5 外れ勇者の運命
「……それ、どういう意味」
国王の視線に嫌悪感を抱きつつも咲は平静を装ってそう返す。
「なに、簡単なこと。この世界において外れスキルを持った勇者は嘲笑の的なんじゃ。まともな職に就くこともできんじゃろう。所詮は外れじゃからな」
国王は時折笑いながら、明らかに咲を煽っているような声色で続ける。
「過去にも外れ勇者の女が召喚されたことがあったが……冒険者や傭兵としてやっていくにも能力も適性も貧弱だったようでな。最終的には奴隷商に自らを売り、その後性奴隷として娼館に売り払われたと言う」
「……で、何が言いたいの?」
だから何だと言った様子でそう返す咲。
もちろん彼女だって何にも思っていない訳では無かった。性奴隷という存在自体は知っていたし、他人がそうなるのを良くは思っていない。
ましてや自分がそうなるのはまっぴら御免だと思っていた。
しかし今ここで感情を表にするのは悪手であると理解していたため、あえて何も感じていないかのように振舞ったのだ。
「まだわからんのか? 今どの道を選ぼうと、遅かれ早かれ其方もじきにそうなると言うことじゃ。まあ、我としては其方のような麗しい女が娼館に追加されるのも悪くは無いがの」
「何と言うか、悪趣味ね」
「むぅ……」
国王は咲の言葉と様子が想像していたものとは違ったのか、露骨に面白く無さそうな表情を浮かべた。
「こういう時、普通は懇願するものではないのかの~。何でもするから助けてくれ~とか、言う事聞くからそれだけは~とか、そういうやつを期待しておったのじゃが……はぁ、つまらん。もうよい、この外れ勇者をさっさと追放しろ」
「ま、待って!」
兵士が咲の腕を掴み部屋の外へ連れ出そうとしている時、桜がそれを呼び止めた。
「どうして咲ちゃんが追放されないといけないの……!? 強い能力が無くたってきっと何かできることが……」
「残念ながらそれは無い。能力の高さと勇者への適性で全てが決まる……そういうものなんじゃ」
「そんな……」
桜はその場に泣き崩れた。追放されそうな友人をどうにかして助けたいのに、今の自分にはどうすることも出来ない。そんな惨めな自分に、ただ泣くことしか出来なかった。
ただでさえ急に異世界に召喚され精神が参っているのだ。そこに追い打ちをかけるように友人の追放など、とうてい普通の女子高生が受け入れられるはずも無かった。
「あ、そうだ」
そんな中、佐上が再び口を開く。
「それじゃあ俺が咲ちゃんを保護する代わりに、桜ちゃんが俺の言う事を聞くってのは……んぁ?」
「……桜には手を出すな」
一瞬。そう、それはまさに一瞬の出来事だった。
佐上が軽はずみにそう言ったのとほぼ同時に、咲が彼の懐に潜り込んでいたのだ。
「な、なんだ今のは……! 確かにあの者の能力は外れスキルの変身のはずじゃったが!? あれではまるで『上級俊足』……いや、それ以上では無いか!」
まるで瞬間移動をしたかのような凄まじい移動速度。その場の誰もが咲の移動を目でとらえられなかった。
しかしそれはおかしいと国王は何より理解している。
所持している能力も勇者への適性も遥かに高いはずの者が、外れ勇者の移動を目で追えないなど決してあってはならないのだ。
だが現にそれは起こってしまった。
「お、おいどうなってんだ! なんで外れ勇者のお前にそんな動きができんだよ!?」
「もう一度言う。桜には手を出すな。わかった?」
「ふざけんなよ……誰に向かってモノ言ってんだお前!」
咲の態度が気に入らなかったのか佐上は拳を強く握り咲へと振り下ろす。
その時だった。
「なんだ、地震か?」
ズシン、ズシンと部屋が揺れ始めたのだ。
佐上もそれが気になるのか振り下ろしていた拳を止める。
「いや、地震にしては妙に規則的なような……。これ、もしかして足音じゃ……」
一人の生徒がそう言うように、その揺れは地震にしては規則的であった。
だが異変はそれだけでは終わらない。
「ねえ見て、外が……!」
それまで光が差し込んでいたはずの窓がまるでカーテンでもかけられたかのように突如として真っ黒になったのだ。
「これは……ぐぅっ、何事だ!!」
国王が何かを言おうとした瞬間、とてつもない轟音とともに部屋の天井が吹き飛んだ。
石造りの壁はガラガラと崩れ落ち、煌びやかな装飾が施されていた窓はガシャンと砕け散る。
そして天井の無くなった部屋の外にいたのは……一体の巨大な龍だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます