程のひびが入っていた。
また、アーマーの持つ高い衝撃吸収能力でも魔獣王の攻撃の全てを防ぐことは出来なかったらしく、彼女の体にも相当のダメージが入っている。
恐らくもう一度あの攻撃を受ければ彼女の命は無いだろう。魔獣王の蹴りにはそれほどの威力があった。
「なんだ、お前もその程度なのか? そうか、ならばもういい……さっさと終わらせるとしよう」
魔獣王はそう言うと再び彼女の首を絞め始めた。
「ぐぁ゛っぁ゛ぁ゛!?」
その力は凄まじく、白狼と化している彼女の強靭な肉体をまるで紐でも千切るかのように捻じ曲げて行く。
これまでは本気の数割も出ていなかったのだ。
「脆い、脆すぎる。この程度で我に勝とうとしていたのか。随分と舐められたものだな」
「レイナ……さん!!」
咲は彼女の名を叫びながら魔獣王の元へと走る。
このままではレイナの首は引きちぎられ、間違いなくその命を落とすことになるだろう。
だからこそ、それを止めるためにその足を動かし続けたのだった。
しかし残念なことに今の彼女に勝機は無い。
魔獣王は彼女の持つ圧倒的な防御力を誇るはずのトリケラシールドを全力でも無いたった一度の蹴りで破壊してしまうような怪物なのだ。
今の彼女ではどう足掻いても勝ち目が無いのだった。
そう、今の彼女は。
魔龍王を容易く討ち取ったグレートカルノライザーならば、あんな怪物など赤子の手をひねるかのごとく倒せるだろう。
だが無い物は無いのだ。グレートカルノライザーに変身するためにはカルノンが必要であり、そのカルノンは転移時に同行していなかったため今はアルタリア王国にいる。
つまり、結局どうしようもないのである。
諦めるつもりなど毛頭ない咲であったが、心のどこかには『詰み』という二文字が浮かんでいた。
その時だった。
「おい、咲! おいらを置いていくんじゃないぞ!!」
「カルノン……!?」
どういう訳かカルノンが闘技場に現れたのだ。
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