第22話 もう少し待って。

母さんの誤解とウザ追及を逸らす為にも、そしてそれを言い訳にして、俺はクリスマスを巡と迎えた。

巡に頭を下げて奢るんでどうかということにして、前から言っていた甘党天国のスイーツ食べ放題を予約した。


「本当に奢ってくれるの?悪くない?」

「奢るよ。悪くないんだ!」


熱心な俺に疑問を持った巡に、母さんがウルトラ誤解していて面倒臭い追及をしてくる事をもう一度説明して、「ただ、申し訳ないんだけど、ウチまで迎えに来てくれない?」と言うと「…それでいいならいくけど…」と巡は言った。


「けど?」

「宮城さん可愛いよ?」

「そういうのじゃないって」


しかも甘党天国の食べ放題にしたのは巡の幸せな顔が見たい事もあるが、それ以上に甘味食べ放題なら宮城光は来ない。

俺はそんな事を考えて家で待つと、夕方の少し前になって巡は俺を迎えに来てくれた。


「あら?」という母さんの声が聞こえてくると、巡は「赤城と申します。験くんいますか?」と言ってくれていた。


俺は昔の感じを出すように、「巡!お待たせ!」と言って、「じゃ、ご飯食べにいくから」と母さんに余計な事を言わせずに巡と外に出た。


角を曲がって「コレでよし!」と言うと、巡は呆れ笑いをしながら「よかったの?」と聞いてきた。


「いいんだよ。沢山食べてよ。クリスマスプレゼント」


そう言うと、巡は「験も手伝ってよ。2人で食べよう」と言ってくれた。



とても楽しい。

なんとか初めてのフリをして、巡から聞いていない家の事とかご両親の事とかを聞いて行って、前と同じ会話が出来るようにしていく。


2人で甘味を食べて、幸せそうな巡の顔を見て嬉しい気持ちになる。


前の時は食べられる量は減っていたし、味もわからなくなっていたけど今は違う。

2人で食べて感想を言い合って、沢山巡の喜ぶ顔を写真におさめると俺も撮られていて、見せて貰うと前回とは違う元気そうな顔をしていた。


つい「元気そうな顔で安心した」と言ったら、凄い顔で「調子悪いの!?大丈夫!?」と聞かれてしまう。

慌てて「いや、自分の顔なんて髭剃る時くらいしか見ないからさ」と返すと、「脅かさないでよぉ」と言われ、それは前の巡が言う顔と声に酷似していて、俺も普通に「巡?」と聞き返してしまった。


「験は元気なんだから。沢山友達と遊んで、沢山幸せになってよね」

「…それは横に巡がいてくれるなら出来る事だよ」


少しカップルが放つような独特な空気感の中、俺が告白しようとした時、巡は「もう少し待って。春まで待って」と言った。


意味がわからない俺に、巡は「まだキチンと験を見れてない。もう少し待って」ともう一度言った。

確かにまだ接点が少ない。

そう言われても仕方ない。


「…わかったよ。もっと見てもらいたいからこれからも出かけよう」

「うん。沢山行こうね験」


俺たちはお腹いっぱいで苦しいと言いながらイルミネーションを見て歩き、2人で写真も撮る。


前と何も変わらない。

違いはキスがない事と、そのまま肌を重ねることがなかった事。


帰りは巡を送って家族に挨拶をする。

今になって思うけど、前はかなり無理をさせてくれていた。

外泊を可能な限り許してくれて、土日は殆ど一緒に居させてくれた。


別れ際、「明日からの補習、頑張ってね」と言われて一気に現実に戻される。


「…俺、言うほど成績落としてないのに」

「あはは。宮城さんのお願いだから仕方ないよ」


宮城光のドヤ顔を思い出して苛立つ俺を、巡が「そんな顔しないの」と慰めてくれて帰る空気になる。


「今日はとても楽しかったよ」

「私も。ごめんね。もう少し待ってね」


巡の言葉の意味がわからない。

本当に接点が少ないだけなのだろうか?

だが悪い雰囲気ではない。

なのでそのまま流れに身を任せる事にした。


帰りの電車の中、口の中が甘ったるくて、駅そばの匂いがして来たことから蕎麦を食べたい気分になり、巡に「年越しそば行こうよ」と誘うと、「いいよ。野口くん達も誘う?」と返された。

確かにそれも悪くない。

野口悠人も星野陽翔も神頼みまでしてくれて、新学期に「治ったろ高城!?」と聞いてきて神頼みを聞いて笑ったし、千羽鶴みたいになったお守りを渡されてしまって困ってしまった。


あの時の事を思い出しながら「そうだね」と返したら、巡は「じゃあ誘っておくよ。31日のお昼ご飯でいいよね?」と言ってくれてバイトもないのでOKを出しておいた。


そんな楽しい気持ちなのに、俺は翌朝学校にいて横にはドヤ顔の宮城光が「今回もよろしくね験」とか言っている。

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