14 隠し部屋
「はぁ、はぁ……なんなんだよアイツは!」
佐上は露骨に不機嫌な様子でそう叫ぶ。
普通なら恐怖と不安で縮み上がりそうな状況ではあるのだが、彼はそれよりも自分より格上が現れたことの方にイラついていた。
「わからない。けど、どう考えても初心者の私たちが相手にしていいものじゃなさそうだね」
「くそっ、俺は上級剣術持ちだぞ……! 勇者適性だって他の奴らよりも遥かに高いんだ!」
お前は弱い……ダンジョンにそう突きつけられていると感じたのか苛立ちを隠せない様子の佐上。
「落ち着いて。今は冷静にならないと」
「あぁ? 外れ勇者如きのお前が俺に指図するんじゃねえ! さっきだってそうだ。あの程度で俺を助けたつもりか? 俺一人だって何とかなったに決まってるだろうが!」
「でも動けてなかったでしょ」
「この……!」
咲に図星をつかれた佐上は剣を振りかざした。
「ちょっと二人共、喧嘩はだめだよ……! それに大きな声を出したらさっきの魔物にバレちゃうかも……」
このままでは不味いと感じたのか桜が口を挟んだ。
そしてまたいつ魔物が現れるかわからない状況で喧嘩をしている場合ではないと二人を制止するのだった。
「……ごめん、桜」
「チッ……いいか、ここからは俺の言う事を聞いてもらうからな」
そう言って佐上は歩き出す。
幸い先程の魔物はもう近くにはいないらしく、しばらくは他の魔物と接敵することも無かった。
そうして順調に進んでいた三人だったが、少し歩いた先で行き止まりにぶち当たった。
「なんだ、行き止まりか……? はぁ、また別の道を探すしかねえか」
「待って、この壁……」
咲は壁に何か違和感を覚えたのか道を戻ろうとした二人を止める。
「ここ、模様が途切れてる……うぉっ」
壁の模様が途切れてることに気付いた咲は行き止まりになっている壁に触ろうとする。
するとまるで初めから壁など無いかのようにその手はすり抜けたのだった。
「なっ……!?」
「咲ちゃん!?」
「うーん、どうやら壁に見えているだけで実体はないみたいだね」
そう言いながら咲は壁の中に入って行く。
「お、おい勝手に行くんじゃねえ!」
「待って二人共!」
それに続いて桜と佐上の二人も壁の中に入る。
「お前、いい加減に……なっ、なんだこれ……!」
「何、ここ……」
壁を通り抜けた二人はその光景に絶句していた。
壁の向こうには部屋が広がっており、その中心にある玉座には骸骨が座っていたのだ。
「ま、魔物……?」
「それか誰かの死体かも」
「どちらにしたってただ事じゃねえだろこれ」
玉座は煌びやかに装飾されており、そこに座る骸骨は高そうなローブや装飾品を着用している。
それはまるで権力者の部屋がその権力者ごとそのままダンジョンの一部と化したかのような状態だった。
「は、はは……転移した時はどうなるかと思ったが、まさかこんなお宝に出会えるなんてな」
佐上は目の前のお宝に目がくらんだのか何の警戒もせずに玉座に近づいて行く。
「待ってよ佐上君……こういうのって勝手に触ったり盗ったりするのは駄目なやつじゃ……」
その行動があまりにも軽率に思えたのか桜がそう言うものの、佐上が歩みを止めることは無かった。
「大丈夫だって桜ちゃん。ここに入った時点で動かないんだからこの骸骨はただの死体なんすよ」
佐上はそう言いながら何の躊躇もなく骸骨の身に着けている指輪を外し、それを持ってきた皮袋に次々に入れていく。
「はっ、ははっ……こんだけのお宝があれば武器も防具も買いたい放題だぜ……! ん、なんだこの音……?」
しばらくすると部屋全体から異音がし始めたのだった。
「や、やっぱり駄目だったんだよ……!」
「そんなはずは……いや、こんなのただの脅しに決まってるって!」
「あーこれ不味いかも……」
咲は部屋に起こっている異変に気付いたのかそう呟いた。
「咲ちゃん……?」
「落ちついて聞いて。この部屋、少しずつ狭くなってる……壁が迫って来てるって言えばいいのかな」
「え……?」
咲の言う通り、ゴゴゴ……という音と共に壁が少しずつ三人の元に迫って来ていた。
「おい、ふざけんなよ! このままじゃ潰されちまうじゃねえか!」
佐上も流石にこれはヤバイと思ったのか部屋に入る時に通って来た壁へと向かう。
しかし……。
「ぐぁっ……!?」
その体が壁を通り抜けることは無く、壁に勢いよくぶつかった佐上はそのまま転倒してしまった。
確かに三人が入って来たはずの壁はいつの間にか実体を持っており、そこから外に出ることは出来なくなっていたのだ。
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