第10話 凛の日課。
俺の様子に気づいたのだろう。
凛は、いつものようにキツいことをいう。
「……なにわたしの顔じろじろ見てるの? 変態」
ああ。そうだった。
こいつの性格のキツさを可愛さで相殺なんて無理だよな。やっぱ。
すると、凛はキャハハと子供みたいに笑いながら、俺の腕を組んでくる。肘のあたりに凛の胸があたった。
むにゅっとして柔らかい。
こいつ、意外に胸あるんだ。
気づくと、凛が俺をジト目で見ていた。
やばい。殴られるかも。
俺が肩をすくめると、なんと、凛はさらに胸を押し付けてきた。そして、微笑むと、少し意地悪そうな小悪魔のような顔をして俺に言った。
「……わたしの胸。興奮する?」
ちょ。それどういう。
すると。凛はばっと身体を離す。
そして、白い歯を見せて無邪気に笑った。
「とんぼ玉のお礼だよっ」
そう言い捨てると、凛はどこかに駆けて行ってしまった。
ったく。
凛が来てから、振り回されてっぱなしだ。
でも、不思議と。
親父と2人だった生活に戻りたいとは思わないや。
そういえば、凛はうちに1人で来て心細いだろうし、不満とか不便とかないのかな。雫さんいないし、我慢してるのかも。
俺は凛に聞いてみた。
「おまえさ。うちにいてイヤなこととかないの? 必要なものとか」
すると、凛は、指を顎に当てて「ん〜」と頭を傾ける。
そして、口を開いた。
「らいお父さん優しいし……。そうだなぁ」
うん。何かあるのだろうか。
俺は唾をごくりと飲み込んだ。
凛は満面の笑みでいった。
「強いて言うなら……。アンタの存在かな?」
うぐっ……。
ちょっと前なら精神を削られていたが、今の俺は、これしきではどうってことない。……どうってことないんだからねっ。
凛は俺の顔をじーっと見ている。そして、リアクションがお嬢様の期待通りではなかったらしく、つまらなそうな顔をした。
凛は覗き込むように俺の目を見ると、聞いてくる。
「逆に、アンタはないの?」
俺は……。あぁ。いい機会だ。言っとこう。
「あのさ。前から言いたかったんだけど。毎日、母さんに線香あげてくれて……、その、ありがとう」
凛はウチにきてから、1日も欠かさずに線香をあげてくれている。その姿を見た訳ではない。だけれど、仏間の線香の残り香でわかる。
きっと、早起きして、皆が起きる前にしてくれている。だから、仏壇も写真立ても、いつもピカピカだ。見返りのあるものではないのに。
俺は、俺自身を褒められることなんかより、母さんが大切にされてる気がして、嬉しい。
その度に、この子は、実は、俺が出会った誰よりも良い子なのでは、と思ってしまう。だとしたらきっと、顔なんかより、その心がこの子の魅力なのだろう。
でも、確信ではないし、伝える必要はないと思っている。凛もそんなことは期待していないだろう。
まぁ、それにしても、俺への扱いはひどいと思うけれど。
さて、我が家のお嬢様の反応はどうかな。
すると、凛は、俺と反対を向き、咳払いをした。
「……別に。わたしも感謝してるだけだよ。それに、家族の中にいきなり割り込んじゃってごめんね」
そういうと、またどこかに行ってしまう。
……母さん。
おれの義姉は、いい子だろう?
だけれど、アイツのこと考えると、なんだか胸の中がぐちゃぐちゃになる。どうしたらいいんだろうな。
俺が浸っていると、凛が俺の手をギュッと握った。そして、俺を引っぱりながらこちらを振り返った。
「れんくん。早くいこうよ。ね?」
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