第26話 ひみつ道具完成

 昼食の時間になった頃、エイダが私に昼食を持ってきてくれた。


 テーブルにエイダと向かい合って昼食を食べる。


「申し訳ございません。今朝になって急に陛下から仕事を仰せつかりました。特に私でなくても良いような仕事なのですが、陛下の命令であれば従わないわけには参りません」


 どうやら私の周りから人を遠ざけるのが目的のようだ。


 それが陛下自身の判断なのか、他の人物の思惑なのかはわからない。


「仕方がありませんわ。陛下にとって私は招かれざる客でしかありませんもの」


 昼食を終えるとエイダは何度も私に頭を下げながら、ワゴンを押して部屋から出て行った。


 次に来る時には何か暇潰しになるような物を持ってきて貰うことをお願いしてエイダを送り出す。


 一人になった部屋で何をしようかと考えていると、当然部屋の中央に魔法陣が浮かび上がった。


 思わず立ち上がって警戒していると、魔法陣の文字が光を帯びてきた。


 その光が一層まばゆく光ったと思うと、魔法陣の中央に人の姿が現れた。


「…ケンブル先生?」


 そこに現れたのは、昨日魔道具をお願いしたケンブル先生だった。


 昨日よりも更にボサボサの頭をして、目の下にはくっきりとクマが浮かんでいる。


「おお、キャサリン様。こちらにいらしてたんですね。アラスター様のお部屋に行っても誰もいないので探しましたよ」


 この部屋に来る前にアラスター王太子の部屋を訪ねたらしい。


 だが、アラスター王太子は朝から陛下に仕事を言いつけられていて部屋にはほぼ戻っていないはずだ。


「キャサリン様がどちらにおられるのか聞きそびれていたので、魔法陣でキャサリン様の居場所をさがしました」


 この魔法陣もケンブル先生が作った物で、会いたい人物の名前と顔を思い浮かべると、その人のいる場所に行けるそうだ。


 ケンブル先生が私を探していたという事は、魔道具が出来上がったのだろうか?


「お手を煩わせてしまい申し訳ございません。それで私にどのようなご要件でしょうか? もしかして…」


「そうなんですよ! とうとう魔道具が完成しました!」


 魔法陣から降りたケンブル先生がツカツカと私に駆け寄ってくる。


 あまりの勢いに思わず後ずさりしてしまったのは許してほしい。


「見てください! チョーカー型の魔道具です。猫になられた時には首輪になりますので、不自然にはなりませんよ」


 ケンブル先生が私の目の前にチョーカーを広げて見せる。


 確かにチョーカーならば、猫になっても不自然じゃないかもしれないけれど、人間と猫では首のサイズが違うと思うのよね。


「まずはこれを着けてみてください」


 ケンブル先生に渡されたチョーカーを首に着けてみる。


 少しサイズが大きいようだけれど、どこかで調節出来るのかしら?


 けれど、私の首にチョーカーを着けた途端、スッと私の首に合わせてチョーカーが大きさを変えた。


「自動でサイズが変わるようになっています。なので猫に変わられてもその首に合わせてチョーカーも小さくなりますよ」


 ケンブル先生に言われて半信半疑のまま、クシャミをして猫になってみる。


 ポンッ!


 私の姿が猫になった途端、首のチョーカーが猫の首輪のように小さくなった。


 しかも、その場に残されるはずの着ていた服が何処にも見当たらない。


「あらっ? 服は?」


 いつもならば猫の鳴き声になるはずなのに、ちゃんと人間の言葉が出て来た。


「やった! 成功です。ちゃんと猫になっても人間の言葉が話せるようになりました。それでは今度は人間の姿に戻ってみましょうか」


 ケンブル先生に鼻をくすぐられてクシャミをすると、私の姿は人間へと戻った。


 しかも着ていた服はそのままの状態である。


「素晴らしいですわ、ケンブル先生。私のためにありがとうございます」


 これでアラスター王太子の前で猫から人間に戻っても何の問題もなくなってくる。


 事情を知らない人達の目の前で変身したりはしないけれど、少なくとも服を残したまま消えたり、裸のまま現れたりする事はなくなった。


「とんでもございません。私の方こそこんな魔道具作りが出来て嬉しかったですよ。さあ、次は呪い無しでも他の動物に変身出来る魔道具を作りますかね」


 ケンブル先生は嬉々として魔法陣に乗ってまた研究室へと戻って行った。


 呪い無しでも他の動物に変身出来るなんて、諜報活動に役立ちそうね。


 私は首のチョーカーに手を触れながら、ぼんやりとそんな事を考えていた。

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