48 突撃
で、邪神を封じた剣がどこにあるかだが。
なんとこの王都にあるのだという。
剣を集め終わり、この王都で邪神を復活させるために準備を進めていたというのだから、俺たちがここに揃っている都合の良さを疑いたくなる気持ちもわかるだろう。
俺たちが向かったのは、王都を守る城壁に近い場所だった。
王都の城壁はその拡大に合わせて新しく作られており、この壁で三つ目となる。
その三つ目の城壁の側にある建物に奴らの隠れ家がある。
城壁のそばには高い建物を作ることは禁じられている。
その制限ギリギリを狙ったかのような二階建ての建物には商社の看板が下げられていた。
問答無用で押しいる。
「な、なんですか、あなたたちは!」
「めんどうだから眠れ」
ゼルの言葉がそのまま魔法となり、眠りの力が普通の商社で働く者たちを襲う。
次々と倒れていく中、そうならない者たちがいた。
「チッ!」
舌打ちとともに服の下に隠した短剣を抜いて襲いかかってくる。
こいつらは鍛えているな。
「選別したのか?」
「弱めに撒いたからな」
「いっそ全員寝かせろよ」
「うるさい、お前らも働け」
「なんて言い草だ」
眠りの魔法を弱めに撒いたからといって、寝た人間が無実の人間とは決まっていない。
とはいえ動かなくなった相手を気にしていたらマックスの装備だと動けない。
やるなら俺ということになる。
というか、考える間に動いた。
クナイを投げれば終わりだ。
「おう、俺様が細工してやったんだから、存分に使え」
「用意したのは俺だが?」
「ありがとうおじいちゃんたち」
「ブフッ!」
俺がわざとらしく子供の真似をするとイーファに受けた。
「ほら、さっさと探すわよ」
笑いながらイーファが進もうとしたところで、マックスが動く。
彼の盾がイーファに注がれようとしていた無数の投擲物を防いだ。
「油断するな」
「あら、そんなものしてないけど?」
実際、イーファの守りが投擲物程度で破られることはないだろうが、パーティにおける守備の専門家となったマックスの動きの方が早いのもまた、当然だ。
投擲されたのは棘のある丸いものだった。
それは盾に跳ね返されて地面に落ちると、次々と爆発していく。
転がっている仲間が被害を受けることを承知の上での攻撃だ。
俺たちに向かうはずだった爆発の被害は、全てマックスの大盾に吸い込まれた。
専念したマックスの守備範囲はその大盾以上となる。
この程度の爆発では俺の髪の毛に焦げ一つ付くことはない。
「あ〜あ、せっかくの俺様の気遣いが」
爆発は俺たちではなく、俺のクナイで負傷したり、ゼルの魔法で眠っていた者たちに向けられた。
即死するような爆発力ではなかったが、問題は爆発とともに撒き散らされた釘なんかの突起物だろう。
まぁ、ひどい有様だ。
投げてきたのは俺のクナイにやられて倒れていた一人だった。
「油断大敵〜」
イーファが俺を覗き込んでニヤニヤしている。
「僕七ちゃいだからわかんない」
「うわ〜顔がイイからムカつく〜」
実際、力加減が難しいんだよ。
入れすぎるとクナイと建物を貫通していくし、だからといって抜きすぎると刺さるだけになる。
投げずに触れって話かもしれないが。
「体格的にこれが一番使いやすいが、できれば長物を使いたいね」
「まぁそれは、おとなしく成長を待ちなさいな」
「そだなぁ」
しかし、王子としての身分で実戦なんてできるのか?
帝国規模でみれば王子なんて地方領主の子供程度かもしれないが。
父親にも嫌われてるし、宮廷勢力的にも不利な感じだし、強いに越したことはないんだが。
「しかし、俺はここにいてもいいものなのかね」
「なに?」
「父親に嫌われてるし、母親や友人にも迷惑をかけている」
「まじめな悩みね」
「俺一人で生きる分には勝手にできるが、こればっかりはどうにもな」
「ん〜……まじめに王様やる気があるなら、マックスに言えば?」
「それもな」
そうだな。
俺自身がどうするかを決めていないのが、一番の問題なんだろうな。
俺に王になる気があれば、マックスも腹を決めるだろう。
いまのあいつはヴァルトルク王国の南部諸侯をまとめる大貴族だ。
そして俺は第一王子。
俺が王になる気を明確にすれば、あいつも腹を決めて行動するだろう。
そうなれば、父親に嫌われているなどというのはただの些事に成り下がる。
逆に王になる気がないとなれば、ソフィーを自由にしてやれることができるのか?
まじめに考える必要があるな。
「そこまで気負う必要もないと思うけどね」
「なに?」
イーファが意外なことを言った。
「あんたは前の人生で十分に重荷を背負った。やりたいことをやっただけだったとしてもね。それで西部諸国の人々は戦乱を終わりを見ることができた。その功績は大きい。なら、今生はダメ人間になったって問題ないでしょうね。普通の人生で比べるなら、それぐらいの大失敗をして、ようやく正と負がトントンになるんじゃないかな」
「トントンか」
「小さい頃からやることを決めてしまった前とは違うんだから、ゆっくり考えなさいな。ああ、後、王になる気がないなら私からも紹介できる道はあったりするしね」
「そうか」
と、呟いた後で、俺はイーファを見た。
「ちゃんと聖女長してるんだな」
「しみじみいうな」
チョップされてしまった。
「おい、地下への道を見つけたぞ」
俺たちが話している間にマックスとゼルが建物の中を調べていた。
「どうした?」
俺がじっと見ていると、マックスが首を傾げる。
「いや、頼りになるなと思っただけだ」
「当然だろう。俺を誰だと思っている」
「そうだな」
まったくそうだ。
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