8話 ノナの正体を察したエム

後藤ゴトウ 絵夢エム


 今日は、この前友達になったノナとスカイツリーのダンジョンへと行く約束をしている。

 きっかけは、エムの高校が創立記念日で休みだったので、ノナの学校事情を考えずにうっかり誘ってしまったことから始まった。


(ヤンキーって言ってたけど、本当はなんで休みなんだろう?)


 流石にヤンキーというのは冗談で、実際は何か別な理由で休みなのだろう。

 振り替え休日であったりだとか、そんな感じだと予想している。


「うわっ!」


 昼食を取ってからスカイツリーへと向かうので、スカイツリー駅で待ち合わせをしている。その待ち合わせ場所で待っていると、かなり派手な格好をした女性の姿が目に入る。

 女子大生かそれ以上に見えるが、ファッションはなんというか、男子中学生が好みそうな感じである。勿論、ファッションは人の自由ではあるが、エムであれば中々真似をする勇気が出ないものであった。


 その女性と目が合うと、なぜかその女性はこちらへと走って来た。


「わ、私に何か用ですか?」


 目の前にまで来たので、どう考えてもエムに用があるのだろう。

 エムは恐る恐る尋ねてみた。


「エムだよね?」

「あ、あの……どうして私の名前……」

「あ、ごめんごめん! 私だよ! 私! 吉永ノナです!」

「へ゛ぇ゛っ!?」


 その名前を聴いて、思わず変な声で叫んでしまった。

 ノナは中学生と言っていたハズなので、大人の女性ではないハズなのだが。


「驚かせてごめんねー! どう? 服とか、かっこいいでしょ? 昨日買ったんだ!」

「え!? か、かっこいいね」


 服もそうだが、それ以上にダンジョン内の姿と違うのが驚きだ。

 確かに、ダンジョン内にも外見を変えるアイテムはあるが、あの時のノナが初心者というのは虹の秘薬によって証明済だ。ということは、最初からあそこまで現実世界と外見が違っていたというのであろうか? それ以上に、仮に見た目通り中学生でないとしたら、なぜ嘘をついたのだろう?


「うん! ダンジョン内では村人装備だからね! 現実ではかっこいい服を着たいと思ってね! ただ、まだ少し地味かなっても思ってるんだけど、エムはどう思う?」

「今のノナでも、私としては十分派手かなって……。勿論! かっこいいよ!?」

「そう!? だったら良かった!」


 これ以上派手というと、更にシルバーアクセサリーを追加するのだろうか?

 流石にもう十分派手であると、エムは感じていた。


「ファッションは語れる程詳しくないから、置いとくとして。なんか……こう見た目が、思ったよりも大人っぽいね! 大学生みたい!」

「えへへ! そうかな? というか、エムはエムで、髪の毛ピンクじゃないから結構印象変わるね!」


 ノナはこう言ってはいるが、普通に見ると女子大生かそれ以上だ。

 頑張れば、大人っぽい高校生に見えなくはないのかもしれないが、中学生は流石に無理があり過ぎる。


 別にだからと言って友達を辞めようだとかは全く考えていないのだが、純粋に気になってしまった。


「現実では校則とかあるから、流石にね。っていうか、本当に失礼なんだけど、本当にノナは中学生なの?」


 ノナとはこれからも友達でいたい。

 直球で聞いてみた。


「あの時はつい癖で中学2年生って言っちゃったんだけど、本当は今年で29歳なんだよね。ごめん!」


 この瞬間、エムの脳内に電流走る。


(そういうことか! それなら納得だ!)


 エムは脳内で、探偵の衣装に身を包んだ自分自身を思い浮かべる。

 そして、エム探偵は、脳内で1つの結論を出す。


(ノナは、VTuberなんだ!)


 VTuberとは、動画サイトなどにおいてアバターを用いたり、キャラになり切って配信や動画投稿をしている人を指す。

 癖で中学2年生と言ってしまったと言うのは、おそらく中学2年生というキャラ設定で毎日のように配信をしているからなのではないのか?


 それに、ノナは29歳にしては、かなりテンションが高い。

 いや、確かに大人でもテンションが高い人はいるが、なんというか本当に中学2年生なのではないのかと思う程の純粋さを感じる。


 だが、VTuberであれば納得だ。常日頃から中学2生のキャラクターを演じ、皆を楽しませているのだろう。おそらくそれが無意識に身に染みついているのかもしれない。

 で、あればだ。VTuberの中の人について詮索するのはマナー違反。これ以上はノナが何かを言わない限りは、聞かないことにした。


「いやいや! 謝らなくていいよ! ただ、あまりにもダンジョン内の姿と違ったから……もし、なんか事情があるんだったら、こっちこそごめんね?」






☆吉永 ノナ


「ふぅ! 美味しかったぁ! やっぱり、いつの時代もマックドナルドの味は変わらないねぇ!」


 マックドナルドで昼食を食べ終えた、ノナとエム。

 元の時代よりも値段は上がっていたが、美味しかったので良しとした。


「ふふ! なんだか嬉しそうだね!」

「美味しかったからね! ハンバーガーやポテトを食べながら、炭酸ジュースをゴクゴクと飲む!これぞ生きがいって奴だね!」

「ハンバーガーで生きがい!? 大げさじゃない!?」

「そう? まぁ、他にも色々生きがいはあるけどね!」


 昼食を終えた2人は、スカイツリーの前へとやって来た。


「ここにもあれがあるんだね! ダンジョンの入り口……えーと、ダンジョンゲート!」


 ダンジョンの入り口である、紫色の歪んでいる空間は、ダンジョンゲートと呼ばれているとネットに書いてあった。

 もっとも、長いので【ゲート】と呼んでいる者が多いのだが。


 ゲートの前には、スタッフらしき大人たちが見張りをしている。

 ノナとエムは、特に呼び止められることもなく、ダンジョンへと入った。


「やっぱり地味だなぁ」


 やはりダンジョン内と外の体は別なようで、地味な村人装備に変わっていた。

 だが、ダンジョン内では元の時代、中学2年生の姿になれるので、そこは本当に嬉しい。


「エムは、それ制服?」


 ピンク色の長めのショートヘアに、セーラー服を着ている。

 だが、そのセーラー服はピンク色を基調としており、かなり派手だ。アイドルの衣装っぽくも見える。


「制服をイメージした装備だよ。ダンジョン内で買ったんだ」

「ほう! そういう明るい色の装備もいいね! 私も黒じゃなくて、そういうのにしよっかなー?」

「本当に色々な装備があるから、それを選ぶのもダンジョンの醍醐味だよ」


 ダンジョンに入り話をしながら、2人は「冒険者ギルド」とデカデカと書かれている看板の前に立つ。ここのドアを開けると、中は酒場のような空間が広がっているらしい。

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