第004話 【悲報】早くも私の幸せ死亡生活が危うい

 気っ持ちいいいいいいいいっ!!


 ログイン2日目だけど、やっぱり太陽の光に焼かれて死ぬのって最っ高!!


 太陽の光によって体が浄化されながら消失していく感覚は、まるで心まで浄化されているかのようにスッキリとした気分になる。もう毎日やらないと気が済まない。


 ひとまず、ゲーム内で日が暮れるまで太陽で焼死しよう。


 でも、死んでる途中で予期せぬ事態が私を襲う。


 それは3つの通知だった。


『陽光耐性を習得しました』

『死の超越者の称号を獲得しました』

『人でなしの称号を獲得しました』


 復活したら、太陽で死ぬ速度が落ちて私は一瞬では死ななかった。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――」


 太陽に晒される時間が10秒くらい伸びたっぽい。


 外側から燃え盛る火に焼かれるような激しい痛みが私を襲う。


 まるで全身を火で丸焼きにされているような気分。たった10秒だけど、数時間かと思えるほどに遠く感じた。


 その10秒間の中で徐々に手足の感覚を失っていき、私の意識は消えていった。その衝撃は、初めての死よりも強烈だった。


「うっ」


 私はぶるりと体を震わせて復活ポイントで目を覚ます。


 耐性スキルは種族固有のスキルだけで、初期選択スキルの中にはなかったはず。もしかして太陽に焼かれたことで取得条件を満たしたってことなのかな?


 夜になって死ねなくなった私は、ステータスを開いて陽光耐性の説明を確認。


 入手条件は、陽光を浴びて100万回死ぬこと、と記されていた。


 めちゃくちゃ厳しい条件。でも私はそんなに死んだ覚えはない。


 よく見ると、下に薄いグレーの文字で何か書いてある。


 それは、


『ただし、リアリティ設定が最大値の場合、回数が100分の1に減少する』


 という文章だった。


 つまり、リアリティ設定が最大の状態なら1万回でいいみたい。私はどうやら1万回太陽に焼かれて死んだらしい。


 まさか現実時間で2日も経たずに1万回も死んでいるとは思わなかった。ゲーム内では2日以上過ごしてるので、10秒に1回死んで復活してると思えば、死んでてもおかしくないかも。


 それだけ死の快感を味わってたなら、寝具がひどい有様になるのも納得だよね。


 だけど、デフォルト設定なら後99万回も死ねたのに……残念。とはいえ、デフォルト設定じゃリアルに近い死を体験することなんてできないんだけどね。


 痛しかゆし……。


 それで、陽光耐性なんだけど、太陽を浴びれば浴びるほど成長していく。そして、レベルが上がれば上がるほど、太陽の光が効きにくくなるらしい。


 ということは、最終的に私は陽光で死ねなくなるってことだよね。最悪だ、一番お手軽に死ねる手段なのに……。


 その上『死の超越者』という称号のせいでさらに私の死亡生活が危ぶまれる。


 説明を見ると、


『死亡回数が100万回を初めて突破したプレイヤーに送られる称号(リアリティ設定が最大の場合1万回)。死亡してもデスペナルティによって能力が減少しなくなる。死亡すればするほど能力が強化される。スキルのレベルアップと取得条件が緩和される。100万回なんてどうやったら死ねるんですか? あなたはどこを目指しているんですか? バカなんですか?』


 と、書いてあった。


 ネタ称号なのか、最後の方が人を馬鹿にするような内容になっている。


 答えるのなら、私はどこも目指してない。ただ死にたいだけ。大きなお世話だ。


 でも、この称号うざすぎない? 


 書いてある効果が本当に発揮されるとしたら、死ねば死ぬほど能力が強化されるとか、完全に私が死ぬのを阻止するために作られた称号だとしか思えないんだけど。


 それに、どれくらい緩和されるのか分からないけど、スキルの取得条件が緩和されれば、耐性も習得するのが早くなるはず。


 もうっ、開発者はなんでこんな称号作ったの!!


 それに、もう一つの称号『人でなし』。


 こっちは、


『リアリティ設定が最大の状態で死亡回数が1万回を初めて超えたプレイヤーに送られる称号。全ての精神攻撃が無効になる。開発者でも数回死んだだけで発狂していたのにあなたの精神はどうなってるんですか? 人の心はないんですか? 一度精神科を受診することをお勧めします』


 と書いてある。


 とても失礼だと思う。私にも人の心はあるし、至って正常だよ?


 それにしても、精神攻撃を受ける前に精神攻撃が無効になってしまった。錯乱して死ぬのもやってみたかったのに…………無念。


 はぁ、早く他の死に方を探さなきゃ。


 ただ、もっと強いエリアに行こうにも、リアルに世界そのものを構築しているだけあって、次のエリアまで移動するのにもそれなりに時間が掛かる。


 それを考えると、まずは近場で死ぬ方法を模索したいと思う。


 下級吸血鬼には太陽以外にも沢山の弱点が用意されてる。


 十字架、聖水、流水、にんにく、塩、銀製のアイテムなどなど。それに、吸血鬼はアンデッド設定で毒物が効かないことも多いけど、このゲームでは普通に毒も効く。


 強いキャラクターとして描かれることの多い吸血鬼だけど、弱点が多いのはなんだか面白いよね。そうじゃないと人間が退治できないほど強くなってしまうんだろうけど。


 それはともかくとして、吸血鬼に効果があり、森の中でできる死に方は首吊りか毒死くらいだと思う。


 ただ、首を吊るにしても道具がないし、森の植物を使おうにも強度の問題もある。それに、モンスターの攻撃が効かないのに縄くらいで首が締まるのかも疑問。


 だから、一番現実的なのは毒死かな。


 私は辺りに生えている草を無造作に引っこ抜いた。


 吸血鬼には種族固有の「夜目」というスキルがあって、月明かりだけでも森の中を見通せるほどハッキリと見える。


 現実ではここまでクリアに見えない。


 暗いのに見えるという感覚はとても不思議。


「んー、これも違う。これも――」


 それから、私はゲームの初期設定で選んだ「鑑定」というスキルを持ってる。鑑定を使用すると、アイテムの詳しい情報を得ることができる。


 鑑定のスキルレベルが低いので、名前と物凄く単純な説明しかない。『雑草』とか『食用』とか数文字くらい。


 その説明文を頼りに、ひたすらに草を鑑定しながら毒草を探した。


 一度鑑定した草は、その草の上に名前が表示されるようになるため、表示されない草をどんどん鑑定していく。


『鑑定のレベルが上がりました』


 1時間ほど草を鑑定していると、初めてスキルのレベルが上がったという通知を聞いた。


 スキルレベルは1から始まり最大で10まで上がる。スキルによっては最初からカンストしてるものもある。例えば、種族固有のスキルの夜目なんかがそう。


 レベルが上がると、鑑定スキルで得られる情報量が増え、レベル1の時よりも説明文らしい説明文になっている。


「見つけた」


 探し続けていると、ようやく待望の毒草を見つけた。


 その名も『デスグラス』。説明文には「非常に毒性が強く、食べれば、猛毒におかされる」という内容が記載されていた。


 とても期待できそう。


 それにしても序盤にこんな恐ろしい毒草が入手できるなんて、ITOはとても分かっているゲームだね。私みたいに死に興味ある人間にも親切な設計になってる。


 すぐにでも食べて死んでみたいところだけど、一度死ぬと復活ポイントであるスタート地点に戻され、今いる場所まで戻って来るのに時間が掛かってしまう。


 だから何度も死ぬことを考えて、集められるだけ毒草を集めることにする。


「アイテムがなくなってる」


 デスグラスをアイテムボックスに入れようと思い、アイテムボックスウィンドウを開くと、外して中に入れた装備を全て失っていた。


 そういえば、死ぬと経験値とアイテムを失ってしまうんだった。その存在をすっかり忘れていた。


 このゲームでは死んだ時に課されるペナルティが結構重い。


 一定の所持金と経験値を失ってしまう上に、装備品を含め、持っているアイテムのいずれかを落としてしまう。さらに能力も一定時間減少する。これは私にとってはもう意味がなくなっちゃったけど。


 レベルが高い人やレアアイテムを持っている人ほど死にたくないという気持ちになるんじゃないかな。


 でも、幸い私はレベル1だし、レアな装備もアイテムも何一つ持ってない。その上、ただゲーム内で死にたいだけなので、仮に持っていたとしても無くなっても全く悲しくない。


 つまり、ペナルティは私にとってはあってないようなもの。


 私はアイテムボックスを閉じてひたすらに植物を採取した。


 その結果、スタート地点の森に生えている草やキノコのほとんどの種類を見分けられるようになった。鑑定スキルは5まで上がった。


 称号の効果もあって、レベルが低いうちはポンポン上がっていくみたい。


 そして、デスグラスだけでなく、爛れ草や枯れ草など、食べると体が焼けたり、干からびたりするようなファンタジーな草や、猛毒のキノコも収穫。


 他にも味は非常に美味しいのに猛毒を含んでる不思議な果物なんかもあった。本当に多種多様な毒物を見つけられて私は満足。


 これだけあれば、しばらく毒物を探さなくてもいいと思う。


 頷いていると、横から眩い光が溢れ出すのを感じた。


 これってもしかして……。


 気づいたころには少し遅かった。


 次の瞬間、突き刺すような痛みが全身を貫く。


「あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 差し込んできたのは、夜が明けて昇ってきた太陽の光だった。木々の間から差し込む陽光によって私は消滅していく。


 せっかく毒で死のうと思っていたのに……。


 消えていく意識の中でそんなことを考えていた。

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