23 孵化
昔、旅の途中で聞いた話がある。
魔晶卵は生まれ損なって魔力が凝縮した存在だが、そもそも魔獣において、生まれない卵を産むということはない。
魔晶卵は魔力を扱う者にとってこれ以上ないほどに便利な道具だが、その欲を捨てて孵化させてみたらどうなるのか?
気になる。
だが、希少すぎてそんな恐ろしいことに挑戦できない。
もし、魔晶卵を温めて、生まれてきたのがただの魔獣であったなら、きっと発狂することだろう。
なんて話をしていた。
仲間の賢者もその内容に強く同意していた。
俺も、あの聖剣に使われている金属が希少だから潰して研究したいと言われれば、もったいないと思っただろう。
だが、価値観の違いか、魔晶卵に俺はそこまで価値を感じていなかった。
魔王討伐後、おおよそ二十年ほどひたすら修行に明け暮れていたからか、魔力は潤沢に俺の体を巡っている。
魔晶卵にこだわる理由はない。
「よし、やってみるか」
孵化に挑戦してみよう。
しかし、どうやればいいのか?
普通に温めればいいのか?
まだただの村人だった頃、鶏の卵の孵化に挑戦して成功している。
とりあえず、あれと同じ要領でやってみるしかないか。
飛翔の魔法でまさしく飛んで帰り、かつてボロ屋だったエルホルザの家に着く。
さて、後は静かにバレないように。
「アル」
玄関を開けると、ソフィーがそこにいた。
「あれ? お客さんはもうお帰りに?」
「ええ」
「それは、お早いお帰りで」
「そうでもないわ。ところでアル。それはなにかしら?」
「いや、これは……」
抱えるぐらいに大きな魔晶卵を誤魔化すなんてできるはずもなく。
「あはははは……」
ソフィーにすごく睨まれて、俺は仕方なく白状することにした。
侍女と騎士も話を聞く。
こんな狭い家に住んでいて、俺のことを秘密にするというわけにもいかない。
なにより騎士は竜との戦いの時にいたからな。
二人とも、俺のことはマックスとソフィーの二人に説明されて受け入れている。
『勇者の生まれ変わり』と二人は有り難がっていたが、俺としては微妙な気持ちだ。
ともあれ、受け入れられているのだからその辺りは聞き流しておくことにしよう。
ソフィーは、俺が魔力の拡散を感じて勝手にそこに向かい、竜に会ったと聞いた時にはすごい顔をされたが、魔晶卵を孵化させるという話となると一転して顔を輝かせた。
「それは楽しそうね!」
「王妃様!」
騎士と侍女が驚いた声を上げる。
賛成ではないらしい。
「魔獣の卵ですよ!」
「そうね。でも、魔獣でも赤ちゃんでしょう? きっと可愛いわよ」
「それは……違うかと」
「そうです! 危険ですよ!」
「大丈夫よ。出てきても赤ちゃんですもの」
「しかし!」
「王妃様!」
こうなったらソフィーも頑固だ。
彼女が賛成してくれたのは嬉しいが、逆に冷静になってきた。
やっぱダメだったか?
だけど、いまさらなんだけどな。
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