第24話 母のワガママと白城蛍。
ようやくの冬休み。
冬休みのバイト初日。
バイト先は田所の乱もようやく落ち着いて来て、学生バイト達が入っている事と、短期バイトが入ってくれた事で落ち着いている。
俺と言えば、母さんが怒鳴り込んだ事と、宮城光に捕まったとは言え、補習になってしまった事で、24から29まで休めた事は大きかった。
なので冬休み初のバイトは今年最後のバイトだったりする。
店に出るなり「今年最後だよね。おはよう」と言ってきたのは白城さん。
「おはようございます。ようやく日常ですね」
「本当、田所の奴のせいで散々だったよね。まあアイツは激戦区送りになったから辞めるんじゃない?ボーナスも最低だって聞いたしね。ザマアミロだよ」
激戦区と言われる店舗は、年末年始だけでこの店の1ヶ月分の売り上げを叩き出すお店で、働かない田所が働けるように激戦区送りになって、生まれ変われるか追い詰めて行くらしい。
そうなった経緯も無茶苦茶だったが、納得の事件を知らない所で起こしていて、エリアマネージャーが頭を抱えながら店長に愚痴を言っていたのを白城さんは見たらしい。
仕事は順調。
不思議な事に従業員も客も年末感が出ているのに、店の中の空気は普段と変わらなくて、なんかコーヒーにミルクを淹れたみたいなマーブル模様みたいな気がしてしまう。
無事に中継ぎも終わり帰る時、白城さんは「久し振りに行こうよ」と俺を誘う。
なんの問題もないので「はい」と返して着替えを済ませると、夏より着る服が多くて時間がかかる。
外に出て「ちょっと待ってください」と言ってから家に[遅れて帰る]と入れる。
スマホをしまって「お待たせしました。行きましょう」と言う俺に白城さんが「誰に連絡したの?美女幽霊のモデルさん?」とニヤニヤ顔で聞いてくる。
ここで宮城光が出てくる意味がわからなくて、「宮城になんで連絡するんです?親ですよ。夕飯の時間がとか、皿洗うタイミングがって言われるんですよ」と説明すると鳴るスマホ。
画面には「母」の文字。
何故かけてくるんだ母さん?
無視するわけにもいかず、取って「母さん?なんだよ連絡しただろ?」と言うと、即座に言われる「誰といるのよ!宮城さん?白城さん?赤城さん?」のお言葉。
関係ないだろ。
てかなんでその3人が出てくんだよ。
嘘をつく必要もないので、「白城さんと居るけどなんだよそれ」と言っていると、白城さんが「こんにちは」と口を挟む。
「験!お母さんは白城さんと話したいから電話を渡して!」
何を言い出すんだ43歳。
やめてくれよ43歳。
そして何を言うんです19歳。
やめてくださいよ19歳。
白城さんは「高城くん、貸して」と言って電話を受け取ると、「こんにちは。ご無沙汰しています。白城です」と挨拶をする。
聞きたくないが聞こえてきてしまう声。
要約すれば、母さんは俺の人生最初で最後のモテ期で、とにかく嬉しくてたまらない。
それなのに、俺は消極的で宮城光に関しては写真がネットにあるから見られたが、白城さんの写真はないから父さんに見せてあげられない。
だから写真が欲しい。
写真が欲しいにギョッとして「はぁ!?」と聞き返してしまうが、白城さんは笑顔で「はい。はい。わかります」なんて言っていて嫌な予感がする。
そんな中聞こえてくる「験は親不孝な子だ。親を喜ばせる気がない」の言葉。
前の時は「あんたは親不孝だよ。親より先に死ぬなんて親不孝なんだよ」と寝たきりになった俺を見て母さんは言っていた。
同じ言葉でも重みが違いすぎる。
俺は生きてるよ。十分に親孝行だよ。
俺が前の時を思い出していると、電話は終わっていて、白城さんが「ほら、こっち」と言って、駅前の少しだけ景色のいいところに俺を連れて行くとツーショット写真を何枚も撮る。
「違うなぁ」
「リトライ」
「もう一回」
そんな事を言って、通行人まで巻き込んで撮った写真に、ようやく白城さんは納得すると「ほら、これとかをお母さんに送ってあげなよ」と言って写真を見せてきた。
よく見ると俺のスマホと白城さんのスマホで撮っていて、吟味する為に一度全部の写真を白城さんに渡していた。
母さんはご満悦で、家族グループの中で父さんが[これまた美人さんだねぇ]と喜んでいる。
クソウザい。
俺はまたポテトとコーラを持ってくる白城さんとお茶しながら「親がすみませんでした。誤解だってキチンと説明します」と謝ると、ケラケラと笑い飛ばした白城さんが、「いいじゃない。親孝行だよ」と言ってポテトを食べる。
ポテトを飲み込んだ所で、「それよりさ」と言って身を乗り出してきた白城さんは、「案外高城くんは乱れてるなぁ」と言ってきた。
「へ?乱れる?」
「モデルちゃん…宮城さんとも写真を撮って、赤城さんだっけ?あの子ともツーショット撮ってる。モテモテなのは凄いけど、女の子を弄んじゃダメだよ」
…見られてた。
確かに撮った写真を見る時に見えてしまうが、すっかり失念していた俺は「えぇ…」と言ってしまう中、「あとあの肉まん何?特別なの?」と聞かれた。
肉まん周りのことを説明すると、「優しいね」と言われてから、「まあいいや。1月の11日が誕生日だからさ、私の時もよろしくね。ツーショットの仲なんだからいいよね?待受にしていいからさ」と微笑まれた。
大人の気配を出す白城さんは、なんのことないポテトとコーラとバーガー屋なのに凄く綺麗に見えた。
帰り道、フォトフォルダを見ると、結構大量に白城さんの写真があって、巡、宮城光、白城さんと、まあまあ誤解されかねないフォトフォルダが出来上がっていた。
巡としか何もない俺だから平気だが、確かに皆は誤解しかねない。気をつけねばと思った。
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