グイグイくるお隣のお姉さん。江戸沢麻美子は積極的すぎる。

白鷺雨月

第1話 隣室のお姉さん

 田代優一は大学を出て念願の一人暮らしを始めた。四月下旬のある日、彼は隣室の江戸沢えどさわ麻美子まみこと出会った。

 

 タッタッタッ……(足音)

 すいません、ちょっ待ってください。私も乗ります。

 はあっはあっはあっ……(荒い呼吸音)

 はあっはあっはあっ……(荒い呼吸音)

 ガーッ(エレベーターの扉が開く)


 はあっはあっ……良かったわ。待ってくれたんですね。ありがとうございます。

 うふふっお兄さん、優しいのね。

 あっすいません、初対面なのに慣れ慣れしかったかしら。

 あの…… 私両手がふさがってて。

 カザカサ(ビニール袋が擦れる音)

 近所のスーパーが特売だったんで、買いすぎちゃったの。卵なんて百円よ。買っちゃいますよね。ほら、最近って物価高でしょ。こういう日には買いすぎちゃいますよね。

 特売とか限定とかってテンション上がりますよね。

 あっごめんなさい。私買い物好きなのでしゃべりすぎちゃいましたね。

 あの、六階押してもらえますか。


 カチッ(エレベーターのボタンが押される)


 あれっお兄さんも同じ階なんですか?

 へぇ、奇遇ですね。

 あっそうなんだ。今月から一人暮らし始めたのね。

 

 チーンッ(エレベーターの扉が開く)

 カチッ(エレベーターのボタンが押される)

 あら、ありがとう。わざわざ開けてくれるなんて。お兄さん、優しいのね。

 じゃあお先に失礼しますね。

 

 カツッカツッカツッ(数歩歩く足音)

 あらっお兄さん、お隣さんなのね。

 あらあら、これはもしかしてもしかして、運命なのかしら。

 なんてね。

 どうしたの、お兄さん顔が真っ赤よ。

 大丈夫、熱とかない?

 そう、良かったわ。

 えっ、袋一つ持ってくれるの。

 ありがとう。お兄さんって本当に優しいのね。

 私、優しい人好きよ。


 ガソゴソッガソゴソッ。チャラチャラ(バッグから鍵を取り出す)

 カチャカチャ(鍵を開ける音)

 ありがとうお兄さん。

 カサカサ(ビニール袋が擦れ合う)

 お兄さん、持ってくれてありがとう。

 うん、あれどうしたの?

 お兄さん、また顔が真っ赤よ。

 一人暮らしで風邪なんかひいたらたいへんだわ。今日は早く休んでね。

 あっそうそう、私はね、江戸沢えどさわ麻美子まみこっていうの。

 へぇお兄さんは田代たしろ優一ゆういちさんっていうの。

 大学を卒業したばっかりなのね。

 ということは二十二歳なのね。

 お兄さんって大人っぽいから年上かなって思ってたわ。なら、私の方がお姉さんだね。 

 うふっ優一君より二つ上よ。

 じゃあ、これからもよろしくね。

 せっかくお隣さんなんだから、仲良くしてくださいね。

 ほらっ都会の人はドライだっていうじゃない。私そういうの嫌なのよね。

 人っていう字は支え合うって書くじゃない。だから助け合わないとね。

 何かあったらお姉さん頼ってもらっていいわよ。

 優しくしてもらったお礼もしなくちゃだしね。

 それじゃあ、優一君。ありがとうね。


 ギーガチャン(ドアが閉まる音が廊下に響く)



 優一君優しくて素敵だったわ。

 ドキドキドキドキ(心臓の鼓動音)

 あれっ優一君のこと考えてたら、胸がドキドキしてるわ。これってまさか……。

 そうよ、これがきっと恋なんだわ。

 あの人が私の運命の人かもしれないわね、うふふっ。私、ビビビッてきたわ。

 優一君がお隣に引っ越してきたのはチャンスだわ。彼強いない歴二十四年に終止符をうつのよ。頑張れ麻美子!!

 明日からグイグイ積極的にいくわよ。

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