パーティーが解散したので女子魔法学校の教師になった件

夜々予肆

嵐の令嬢・ウェリカ

授業0 始められない

「んじゃ、授業を始めるぞ」

「まったく、クラウディア辺境伯の娘に授業を受けさせるなんて良い度胸ねあんた!」


 チャイムが鳴って俺が言うと、ウェリカがいつものように自己紹介を言い放ち指をさしてきた。


「指をさすな! 失礼だろうが!」

「失礼? むしろあたしに授業を受けさせられるんだから光栄に思いなさいよ!」

「お前が貴族のご令嬢なのは重々承知している。でもここでの関係は教師と生徒でそれ以上でもそれ以下でもない。それを忘れるな」

「ふん! だったらせいぜいあたしでも退屈しない授業をしなさいよね! 貴族の時間は貴重なのよ!」


 本当にわかってるのかと思いつつも、俺は教壇に置いていた教科書を開き――なんじゃこりゃ!?


「なんで初級魔法学の教科書が格闘術の教科書になってんだよ!? しかも結構実践的!」

「あれは内容が易しすぎる。あんなのをわざわざ律儀に学ぶくらいなら格闘術を学んだ方が何倍も有意義だよ」

「……お前のせいか! ストレリチア!」


 まあこんなことをするのはこいつしかいないからすぐに見当はついたが。ストレリチアは偉そうにふんぞり返りながら俺に指をさしてきた。なんでお前も指をさすんだ。


「そもそも先生は格闘術というものを軽視し過ぎだ。一流の魔術師同士が戦ったらレジストで互いの魔法を無効化するから殴り合いの戦いとなるのが常だからね。魔法に頼ってばかりいるといつか痛い目を見るよ」

「確かにそうかもしれないが、格闘術の授業は無いから学びたいなら各々学んでくれ」

「そうやって指導を放棄するのか。先生のくせに」

「ここは魔法学校だ!」

「わたしは……殴り合いも……得意」


 ストレリチアと言い合いをしているとオルシナスがドヤ顔でそう言って立ち上がり拳を握って机を――。


「お前が強いのは分かってるから薪割り感覚で机を壊そうとするな!」

「アルがそう言うなら……やめる……でも……わたしは強い……」

「強いのはわかってるから! うん!」

「本当……?」

「ほんとほんと!」

「……よかった」


 オルシナスは俺の頷きに満足そうに薄く微笑みながら着席してくれた。


「えっと……私は普通に授業受けたい……って言っていいんですかね……?」

「それが普通だから安心してくれ!」


 苦笑いを浮かべながら遠慮がちに手を小さく挙げたレイノに俺は縋りついた。そして彼女の手を全力で包み込む。


「やっぱり俺にはお前が必要だ! レイノ!」

「そ、そんなにですか!?」

「おい。つまりそれはボクたちは不要とだとでも?」

「あんたやっぱりあたしを馬鹿にしてるわよね!? もう許さないんだから!」

「……ひどい」

「もうどうすりゃいいんだああああああああああああ!!!」


 こうして今日も静かな山奥の校舎に、新人教師の絶叫が響き渡るのであった。

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