40 決着、そして新たな脅威
ダニエルの渾身の上級魔法二連発を受けてなお、咲はほぼ無傷のままであった。
そんな姿を見せられた彼はもはや驚愕を通り越し、恐怖や恐ろしさといった感情に襲われることとなる。
「なんなのだ貴様は……! 私の上級魔法を受けて、何故無傷なのだ!」
「そう言われても、そっちの火力不足なだけなんじゃ……」
「なんだと!? ……いいだろう。そこまで言うのなら私の本気の一撃を食らわせてやるさ」
ダニエルは不敵な笑みを浮かべながらそう言うのだった。
「では死ぬ前にその目に焼き付けたまえ。私の本当の全力……『複合魔法』を!」
それまでとは異なる魔力がダニエルの体中から発せられる。
そしてそれが杖に集まって行くと、これまた今までとは違う光り方をするのだった。
「ぐっ……うぉぉっ!!」
過剰な魔力の流れにより、ダニエルは体中に焼けるような痛みが走っていた。
と同時に、先端のみが光っていた今までとは違い杖全体が光り輝いていく。
「これこそが、私の真の力……インファーナルボルケーノである!!」
「ッ!?」
それは一瞬のことだった。
魔法の発動と同時に咲の足元から溶岩の塊が突き出し、彼女を超高温の地獄へと招き入れたのだ。
「はっ、はは……これで、本当に終わりだ。土属性と火属性の複合魔法であるこのインファーナルボルケーノを敗れた者は……誰一人として、いないのだ!! ゆえに! 私の勝利である……!!」
あまりにも多くの魔力を消費してしまったダニエルは今にも倒れそうな程にガクガクと足を震わせている。
しかしそれでもなお根性で立ち続け、大声で勝利宣言をするのだった。
「うぉぉぉぉ! やっぱりダニエルが勝つに決まってんだよなぁ!!」
「クソッ、何が騎士を圧倒した冒険者だよ! 全然駄目じゃねえか金返しやがれ!!」
ダニエルの勝利を喜ぶ声と咲への罵詈雑言が闘技場内に飛び交う。
彼が勝つ方に賭けていた者が圧倒的に多かったものの、咲と言う未知の存在に賭けて大博打に出た者も少なくはないのだ。
その結果、会場内は阿鼻叫喚の嵐となっていた。
そんな中、外せない仕事があったため遅れてやってきたレイナが闘技場内に入ってくる。
「咲さん……!? そ、そんな……!」
会場内の状況から咲の身に何かあったことを察したレイナはその場に崩れ落ちてしまうのだった。
「ふぅ……それにしても、よくもここまで私を手こずらせてくれたものだな。その粘り強さだけは評価してやろう」
ダニエルは咲を包んでいる溶岩の元へ向かうと、中にいる彼女に向けてそう言った。
「あぁ……久々に物凄く疲れた。さっさとサクラを連れて帰るとしよう。心配はするな。命だけは取らんよ。そう、命だけは……な。私との子を産み続ける過程で心は壊れてしまうかもしれんが、そんなことは知ったことではない。……っと、もう聞こえていないか」
煽るような口調で溶岩の中の咲に話し続けていたダニエルだったが、よく考えればとっくに死んでいるかと思い直しその場から離れようとする。
「……なんだ?」
しかし、ゴゴゴ……という地響きのような妙な音を聞いた彼はその足を止めた。
「下か……!?」
そしてその音が足元に向かってだんだん近づいていることに気付いたダニエルはすぐにその場から飛び退いたのだった。
『チェンジライズ! トリケライザー!』
と同時に、つい今の瞬間まで彼がいた場所が崩落し中から何かが出てくる。
「あれ……? 当たったと思ったんだけどな」
それは紛れもなく咲であった。
……しかしその姿は先程までのものとは全く違う。
アーマーには通常時とは別の恐竜を模した意匠が施されており、肩と頭部からは特徴的な三本の角が生えている。
さらには同様に大きな角の生えている大盾を構えているのだ。
これこそがカルノライザーの別の姿……防御に特化した形態である『トリケライザー』であった。
よく見れば全身に堅牢なアーマーが装着されており、防御に特化した形態であることがわかるだろう。
また『トリケラシールド』と言う名の大盾はありとあらゆる攻撃を弾く最強の盾である。
これを使って咲はダニエルのインファーナルボルケーノを防ぎ切ったのだ。
「ど、どういうことだ……! あの攻撃は最強の一撃だ……耐えられるはずがないのだ!」
「確かにあのままだと不味かったかも。けどこの形態なら大した脅威じゃない」
「ぐっぅぅ……! ええい、それならばもう一度だ!」
ダニエルは杖を構え直し、もう一度先程の魔法を発動させようとする。
だが……。
「んぐっ!? ゲホッ……がはっ」
彼がもう一度魔法を放つことは無く、血を吐いて倒れてしまうのだった。
「な、なんだ……何が起きている……?」
ダニエルは何が起こったのかわからずにいた。
それもそのはずである。
彼は先ほどの魔法でほぼ全ての魔力を使い切ってしまっていたのだが、普段はあのレベルの魔法を一回発動すればそれで全てが終わるのだ。
とてつもない威力を持つ魔法であるがために、それを二回連続で使う機会が無かった。
だからこそ彼は自らの魔力切れに気付くことが出来なかったのである。
「くそっ……こんなことで負けるのか? この私が……?」
「勝負あったね。このまま戦ってもあなたに勝ち目は無い。お願い、降参して」
「貴様……こ、この私に降参しろと言うのか……?」
「そうすれば殺さなくて済むから。あなたは物凄く嫌な人だし、桜への態度も絶対に許せない。けどやっぱり出来るなら殺したくはないから……」
「ふ、ふざけるな……! こんな惨めな敗北を認めるくらいなら、私は今ここで殺される方を選ぶ!!」
そう、ダニエルにもプライドがあった。
ぽっと出の冒険者に惨めに敗北させられた過去を背負って今後を生きていくことに比べれば、今ここで殺された方が遥かにマシだったのだ。
「……もういいよ、この出来損ないが」
その時、どこからか発せられた少女の声が闘技場内に響くのだった。
それは耳では無く直接魂に響くような声であり、観客の多くがその一瞬で得体のしれない恐怖に襲われてしまう。
「はぁ~期待していた私がバカだった。こんなことならもっと強い奴を使うんだったな~」
いつのまにか上空に現れていた謎の少女はそう言いながら闘技場の中央に降り立った。
「あなた、誰……?」
纏っている雰囲気の異質さや肌がピリつく程の尋常ではない量の魔力から、咲はその少女が明らかに普通の人間ではないということに気付いていた。
そんな彼女の問いに、少女はニヤリと笑みを浮かべながら答えるのだった。
「私? 私は五大魔将が一人、『魔人王』だよ。よろしくね、おねーさん♡」
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