第66話 琴音の夢。
今日は神木家の4人で劇場にきてきる。
4人で琴音の劇の初回公演を観にきた。
劇場は思ったよりキレイでびっくりしてしまった。中も広く、1000人近く入るのではないか。
初めてでこれだけの舞台に抜擢されるって。
本当にすごいと思う。
きっと琴音は俺が思ってるよりも、ずっとずっとすごい人になっていくのだろう。
ちなみに、琴音はうちの両親をパパ、ママと呼んでいて、とても懐いている。両親と凛は、「お世話になってるから」と琴音にご招待された。
だが、何故か俺だけは自腹だ。
なんでも「売上げもあるし、蓮は甘えないで自分で買って。……ウチ、レンには自分でチケット買って見て欲しいな?」とのことだった。
前半部分で本心がダダ漏れになっているんですが?
そのおかげで、俺だけ1人で遠く遠く離れた席になってしまった。
開演までパンフレットを見て過ごす。パラパラとめくると数ページ目に琴音の写真があった。プロが撮影した琴音は、いつにも増して美しかった。
こんな子に好きっていってもらえたのは光栄なことだと思う。
この劇は、人気の小説が原作で、中世ヨーロッパが舞台だ。琴音の役は、不幸な生い立ちにもかかわらず真っ直ぐに生き抜く、没落した王族のレイリアという主人公だ。
劇が始まり、凛とした空気が漂い、パッと琴音にスポットライトがあたる。
すると、スッとその世界観に引き込まれてしまった。テレビや映画より大袈裟に見える立ち振る舞いは、この空気感の中では、躍動感に還元されれようだ。
琴音が演じるレイリアは、誇り高く美しい。まるで琴音自身をみているようだった。さっき出会ったばかりの顔も知らない観客と一緒に泣いて笑って、いつのまにやら劇が終わっていた。
原作者の先生が、どうしても琴音にやらせたがったのがよく分かる。まるで、琴音のためにあるような役だった。
だが、それだけではない。レイリアを表現するための演技も良かった。初めてでこんなにできるなんて、やはり琴音には特別な才能があるんだろう。
気づけば、スタンディングオベーションが起きていた。大成功だったのだと思う。
何年かしたら、きっと琴音は、俺なんかが手の届かない存在になっているのだろう。
それは、ちょっとだけ寂しいけれど……すごく嬉しい。
1人だったから劇に集中できたし、この辺境の席で良かった。俺が浸っていると、琴音からメッセージがきた。
「どうだった?」
俺は即答した。
「最高だった」
すると、ニコニコのスタンプが戻ってきた。普段、琴音がスタンプだけを送ってくることはない。きっと、バタバタのなか送ってくれたのだろう。
俺は家族と合流した。すると、親父も雫さんも目を腫らしていた。なんか愛娘の学芸会状態だな。
凛も嬉しそうだ。
琴音は打ち上げに参加するらしく、うちらは先に帰ることになった。帰り道の中の車の中では、琴音の話題でもちきりだった。
琴音も自分の夢に進み始めた。
こっちも前に進まないとな。
俺の様子に気づいたのか、凛が手を添えてくる。凛の手は微かに震えていた。
俺は親父と雫さんに言った。
「2人とも。帰ったら話があるんだけど」
親父は答える。
「大切なことか?」
「ああ。大切なことだ」
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