38 決闘当日

 時は過ぎ、あっという間に決闘の時は訪れた。

 なお闘技場の詳しい場所については知らなかった二人ではあるが、正午までには決闘の地であるブルーローズの闘技場へ無事にたどり着いていた。

 

 なにしろフェーレニアの中央部にこれでもかという程にクソデカイ闘技場があるのだ。どう考えてもそこに違い無いと言うのは誰が見てもわかることだろう。

 それだけでは飽き足らず、闘技場の周りには決闘を見ようと訪れた者たちが大量にいたのである。

 どう考えてもそこに違い無いのだ(念押し)。


 さて、そうして特に問題も無く闘技場へとやってきた二人だったが……。

 

「きゃっ!?」


「桜!?」


 ブルーローズ騎士団の者によって二人は分断されてしまうのだった。


「どういうつもり……?」


 咲は殺気を込めた声で騎士に問う。


「彼女は今回の決闘においてダニエル様が勝利された際の景品となるのだ。仮に逃げられでもしたら我々の首が飛ぶ……なので頼む、どうか理解して欲しい。安心してくれ。誓って妙なマネはしないと約束しよう」


「……はぁ。何かあったらその時は容赦しない」


 そう言って咲は闘技場の奥、参加者の待機室的な部屋へと進んだ。


 それから少しして、闘技場内に決闘の内容を伝える声が響いた。

 その声を聞いた観客は待ってましたと言わんばかりの反応を見せ、あっという間に闘技場内が湧き上がるのだった。


「あのブルーローズ家の次期当主ダニエルと突如現れた凄腕冒険者のサキの決闘だ! 一体どちらが勝つんだろうなぁ! さあ張った張った!」


 中にはどちらが勝つのかで賭け事を行っている者もいた。


「俺はダニエルに賭けるぜ! アイツの事は好きじゃない……だが悔しいがその実力は確かだ。ぽっと出の冒険者が勝てる相手じゃねえってのは俺だってわかる」


「おいおい、お前昨日のギルドでの戦いを見て無かったのか? あれだけの騎士を速攻で無力化しちまったんだ。強いなんてもんじゃねえよ」


「見ていたさ。けどあんなのトリックに決まってるだろうよ。いくらなんでもただの女が鎧を着てあの動きが出来る訳が無い。きっと何かしらの裏があるはずだ」


 冒険者である男は今までの経験から咲が何かしらのトリックを使っていると判断したようだった。

 

「お前の目は節穴か? どう考えたってありゃあ素の力の差だろうよ」


 しかしその判断に対してもう一人の男は反発する。


「おい、誰が節穴だって!?」


「やんのかテメェ? やんのかオイ!」


 結果、周囲を巻き込んだ乱闘騒ぎとなってしまったのだが……。


「おい、そこの者たち何をしている!!」


 異変に気付きやってきた騎士によって鎮圧されるのだった。


 それからまた少し経った頃だろうか。

 待合室と言う名の独房のような場所で待機していた咲の元に騎士がやってくる。

 

「時間だ。心の準備は出来ているか? ……くれぐれも余計な事はしない方が良い。ダニエル様はその気になれば容易に人殺しすら出来てしまうお方なのだ。悪いことは言わんから、無理そうならすぐさま降参することだな」


「忠告、ありがとうございます。けれど、桜のためにも私は負けられないので」


 それだけ言うと、咲は待機室を出て闘技場の中央へと向かった。


「おお、逃げずに来たのか。それについては素直に誉めてやろう」


 既に闘技場内で待機していたダニエルは意地の悪い笑みを浮かべながら、咲を煽るようにそう言った。


「どうせ逃げられないようにしていたんでしょ」


「何だ、分かっていたのか。その通りさ。街から出るための全ての門には我が騎士団を配置していたし、かと言って外壁を無理やり超えようとすればすぐにバレるだろうからね。どちらにしろ貴様にはここに来るしか選択肢は残されていなかったのだよ」


「そんなに決闘したいならさっさと始めようか?」


 ダニエルが上機嫌に語っているのを疎ましく思った咲はそう言ってベルトを呼び出す。

 だがそんな彼女に向けてダニエルは「まあ待て」と言った風に手を振るのだった。


「決闘をするうえで血気盛んのは良いことだが……まあ待ちたまえよ。貴様に最後のチャンスをやろう。降参して私にサクラを差し出せば、貴様には一切手出しをしないと約束しようじゃないか。今ここで私に殺されるよりかは随分マシだと思うぞ? どうだ、自分の命が惜しいだろう? さあ、恋人を売れば貴様は自由の身だ」


「悪いけどそのつもりは無い。だって私は負けないから」


 その宣言と同時に咲はベルトのボタンを押す。


『滾る古代の力! カルノライザー!!』


 すると掛け声と共に恐竜を模したアーマーが彼女の身を包んでいった。


「……さあ、やろうか」


 こうしてカルノライザーが今、闘技場に爆誕したのだった。

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