37 方針急転換



 新年を迎え、俺は七歳になった、

 特に大きな問題もなく時間は流れていくった。

 身長が少しは伸びたか?


 このまま何事もなくここで成長していくのかと、なんとなく思った。

 フランツはどうも俺たちを遠ざけたいようなので、このままエルホルザで過ごすことになるのかもしれない。

 王にならないでいいのは嬉しいが、飼い殺しみたいな生活は望んでいない。

 この状態が続くようなら、どっかで家出を計画しないといけないかもしれない。

 みたいなことをマックスに漏らすと、その時には算段しようと言われた。

 まぁ、そうならないことを祈る。


 と、実際に祈っていたわけではないが、なにやら天に通じたらしい。

 ある日、城から使いが来た。


「ソフィー王妃のご健康状態が大変よろしいと判断されたので、アンハルト宮に戻られるようにとのことです」

「あらっ」


 使いの言葉に、ソフィーはのんびりと驚いてみせた。


「どのお医者様がそんなことを仰ったのかしら?」

「陛下のご命令です!」


 ころころと笑いながら尋ねるのだから、ソフィーもいい性格をしている。

 医者が診断に来たことなんて一度もない。

 それ以前に城から誰かが様子を見に来たこともない。

 あるいはエルホルザの街の代官が、なにか情報を送っていたのだとしても、体裁を保つためのなにかをしたとしてもおかしくないだろうに。


「では、すぐに支度をして城にお戻りください!」

「あら、無理ですよ」

「なっ! なぜですか⁉︎」

「ここにはなにもないのですから。城に戻るにしても馬車もなしにではねぇ」


 たしかになにもない。

 ここに来るために使った馬車は、置いておく場所がないので騎士たちとともに戻している。

 いきなり帰って来いとか言われても、すぐに用意できるものでもない。


「す、すぐにご準備いたします!」


 使者は慌てふためいて出ていった。


「なんなんだ?」

「さあ? でも、私が城にいないとまずいことでも起きたのではないかしら?」

「なにが起きたのやら」

「さあ」


 ともあれ、王都のアンハルト宮に戻ることになったようだ。

 騎士と侍女は素直にこのことに喜んだ。

 やはりこの二人にとっては、主人がこんなところで暮らしているのは嫌だったようだ。

 本人はめっちゃ楽しんでいたんだけどな。


 それからおよそ一週間で迎えが来た。

 俺たちがここに来た時の片道が一週間だったはずなので、これはかなり急いだ結果ではないだろうか。

 帰りもかなりの強行軍で、揺れまくりの馬車ではかなりきつかった。


 ゼルディアとカシャは後からやってくるということになった。

 ゼルは俺の教育係なのだから、付いてくるのは当然だ。

 宮殿暮らしになることを素直に喜んでいる。

 そっちの方が贅沢な暮らしができるだろうしな。

 マナナは俺と一緒に馬車で揺られている。


 そういうわけで、俺たちは王都に戻ってきた。

 宮殿は俺たちがいない間も使用人たちによって管理されていた。


「おかえりなさいませ」


 出迎えた使用人たちは涙を浮かべていた。

 忠誠心が高いなぁと呆れてしまう。

 そんな彼らを見るとソフィーの目も潤んでいた。


 さて、そんな急に帰って来させられて何事が起きたのかと思うが、それはアンハルト宮の者たちも知らなかった。


「そのうち、向こうからなにか言ってくるでしょう」


 ソフィーは気楽だ。

 侍女たちが健康的に日に焼けた俺たちの肌を見て嘆いているのを聞いて笑っている。

 明日から、美肌強化週間を始めようとか言っている。

 いや、それは勘弁してほしいのだが。

 俺もなんだよな?


「うう〜」

「マナナ、暴れるなよ」

「う〜」

「そんなことはしないか。うんうん、マナナはいい子だからな」

「うう〜」


 マナナを宥めていると、周りから視線が刺さる。

 新顔のマナナを見定めているのかと思ったら、違った。


「アル様、言葉遣いが……」

「やはり、お外で暮らしたから」

「すぐに家庭教師を」

「僕なら大丈夫だよ!」


 これはいかんと、すぐに良い子ちゃん演技をした。


「ちょっと、外の言葉を覚えただけだから、こんなのは使い分けられるよ。それに教師ならもういるから」

「そうそう。お父様の紹介でゼルディア様が教育係になってくださったのよ」


 そう言うと、皆が驚いた声を上げた。

 やはり有名人なのか。

 なら、俺がジークだと知ったらもっと驚くのだろうか?

 いや、不必要に言いふらすつもりはないけどな。

 なんか、そういうのってみっともない気がするしな。


 次の日、使者が来て今回の急な呼び戻しの原因がわかった。

 聖女イルファタが里帰りの途中でこの国に立ち寄るのだそうだ。

 ちなみに、俺の昔の仲間のことだ。

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