第032話 開幕
「どう? 準備できた?」
「バッチリ」
翌日、晴愛に全身の呪いの装備とデバフの料理を作ったことを伝えた。
やれることはやったと思う。細工は流々、仕上げを御覧じろって感じかな。
「それくらいやれば、沢山死ねそうだね」
「うん」
晴愛ママも太鼓判を押してくれた。
これならイベントも楽しめそう。
「イベント中に他のプレイヤーにやられるのは全然おかしいことじゃないから。そんなに目立たないと思うし、思う存分やればいいんじゃないかな」
「そうする」
太陽で焼かれたり、流水に飛び込んだりするのは、やり過ぎると奇行と判断される。
でも今回のイベントはバトルロイヤル。参加者に倒されることは当たり前。いくら死んでも問題ない。
まるで私のために用意されたイベントみたい。
「あ、そういえば、もうすぐ追加募集が始まるよ。6月上旬くらいに第2陣がログインできるようになるんだって」
もう発表されたんだ。知らなかった。
晴愛は最初の募集で外れたから、2回目の募集で当選する確率が高い。
「一緒に遊べる」
「そうだね。長かった……」
晴愛が遠くを見つめて呟く。
私が毎日ITOの話をするからずっと楽しみにしていたんだろうな。私も楽しみ。2人じゃないとできない死に方もあるかもしれないし。
ただ、晴愛には最初に試練が待っている。
「毒死からだよ」
「わ、分かってるよ……」
間違って私に触っても問題ないように、毒耐性無効を手に入れるところから始めないといけない。晴愛は抱き着き癖があるので、きちんと済ませておかないと。
うっかり殺してしまう。
「大丈夫。死ぬのは一瞬だから」
「そこはプロに任せるよ」
「任せて」
何も感じさせずに死ぬのならやっぱりデスグラスが一番。晴愛がログインする前にデスグラスを沢山集めておこう。
「あ、でも、あれの準備はできてるの?」
「あれ?」
「もうすぐ中間テストだよ」
「あっ……」
晴愛から衝撃的な話が飛び出した。
ゲームログイン初期の頃は勉強もちゃんとやっていた。だけど、最近はゲームに夢中になって予習や復習をサボっている。
赤点は取らないと思うけど、成績が下がる可能性がある。
割と自由に生活をさせてもらってるけど、それは成績が高いおかげというのはある。もし成績が下がってゲームを取り上げられたら困る。
そういえば、少し前にホームルームで先生が何か言ってた気がする。でも、ゲームのことで頭がいっぱいでほとんど聞き流していた。
まさかテストのことだったなんて……。
「その様子じゃ忘れてたみたいね」
「うん……」
「イベント終わったら、テスト終わるまでゲーム禁止ね」
「ひーんっ」
「頼まれてるんだから甘やかさないよ」
「しょうがない……」
泣き真似をしてみたけど、今回は晴愛ママにも通じなかった。
当然と言えば、当然だけど、晴愛はうちの両親と面識がある。そして、両親はあまり家にいない自分たちに代わって、私の面倒もとい監視を晴愛に頼んでいた。
はぁ……どうやら避けては通れないみたい……。
でも、イベントに参加させてくれるところに晴愛の愛を感じる。やっぱり晴愛は優しい。
こうなったら、イベントで思い切り死に貯めしておかなきゃ。
「ひとまず今日から勉強もしておきなさいよ」
「はーい」
私は家に帰った後、ちゃんと勉強も済ませてからゲームにログインした。
「こんなにいたんだ……」
宿屋の外に出ると、外はプレイヤーたちでごった返していた。
いつもはこんなに混んでいない。皆イベントに参加するために調整してきたのかもしれない。
ふふふっ、これだけいれば、強いプレイヤーも沢山参加するはず。
俄然楽しみになってきた。
「うわっ、な、なんだこいつは……」
「なんかヤバいオーラが出てるぞ」
「見てるだけで気持ち悪くなってきた……」
呆然としていると、周りの人たちが私の方を見ているのに気づく。
どうやらノラが作った装備が目立っているみたい。ノラの装備は奇抜なので仕方ないね。
死の前には些細なこと。気にしないでおく。
――ゴーン、ゴーン、ゴーンッ
リアルの時間で20時になった頃、巨大な鐘が鳴っているような音が鳴り響いた。周りの人たちからの視線が消え、周りがザワザワと騒ぎ出す。
皆の視線は空に向いていた。
同じように見上げると、光が集まって形を作っていく。
「こんにちはぁ!! 私はITOのマスコットキャラクターのフィー!! よろしくなの!!」
姿を現したのは、頭の上に大きな花を載せた幼女。大きな葉っぱのようなドレスを身に着けている。
デフォルメされていて、ぬいぐるみみたいに愛くるしい。とっても可愛い。
「これからITO初のイベント、第一回バトルロイヤル大会を開催するの!! これから参加する人は、今から出るウィンドウで『はい』を選択するの。制限時間があるから気を付けるの」
フィーの言葉通り、目の前にウィンドウが現れた。そこには『バトルロイヤルに参加しますか?』と表示されている。
右上に120という数字。徐々に数値が減っているので制限時間だと思う。
私は悩むことなく『はい』を選択した。
2分ほど経つと、選んでいなかった人たちのウィンドウが消えてしまう。
「終了なの!! 今の段階で選んでいない人はみんな不参加なの。各街の広場にイベントを映すモニターが表示されるから楽しむと良いの。『はい』を選択した人は10秒後に専用のバトルフィールドに転送するの。それじゃあ、イベントを目一杯楽しむの!! ばいばーい!!」
フィーは、それだけ言うと、現れた時とは逆再生するように光になって散っていくように消えた。
『転送を開始します。10、9……』
通知が聞こえてカウントダウンが始まる。
『……1、0』
そして、カウントダウンが終わった瞬間、目の前が真っ白になり、すぐに景色が変わった。
辺りを見回すと、廃墟っぽい建物の中。
壁のいたるところが崩れ落ち、外の景色が見える。どうやら、ここがバトルフィールドみたい。
「どっこにいるのかなぁ?」
私は他の参加者を探すために、ルンルン気分で今いる部屋っぽい場所から外に出た。
「なっ!?」
すると、幸先が良いことにすぐに他のプレイヤーと鉢合わせ。
早速お願いしてみよう。
「私を殺してください」
「は?」
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