16 正体バレ
「カルノライザー……!?」
「な、なんでここにカルノライザーがいるんだよ……!?」
突然現れたカルノライザーに驚く二人。
彼女が壁をぶち抜いて現れたのにも驚いているし、そもそも何故ここにいるのかということにも驚いていた。
「……桜? それに佐上も……ッ!?」
咲も二人に気付いたのか桜の名を口にする。
そして佐上が桜を拘束していることにも気づいたのだった。
その瞬間、咲の理性は限界を迎える。所謂、ぷっつんしてしまったという訳である。
「佐上、お前……桜に何をしたッ!!」
「な、なんでカルノライザーが俺の名前を知ってんだよ……!?」
殺意の込められた声で名を呼ばれた佐上は本能的な恐怖に支配され、咲から少しずつ距離を取るように後退りしていく。
先程襲われた蟻の魔物なんかよりも咲の放つそれは遥かに濃いものであり、さらにはどういう訳か初対面のはずのカルノライザーが自分の名を知っているのだ。
恐怖するしかないのも当然だった。
「ま、待て……俺は何もしていない……」
佐上は弱々しく情けない声でそう言いながら後退りを続ける。
しかし、とうとう壁際に追い込まれてしまった。
「桜にッ、何をしたッ……!!」
「ひぃっ……!? ぇぁ……」
咲に至近距離にまで迫られ、そのまま無防備に彼女の凄みのある声と迫力を浴びてしまった佐上はとうとう気を失ってしまったのだった。
白目を剥き、涙は溢れ、口からは泡を吹いている。もはや尊厳もプライドも無い。そんな姿となっていた。
「……やり過ぎたか。けど相応の事をしようとした訳だし、これも因果応報だよね」
咲はそう言うと桜の方に向き直る。
「桜、大丈夫だった? 佐上に変な事されそうになったんだよね?」
「えっ、あっ……はい。ギリギリのところで助けていただいたので……。その、本当に……ありがとうございました」
桜はどこか上の空と言うか、視線を合わせないようにして咲に……いや、カルノライザーに感謝を述べる。
それが何故か滅茶苦茶に他人行儀なことに咲は違和感を覚えたのだが、すぐにその原因に思い至るのだった。
「あっ……」
今、彼女はカルノライザーに変身しているのだ。
つまり桜は咲とではなくカルノライザーと話している訳である。
もっとも彼女がそんな態度をとっているのはカルノライザーに対して距離を感じているからではないのだが、それを咲が知ることは無かった。
「えっと……うん、無事なら何より。いやーよかったよかった」
正体を隠している以上、咲はそれ以上の事は言えなかった。
「……あの、一つお聞きしてもいいでしょうか」
「な、何かな?」
「どうしてカルノライザーさんがここに……いえ、この世界に……異世界におられるのですか」
「……」
とうとうその質問に答えねばならない時がやってきたようだ。
とは言え、桜と直接会話をすればいつかその質問が飛んでくるだろうと言うことは咲自身も重々承知だった。
一つ問題があるとすれば、その質問に対する答えが彼女には無いことである。
「あー……えっと、その、あれだよ……」
そうして言葉を濁す咲。
どうにかして正体がバレずに済む方法を考える咲だったが、思いつくのはどう足掻いても無理がある良い訳ばかりであった。
そんな彼女たち三人の元に忍び寄る影有り。
「ッ!」
その気配にいち早く気付いた咲は桜を抱え上げてから少し考えた後、結局佐上も抱え上げた。
あれだけの事をしでかした佐上ではあるが、見殺しにすることは出来なかったのである。
そして二人を抱えたままその場から逃げるように全速力で走り出したのだった。
「急にどうしたんですか!?」
「ごめん、魔物が近づいていたからつい……。ここがどこかはわからないけど、出口までこのまま走るつもりだから掴まっていて」
「ま、待ってください……!」
咲は桜に急に抱え上げたことを謝罪し、同時にこのままダンジョンの出口を目指すことを伝えた。
しかし桜はそれを制止するのだった。
「このダンジョンのどこかで私の大事な友達がまだ生きているかもしれないんです……! 探せばきっと……!」
その言葉からもわかるように、咲はまだ諦めていなかった。いや、友の死を受け入れられなかったという方が正しいだろう。
あの後、部屋が完全に収縮し終える前に何らかの方法で脱出したかもしれない。そんな著しく可能性の低い僅かな希望にすがっていたのだ。
「……」
桜のその言葉を聞き、咲は悩んだ。
このまま無視して走り続ければ、きっとカルノライザーと桜の間には決して埋められない溝が生まれてしまうだろう。
かと言って、二人を抱えた状態で存在しない咲を探しに行く訳にもいかないのだ。
「はぁ……。仕方ない……か」
これ以上は隠し通せないと感じた咲は正体を隠すのを諦め、頭のアーマーを解除する。
「えっ……」
そして現れたその顔を見た桜は絶句した。
そこには見慣れた顔が……親友である咲の顔があったのだ。
……いや、そんなはずは無い。だって咲は普通の高校生で、一緒に遊び、一緒に生きてきた一番の親友なのだ。侵略者と戦う正義のヒーロー『カルノライザー』であるはずが無い。
そう思う桜だったが、見れば見る程その顔は親友のそれと一致するのだった。
「そっか……カルノライザーは、咲ちゃん……だったんだね」
「……黙っててごめん。桜を……戦いに巻き込みたくなかったの」
咲も桜も、それ以上は何も言わなかった。二人共、今はその時ではないと理解していたのだ。
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