COP

@NoLA1344

無価値なんだよお前は

「君は今、ここに必要ない。」

僕が彼に初めて言われた言葉はこれだけだった。

僕は地面に膝をつき、彼はそんな僕を見下ろしている。

周りに多くの野次馬はいたが、何を言っていても耳に入ってこなかった。

それほど彼の言葉とその表情は衝撃的だったのだ。


「おい!いつまでそこにいるんだ!邪魔だ!」


気づいた頃にはもう彼はその場にいなかった。

代わりに目の前にいたのは別の生徒。


「優心くんが必要ない言ったら、お前はこの学校に必要ないんだよ!

 さっさと失せろよインキャ!

 お前みたいな奴が優心くんに声かけてもらえるだけありがたく思えよ!

 その言葉が最後だとしてもな!」


そう言って足の裏で胸を踏んづけられ、体重任せに、蹴り倒された。

ただでさえ、地面に膝をついた状態で

『生徒会長からありがたいお言葉』をもらっているだけでも惨めだったのに、

更に蹴り倒されることで周りからの視線と嘲笑が止まらない。

僕は恥ずかしさのあまり、されるがまま蹴り倒され、動けずにいた。


「いつも温厚な生徒会長にあんなこと言われるだなんて…何をしたんだ一体…。」

「どうせインキャ特有のイタイノリで空気読めないこと言ったんだろ。

 終わったな。あいつの学院生活。」


我関せずとしていた傍聴者からはヒソヒソと声が聞こえてきくる。


僕は何もしてない。本当だ。

更にいうと、彼が僕のことを認識しているとは思えないほど面識が皆無。

それほど、関係もないし、繋がりもない。

それなのに「必要ない」とまで言われた。

そこまでいうか普通。


確かに僕はインキャだ。

e-スポーツ部でゲームをするほどに。

e-スポーツと言ってゲームをしている奴がインキャという概念自体もう古い気はするが、

この国ではe-スポーツやゲームというのはしていれば

「頭が悪くなる」「目に良くない」

そういった認識のままだ。

世界ではe-スポーツという言葉が発展し始めているのにもかかわらず、

この国では未だゲームに対しての当たりが強い文化が根強く残っている。


そんな国に生まれてきたためか、

周りがゲームに対して持っている印象がそういうものだったからか、

ゲームが好きだということに変わりはないのと同時に、

自分がインキャであることを認識している。

おそらく周りのゲーム友達も共通認識だろう。


まあぶっちゃけ、インキャだの陽キャだのどうでもいいんだ。

陽キャの皆さんがスポーツが好きなのように、

インキャである僕はただゲームが好きだということなだけなのだから。


風当たりの強い国に生まれた中でも

唯一救いがあるとすれば、この学院にe-スポーツ部なるものがあること。


実際は僕が発足したのだが、

それが許されたというのは僕にとって

学校生活がひとつ豊かになる一つの救いだった。


僕はその救いに感謝をし、一生懸命ゲームに打ち込んできた。

大会にもたくさん出てる。


しかも他のスポーツ部と同様に、

大会に出る時は学院の名前を背負って出場している。

風当たりの強い文化があるとはいえ、

学院の名前を背負って出場するというのになんだかブレを感じるが、

e-スポーツという言葉自体もまだまだ発展途中なのだろう。

そのうち僕たちの国の冴えない文化も、e-スポーツを受け入れるはずだ。


そんな中でも様々な大会に出場し、多くの結果を残してきた。

アマチュア大会から大人のプロが出場するような公式大会。

でた全ての大会で上位入賞とまではいかないものの、爪痕は残している。

その結果、僕のプレイヤーネーム"Routine"は”無慈悲な司令官”という異名で通るようになった。

漫画の世界であればかっこいいものの、

この異名には何か皮肉めいた意味も含まれている感じがして複雑な気持ちだった。


全ての大会で入賞はできていないが、

他のどのスポーツ部よりも成績を残している。

下手をすれば学院で一番貢献しているんじゃないだろうか。


しかし、学院はそれをよく思っていないのだろう。

毎月更新される学院内の掲示板には僕たちの部活の活躍が乗った試しがない。


これもまた時間が経てば解決するだろう。

そう信じていた。

今日までは。


生徒会長とすれ違いざまお互いに肩をぶつかってしまった。

僕はスマホで大会情報のチェックをしていて周囲への注意力がかけており、

肩がぶつかった衝撃ですれ違いざまの生徒会長と目があった。


いつも生徒会長の周りには男女問わず人が群がっている。

彼もまた話に夢中でぶつかってしまったのだろう。


彼は僕を見るなり、一瞬顔を輝かせたが、

それが嘘だったかのように冷酷で僕を蔑むような表情に切り替わった。


そして、


「君は今ここに必要ない。」


だ。


このセリフは僕にとっては死刑宣告そのものだった。

いつか僕たちの活動を学院に認めてもらいたい。

生徒会長のようにチヤホヤされたい。


そう思いながら学院の名を背負い、異名がつくまでに努力し、成果を上げてきた。

それがこの仕打ちだ。

まるで僕の努力が否定されたかのような気分だった。


反論する言葉が出なかった。

これはインキャ特有の「話せない」とかではない。

話すほど隙がないほど一瞬だったんだ。


その一瞬で強い衝撃と共に次には天井をただ見上げているだけになった。

放心状態の僕の視界にまた憎たらしい顔が映り込む。


「いつまで寝てんだよ!廊下の真ん中で!邪魔だろうが!」


胸ぐらを掴まれそのまま廊下の端へと引っ張られていく。

そしてそのまま持ち上げられ、壁へと押しつけられた。


「こんなんだから必要ないって言われんだよ!

 e-スポーツ?でいくら頑張ってもなぁ、

 お前みたいな奴がこの学院で必要とされることなんてありゃしねぇんだ!」


息がしづらい。

胸ぐらを掴まれたまま壁に押し付けられているからなのか。

こいつのこのセリフが僕の心を抉っているからなのか。

はたまたどちらも息をしづらくしている原因なのか。


「それが生徒会長…いや生徒会、

 しいては、この学院全体の総意なんだよ!

 わかったか?」


僕がその言葉に意見を求められることなんてない。

ただひたすらに、それでも、殺されたくないという本能が僕の首を縦に振らせた。


解放され、息を吸う。

新鮮さの無い、澱み切った空気だが、それでもないよりはマシだ。


「ほんとゲームばっかやってるせいで

 シャー芯みたいにほっそいし軽いんだな。

 もう少しで首の骨を折ってしまいそうだったぜ。」


その場で這いつくばってる僕を見下ろしながら、

きっちり整えられたオールバックの両横を手直しする。


「マジでゲームするくらいだったらサッカーしてた方がマシだわw。」


学業以外をゲームに費やしてきたからまともに運動なんてしたことなんてない。

それこそ昔少しサッカーしていたが、運動音痴すぎてやめてしまった。


「こんなような奴がゲームで名を上げてるから馬鹿にされるんだよ。」


確かに僕みたいな魅力のかけらもないやつが努力したって

結局は馬鹿にされるだけだ。

わかってる。


「それにお前んとこの部員もお前みたいに冴えない奴らばかりだったよな…

 一人ウルセェバカがいて、

 そいつだけは根性のあるようないいやつそうに見えたけど…

 あ!そういえばめちゃくちゃ可愛いマネもいなかったっけw?

 おい今度紹介してくれよwなぁw?」


言い返せない。

高圧的な態度を取られて部員たちを馬鹿にされているのに何も言い返せない。


自分の友達を悪く言われたんだ、普通に考えたら言い返すべきなんだろうが、

今、目の前の彼と僕とでは人間としての格が違う。

こう言うときに言い返したところで、全て裏目に出ることを知っている。

それに部員を馬鹿にされる原因を作ったのは僕だ。

僕がきっかけを作ってしまった。

僕なんかが部長になっていいわけなかったんだ。


「っち。無視かよ。どんくせえ上に人の話も聞けないとか終わってるよ。お前。」


不注意なんて誰にでもあるはずなのに、

ここまで言われてしまうのはきっと僕に問題があるのだろう。

いじめる方も大概悪い。

悪いのが前提だとしても、

いじめの標的にされる側も標的にされる要因というのを持っているため

されているんだ。


「まあいいや、親もこんな子供持ったら報われねぇなw

 ほんとゲームなんてのは体に毒だよ。毒。」


親…?ゲームなんてのは…?


「待てよ。」

「…あ?」


気づくと僕は立ち去ろうとしていた彼を引き留めていた。


「お前、今俺に指図したか?」


「うるさい。それよりも今、親がどうしたって?ゲームは体に毒だって?」


「…?言ったけどそれがなんだ?事実だろw?

 だからそんな体なんだろw?

 ヒョロっひょろでガリッガリの色白がよw

 ゲームなんてやめて、幼学生と一緒に走り回っておけよw」


「…ふざけるな。

 俺がここまでどんな思いでゲームに打ち込んできたかわかっているのか?」


「わからないね。わかりたくもないね。お前みたいなのがゲームをしようが、

 この学院では必要のないことだろ?優心君だってそう言ってたじゃねぇか。」


「必要なくなんてない…!」


「いいや必要ないね!お前の部活は!

 しかも、名指し!”お前”が、頑張ってもこの学院には必要ないんだよ!」


何度も繰り返される謳い文句に僕は我を忘れてしまった。


「うぅ…うわあああああああああ!」

「?!こいつ!!!」


そこから何が起きたのか何も覚えていない。

ただ怒りと殺意に身を任せ、あいつに襲いかかったことだけは覚えてる。

そこから先はまるでPCが電源を落とした時のように

目の前がまっくらになってしまった。

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