第034話 逆転の発想

「あっ……」


 多数の魔法に晒された私。でも、傷一つ付かなかった。


 一体どうして……。


「なんだと!?」


 煙が晴れ、最初に倒したプレイヤーさんが見えると、プレイヤーさんは顔を忌々しげに歪めた。


 いかにも不満そうだけど、殺してもらえなかったわたしも不満だ。


「ええいっ!! 撃て、もっと撃て!!」


 初めて倒したプレイヤーさんが慌てて他の人たちに指示を出すと、先ほど以上に苛烈な魔法攻撃が飛んできた。


―ドンッ

―ドンッ

―ドォオオオオオオオオンッ


 直撃して再び視界が塞がれてしまう。でも、どういうわけかやっぱり私は無傷だった。


「いったいどんなビルドしてやがる!! こうなったら全員で仕掛けるぞ!!」


 今度は全員が武器を抜き、突っ込んできた。


 本来なら避けた方がいいんだけど、経験値はもらえないから問題なし。


 私は攻撃を受けながら前に進んでいく。


 ――ガキンッ


「うわぁあああっ!!」


 それに一つ、思いついたことがある。


 それは、、ということ。


 だって、プレイヤーさんを倒せば倒すほど、最初のプレイヤーさんのように報復に来てくれるプレイヤーが増える可能性があるから。


 ――ガキンッ


「ぎゃぁあああああああっ」


 今までは出会った人にどうにか殺してもらおうとしていた。でも、これなら沢山の人が勝手に私を殺しに来てくれるようになるはず。


 襲い掛かってくる敵の数が増えて魔法攻撃の威力が上がれば、死ねるかもしれない。


 うんうん、我ながらとても冴えてると思う。


 ――ガキンッ


「ぎゃぁあああああああっ」


 今回は十数人程度。でも、これが数十人、数百人、数千人になれば、話が変わってくるかもしれない。


 だから、積極的に相手を倒すことにした。


 ――ガキンッ


「ぎゃぁあああああああっ」


 襲い掛かってきた人たちは攻撃を反射され、次々と倒れていった。


 そして、残されたのは最初に倒したプレイヤーさん、ただ一人。


「うわぁああああああっ!!」


 プレイヤーさんはなぜか叫びながら逃げ出してしまった。


 なんでかな……まぁ、いいや。もっと沢山のプレイヤーさんを連れてきてもらうために、もう一度死んでもらおう。


 プレイヤーさんの後を追いかけると、思いのほか簡単に追いつけたので話しかけた。


「あの~」

「ひ、ひぃいいいいいっ!?」


 でも、プレイヤーさんは話を聞くことなく、アイテムを投げつけてくる。だけど、明後日の方向に飛んでいき、私に当たらなかった。


 その直後、プレイヤーさんは躓いて転んでしまう。


 よそ見をしてたせいだと思う。ちゃんと前を見て走らないと。


「来るな、来るな、来るなぁああああっ!!」


 プレイヤーさんはわたしを見ながら後退る。


 何も怖いことなんてないと思うんだけどなんでだろうね、不思議。


 私はプレイヤーさんの傍に腰を下ろすと、できるだけ笑みを作り、腕を触った。


「次はもっと沢山連れてきてくださいね?」

「ぐぅっ!?」


 プレイヤーさんは顔が真っ青になった後、倒れて光となって消えた。


 これでもっと人を集めてくれたら嬉しいな。


「プレイヤーさんはどっこかなぁ」


 私は他のプレイヤーさんを探すために走り出した。



 ◆   ◆   ◆



 ――ドォオオオオオオンッ

 ――ドォオオオオオオンッ

 ――ドォオオオオオオンッ


 激しい音と共に魔法がいくつも飛んでいく。その先にはいるのは禍々しいオーラを放つ装備を身に着けた一人の少女。


 彼女は魔法が直撃しているにもかかわらず、平然とした様子で攻撃したプレイヤーたちの許へと走っていく。


「うわぁあああっ!!」

「助けてくれぇええっ!!」

「物理攻撃も魔法も効かないなんてそんなんありかよ!!」


 その上、彼女が側を通り過ぎただけで、プレイヤーたちが次々と倒れて死んでいった。その所業はまるで魔王のようだ。


「な、なんなんだ、何が起こっているんだ……?」


 遠くで繰り広げられている惨劇を見て、1人のプレイヤーが呆然と呟いた。


 何もしているようには見えないのに、次々とプレイヤーたちが死んでいく姿を見せられれば当然だろう。


 得たいの知れない恐怖がジワジワと彼の心を侵食していく。


「やめてくれぇええええっ!!」

「ひぇええええええええっ!!」

「うぎゃあああああああっ!!」


 彼が愕然としている間にも他のプレイヤーはやられていった。


 その殲滅スピードは圧倒的で、近くにいたはずのプレイヤーたちはもうほとんど残っていない。


 そして遂に、辺りを見回していた少女の瞳が彼の姿を捉えた。


 少女の口端が大きく吊り上がる。


「ひっ」


 彼女と目が合った彼は小さく悲鳴を漏らした。なぜなら、醸し出すオーラと表情があまりにも怖かったから。


 少女は次の獲物である彼の許へと走り出した。一瞬で距離を詰め、目の前に迫る。


「助け――」

「次は沢山の人を連れてきてくださいね」


 すくみ上がった彼は体をうまく動かせない。その隙に少女は彼の腕へとその手を伸ばした。


 少女の手が刻一刻と彼の腕へと近づいていく。


 ……60cm、50cm、40cm――

…… 

……

……

……

 ――ガキンッ


 もうだめだ、そう思ったその時、誰かが彼の目の前に割り込み、少女は弾き飛ばされた。


「ん?」


 少女は不思議そうな顔で相手の顔を見る。


「俺が来たからにはもうお前の好きにはさせねぇよ」


 その男は手に持った剣を少女に向け、不敵に笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る