第12話 あたまきた。

試合は一進一退。

相手は三年生様なのでなんというか強い。


だが向こうもヘトヘト、こっちもヘトヘトで、三試合しか出して貰っていない俺だけはピンピンしている。


俺は得意な中盤でボールを回していき、「星野!任せた!」なんて言いながらパスを出す。


思い切り身体が動かせる事は楽しい。

2年の時は痛みと戦っていて満足に動けなかったし、3年の時には球技大会なんて夢の話だった。


試合時間は半分過ぎていて、点差は同点。

だがまだ挽回は可能。

そんな時に気付くと、保健室の地縛霊達は前に出てきていて「頑張れ!」と声援をくれていた。


巡が見ているなら良いところを見せたくなった俺の耳には、三年の「宮城光?ちっ、モデルに応援されやがって」の声が聞こえてきて、その直後に強めのタックルを食らう。


思わず転ぶ俺を見て、巡と宮城光が「やだ!験!」、「死んじゃう!」なんて慌てた声を出すが、別に背中から落ちても死なないって。


だがまあ当たりどころは悪く、手術跡地周辺が切れて血が流れる。

星野陽翔が1番に飛んできて「傷口見せろ!痛くないか!苦しくないか!?」と言って背中をめくるとどよめきが起きる。


野口悠人が「野朗!俺が出る!高城は早く戻れって!死ぬぞ!」と声をかけてくれるし、巡は泣いて「死んじゃう!」とか言う。

宮城光は「早く戻りなさいよ!」と怒鳴ってくる。


何これ、死なないってば。


だがまあ、フィールド上は全員敵みたいになっていて、俺に下がれ下がれというので渋々戻ると、実はここで初めて知るのだが、手術跡地周辺が切れていた。

保険医が「やな所怪我したわね。ひきつって痛いでしょ?」と声をかけてきたが、「まあひきつりは天気でもあるし」なんて答えている横では、手術痕を初めて見た巡と宮城光は、真っ青な顔で泣きながら「死んじゃう」なんて言っている。


「死なないって、それより言霊とかあるからそっちのが怖いって、言うなら『死なない』、『治る』、『なんともない』にしてよ」


俺は1人で笑い飛ばす訳だが、感染とか心配してプールも入らなかったし、見た目も悪くて着替えも見えないようにしていた俺の傷は皆を刺激してしまう。


「アイツ、もしかしなくても殺されるところだったんじゃねぇか!?」


そう言ってブチギレた星野陽翔が三年相手でも睨みつけるし、三年は三年で、まさか倒して怪我させた相手がゴツい手術痕の持ち主で、その周辺を痛めつけたとあって慌ててしまうし、バツの悪い空気が流れる。


「おうコラ、ウチの高城にもしもの事があってみろ。タダじゃ済まさねぇからな?」


星野陽翔が睨みつけた瞬間、三年は「ウルセェ!知らなかったんだから仕方ねぇだろ!」と言って星野陽翔を殴り、星野陽翔がフィールドを転がった。


星野陽翔を殴った?

なんでだ?

星野陽翔は殴られて良い奴じゃないだろ?


前の時も、巡の掃除当番や俺の掃除当番も代わってくれて、とにかく1分でも時間を作ってくれた。

調子が悪い日、足腰が弱った時だって、合唱祭でも肩を貸してくれてひな壇を一緒に登らせてくれた。


そんなこと言ったら野口だって、谷口だって堀切だって皆良い奴だ。

死にそうな俺を見て、辛そうな顔を誤魔化すように泣きながら笑ってくれていた。


「あたまきた」


そう呟いた俺は、「後でまた来ます」と言って救護室を出ると、野口悠人に「野口、星野、どっちでも良いから交代。代われ」と言ってフィールドに出る。


ごたつく空気にどうするか悩んでいる審判の岩渕先生に「先生、試合再開。今のパンチはチャラにするんでノーカンで」と声をかける。


野口悠人が足を引きずって外に出る時に、立ち上がって「痛え」と言ってる星野陽翔に、「ありがとう。あたまきた。勝つぞ」と声をかけると試合が再開された。


「前に出る。星野はアシストよろしく」

「お…おぅ。死ぬなよな」

「死なないって」


ボールを回してもらって前を歩くと、三年がボールを取りにくる。

関係ない。

ルール無用。

取りにきた足ごと蹴り抜いて、そのまま前に出る。


1人目が飛ばされて転がる中、走るでもなく前に出て、「次、早くきてくださいよ」と言って星野陽翔と進むと、次々に三年は向かってくるが、片っ端から蹴り足ごと蹴り抜いて前に進む。


キーパーには「頑張って防いでください。顔面狙いますから」と言ってシュートをする。


何度でもシュートをして防がれると、キーパーは前に蹴り出そうとするのを身体で受け止めてまた顔面を狙う。


時折外れたボールが星野陽翔の方に行くと、星野陽翔は普通にシュートしようとしてしまい、「星野、狙いが違う。顔だよ」と言ってしまうと、5分で無効試合にさせられてしまった。


「え!?ルールは!?ルール上ファールしてませんよ!普通にサッカーしてましたよ!」


驚いて審判の岩渕先生に談判したが、「お互いやりすぎだ。これはもう試合じゃない。スポーツじゃない」と言われ、勝ち数と負け数の関係で俺達は四位になってしまった。


「皆ごめん、無効試合にされちゃった」


俺が謝ると、皆許してくれて、ムードメーカーの野口悠人が「いや!一体感マシマシだからいいって!陽翔の為にキレた高城は良かったって!」と言ってくれたら皆が許してくれた。


一応、後腐れないように男子が全員横並びで三年の前に立って謝りあって終わらせると、俺を押し退けた三年は謝ってくれた後で、「本当に死なないよな?」と聞いてきて、「平気ですよ。こっちもムキになってすみません」と謝って円満に終わった。

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