25 名付け



 この世界には獣人という存在がいる。

 人間に獣の要素を合わせ持った人々だ。

 その他にも耳が長く森で暮らすことを好む森人エルフや鉱山などに穴を掘って暮らす地人ドワーフなどもいる。

 ああ、後、魔族も元は角のある有角人ホーンドという存在だった。

 どうしてこれほどに様々な人種が存在するのか?

 そこには神話が存在する。


 創世の神は自らが作った海と空と大地に様々な姿の従神を作り、放った。

 その従神は自らの姿の生き物を作り、世界を満たした。

 それが人間や獣の始まりである。

 知恵に長けてはいるもののそれ以外に力のなかった人間は、多くの獣と交わり、自らの肉体に獣の要素を混ぜ合わせていった。

 そこから獣人や森人、地人、有角人が誕生した。


 神話の時代に人間は性が自由すぎるよな。


 とはいえ、本当かどうかはけっこう疑わしい。

 神は実在するが、神自身がこの話を広めているわけではない。

 広めているのはあくまでも人間たちだ。

 人間優位の話を作ったとも考えられる。


 さて、こんなことをどうして考えたかというと……。


「こいつ、獣人ってことで誤魔化せないかな?」

「どうかしら?」


 俺にしがみついたままのこいつを指差して言うと、ソフィーは首を傾げた。

 魔晶卵から孵化したこいつは、翼があって尻尾がある。

 頭には小さな冠のような角もある。

 思わず竜人と言ってしまったが、もちろんそんな人種は存在しない。


「獣人の方はいろんな姿があるけれど、こういうのは見たことないわね」


 と、ソフィーも困った顔だ。


「獣人の偉い方が認めてくださればいいのですけど」

「ああ、なんか、そういうところで獣人って雑いよな」


 獣人は割と腕力重視の思考がある。

 多少見た目が違っても、王やその土地の権力者が認めれば、それでよしという考えもあったりする。


「そうだ!」


 と、ソフィーが手を打つ。


「アル、ゼルディア様に頼むというのはどうでしょう?」

「ゼルディア〜〜?」


 俺は思わず嫌な顔をしてしまった。

 ゼルディアというのは以前にも話題にした昔の仲間、獣人の賢者だ。


「なに、あいつ、獣人社会でちゃんと地位を築いてるのか?」


 あのグータラが?


「ええ、獣人連邦の相談役という地位です」


 ああ、なるほど。

 相談役っていう、地位と名誉はあるけど権力はなくて、権力者の質問にテキトーに答えるだけで高給がもらえる楽な職と思ってそう。

 魔王討伐後の俺が各国からの士官の誘いを面倒がっているときに、魔王の監視という名目で魔王城に居座り、生活は各国に支援させるっていう策を考えたのもあいつだしな。


「まぁ、所在がわかっているなら、手紙でも送ればいいか」


 あいつが、俺だとわかる内容か……。

 うん、すぐに思いつくな。

 ていうか、魔晶卵を孵化したって事実だけで発狂させられるな。

 やったぜ。


「さて、じゃあそれはそれとして、こいつの名前、どうしようか?」

「うっ?」


 自分のことを言われたと思ったのか、顔を上げて俺を見上げる。

 というか、なんでこんなにひっついているんだ?

 魔力でも吸われているか?

 いや、そんな感じはないな。

 ああ、でも大気にある魔力はいまでも吸い取っているな。


「名前がないと不便だよな」

「そうねぇ」

「では私は、なにか着るものを用意してきますね」


 侍女がそう言って部屋から出る。

 俺たちが話し合っている間に、侍女は布からささっとワンピースのようなものを作ってきた。

 翼と尻尾用の穴があり、ボタンで固定できるようになっている。

 短時間でこれだけのものが作れるのだから、たいしたものだ。


「うっうっ」

「破るなよ」

「う〜」


 慣れない服を邪魔そうにしていたけれど、俺が注意すると不満そうに見てきた。

 言葉がわかるのか?


「賢いなぁ」

「うう〜〜」


 頭を撫でてやると気持ちよさそうにする。

 懐いた犬猫みたいな反応だな。


 話し合った結果、こいつの名前はマナナとなった。

 魔力の別の呼び方のマナと、輝かしいという意味を持つエレナという名前を合体させた結果だ。


「マナナ、お手」

「う〜」

「よくできたな」

「うう〜〜」

「アル、それはやめましょう」


 犬みたいに扱ったら、ソフィーにマジ顔で注意された。

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