おまけ:神様見てると喧嘩も大変。

第36話 やらかす前のホワイトデー。

またやってしまった。

俺は死の未来を克服した喜びと、死の未来の時の状況を都合よくミックスしてしまった。


かつて、死んでしまう前の夏休みと同じように巡といられる気持ちになっていて、そして健康な身体を持った俺は巡ととにかく遊び倒そうとしていた。



少し話を変えると、6月29日はなんとなくだが、俺の命日にした。

巡や宮城光、白城さんは縁起でもないと言ったが、俺はその日に、仏壇に饅頭の一つでも置いて手を合わせたいと言った。


今年はそこに巡、宮城光、白城さんまでいる。


まあ初命日…、正確には1年前だが、最初はキチンと手を合わせたいと言ったところに、男神の奴だろう。

俺を困らせたいのか、宮城光と白城さんのカミサマ2アプリに[高城験の命日を偲べ]と指令を入れてきた。


これにより断れなくなった俺は2人の参加も認める事になる。


ご満悦なのは母さん。

巡はカミサマアプリの指令に関しては、基本的なものは逆らう気はない。

それはあの赤い髪色の女神が変な真似をさせないと言ってくれたからで、大人しく従っている。


とは言え、とは言えだ。


男神はやりすぎだと思う。


まずは3月のホワイトデーの指令が酷かった。



「験、指令が来たわ」


腰に手を当てて現れ、ポーズを変えて胸を強調するように腕組みして返事を待つ宮城光は、キチンと食事を摂るようになって、健康的な美人モデルになっていて、学校でもファンが増えていた。


時期的にホワイトデーだとわかっていた俺は「ホワイトデーのか?」と聞き返す。


「そうよ」

「なんだろ…。変な奴はやだなぁ」


巡なんて、嫌な順応で「なんだろね?気になるよね験」と言って、嫌な顔もしなければ、ヤキモチすら妬かない。


「3月14日は赤城さんに譲るけど、3月15日の日曜日は私よ。アルバイトがあるなら、終わったら言ってね」

「…まだ出してないから休む。てかなにそれ、嫌なんですけど?」

「嫌がると、私と験の写真とムービーが高城風香さんに届くわよ」


どうしてそこで母さんが出てくる?

神が未来予知したとかいう、あの別の未来線のエロ写真とエロムービーが母さんの目に届いていい訳はない。


「わかりました。言ってください光さん」


諦めて肩を落とす俺の横で、巡は八の字眉毛で「験は弱点満載だね」と言って笑う。


「デリシャススイーツ・ハイウィローってお店は知ってる?」

「あ?うちの近所のケーキ屋か?」

「そうなの?」


宮城光の返しが気になり「え?宮城知らないの?」と聞こうとしたら、宮城の「みや…」の所で「光」と強調されてしまう。


「光さん、ご存じないの?」

「ええ、指令に書かれていたから験に先に聞く事にしたの」


俺は呆れながら「高柳に聞けばいいのに」と言う。


「え?」

「ハイは高い、ウィローは柳。高柳の家だよ。高柳のウチは両親がパティシエなんだ」


こうして俺は指令に従って、宮城光と高柳の家で3月15日にケーキを買う事になった。


「…日曜日に宮城とかやだ…」


俺は机に突っ伏して岩渕さんの数学を聞いていると、横の巡が「験、白城さんは?」と聞いてきた。


白城さんも、なんらかの指令を受けているのかと気付いた俺は、背中がゾワっとした。


スマホを取り出して聞く事も考えたが、バイトで会うし、その時聞こうと思っていた。



聞かなきゃよかった。



白城さんも「ハイウィローってお店で3月15日にケーキを買う指令がきたから、お店休んだんだよ。よろしくね験くん!」と言ってきた。


おいマジか。

酷くないか男神さん?


最近では幻聴レベルで、小さく男神の「酷くねーよ。楽しませろ」が聞こえてくる気がしている。


そんな男神さん。

とりあえず何を考えたのだろう。

巡にも「ペナルティはないけど指令に付き合え」と言い出し、カミサマ3アプリの女神まで「よろしくね」なんて指令を出してきた。


わけわからん。


わけわからんが、マジでやだ。




3月15日。

俺は死にたくないが、死にたいくらいの気持ちになった。


13時00分

宮城光とハイウィローに入店。

店番は高柳母ではなく高柳だった。


「どうしたの高城?宮城さん?」

「ホワイトデーだ。宮城の奴に…」

「光」

「光さんに高柳の家がケーキ屋だという話をしたら、食べたいと言い出したから買いに来た」


このやり取りだけで高柳の顔色が変になる。

詮索する気はなくても「ホワイトデー?バレンタイン?名前呼び?」なんて呟いてしまっている。


「で、何がいいんだ光さんは?」

「ホワイトデーだから、ホワイトチョコレートスペシャルよ」


これも男神からのオーダーらしく、正直俺はそんな商品すら知らない。


高柳は宮城光に言われるままホワイトチョコレートスペシャルを2つ箱に入れると「はい。高城、2個で千円ね」と言った。


俺はそのケーキを持って家まで宮城光を案内する。


家まで案内する…、「ウチで食え」まで指令に入っていて吐きそうな気持ちだった。


ババア…もとい母上様は、滅多に着ないよそ行きを着て、化粧までして宮城光を待っていて「まあぁぁぁ!いらっしゃい!」なんて大歓迎。

絡むと長くなる。


「じゃ、ちょっと行ってくる。母さんは宮…光さんをよろしく。変な事聞かないで待ってて。できたら話しかけないで、耳栓しておいて」


俺は玄関に宮城光を残し「俺の部屋は漁るな!」と言って駅に向かった。



13時45分

今度は白城さんとハイウィロー入店。

高柳のひきつった笑顔と白い目が痛い。


「…た…高城?」

「何も言うな。ホワイトデーだ。白城さん」

「蛍だよ」

「蛍さんも何故かお前の家のケーキがご所望なんだ」

「オススメはなにかな?聞いた話だとロイヤルチョコレートケーキが美味しいらしいよね?」


高柳は「ハイ、美味しいデスヨ」と挙動不審に返し、白城さんはロイヤルチョコレートケーキを2個買う。


「験くん。ご馳走様」

「いえ、ホワイトデーですから」


高柳は「ホワイトデー…、バレンタイン…、名前…、宮城さん?えぇ?夢?」なんて言いながら、俺から金を受け取って「ありがとうございました」なんて言う。


「あはは。すごい顔だったね」なんて言う白城さんを連れて家まで行けば、ババア…もとい母上様は、先ほどと寸分違わぬ顔で飛んでくると、「まあぁぁぁ!いらっしゃい!」なんて大歓迎。


「じゃあ、もう一度行ってくる。白城さんと宮城は2人で仲良く話してもらっていてくれ、母さんは茶を出したら黙って天井の壁紙の目でも眺めていてくれ」


そんな事を言えば、横からは「蛍だよ」と言われ、リビングからは「光!」と聞こえてくる。


俺は肩を落として「母さん、マジで余計な事しないで」と言って駅まで巡を迎えに行った。


二度あることは三度ある。


高柳は頬をつねっていた。


「高城?ホワイトデー?」

「そうだ。わかってくれて嬉しいぞ」


高柳は脂汗を浮かべて巡を見て頭を抱える。


「巡、高柳のケーキはどれもオススメだ。好きな奴にしてくれ」

「うん!」


巡がケーキを眺めている間、高柳に「1日店番とは珍しいな。文化祭の時といい、いじめられてるのか?」と、からかい混じりに聞いてみる。


「イジメって…、親から?違うよ。父さんと母さんは朝はなんでか4時半に目が覚めて、20代の頃の元気に満ちているって言い出してケーキを焼いて、なんでか今度は、これはきっと70代の疲れだとか言い出して寝込んだんだよ。せっかくのケーキも台無しにできないから俺が店番」


…ああ、巻き込まれたな。

野口悠人達が、俺が巡と宮城光と白城さんのエロ写真とエロムービーを見るように仕向けるために風邪を引かされたと俺は思っている。

あの風邪はどう見てもおかしい。

俺がムービーを見た瞬間に治りやがった。今回の高柳家も巻き込まれたのだろう。


話している間に、巡るはアルティメットショートとかいう強そうなショートケーキを選んで2個買った。


俺は高柳に生暖かく見送られて外に出ると「男神〜、高柳家のケーキ、全部売り切れにしてやってよね」と呟くと、「任せな!ヒーヒー言わせてやんよ!」と聞こえてきた後、アニメでもなければ見ないような人の群れがハイウィローに駆け込んでいく様を見てしまった。


俺の呟きが聞こえていた巡は「験?」と声をかけてくる。


「あれ、男神のいたずらだよ。俺が宮城と白城さんと巡と行くのを高柳に見せたくて、高柳の両親に1日分のケーキを作らせて寝込ませたんだ。巻き込まれ損だから、せめてケーキの売り上げくらい、いい思いして欲しいんだよ」


巡は笑うと「験はカミサマともうまくやれてるよね」と言った。

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