過去
無事武具を買い揃え、装備が整うと閃迅は鏡に映る自分の姿を改めて見つめた。華奢な身体に
「ふぅん、なかなかサマになってるじゃないか…着ているのが晩猶のお下がりでなければ余計にね」
「それを言うな。…昨日まで着ていたものは……薄すぎて…あの格好で外を歩かせるより随分マシになっただろう」
(コイツが着てた衣装、そんなに酷かったのか?そういやろくすっぽ見てなかったな…女装だろうってのは分かったけど)
確かに今着ているものの方が遥かに動きやすく、見た目はだぼだぼしているが外に出られない程では無い。閃迅がそこまで危うい格好のまま、一体どのような罪を犯したのか未だに謎ではあるが、今はひとまず身支度を整えることに意識を集中させる。
「…ま、大事にしてやりなよ。容易く折れないようにさ」
「分かっている。…世話になったな」
「なぁにしおらしい顔してんだい!泣く子も黙る皇帝サマだろ?しっかりおし」
まるで姉と弟、母と子のようなやりとりに閃迅は内心によによしつつ、二人は相当長い付き合いなのだろうと思い少しだけ嫉妬した。何故そう思うのか、自分では良く分からないまま晩猶の腰に着いた装飾をぎゅっと握る。
他の店で閃迅の服を購入することになり、蟒蛇の露店を出た二人は往路とは別の道を歩く。様々な店が立ち並ぶ通りを歩いている最中、暫し無言であった晩猶は覇気のない表情を浮かべる閃迅を見下ろし、徐に口を開いた。
「そう言えば、朝飯がまだだったな」
「…うん、もう腹ぺこだよ…服も欲しいけど、先に飯がいいな」
思い返せば果物しか口にしておらず、朝市の天幕から漂ういい匂いが空腹を刺激している。閃迅は何処かで見たことがあるような料理を横目に、朝食を何にするか頭の中でひたすら考えていた。
「晩ちゃ…いや、晩猶様、この辺りで美味い料理はなんですか?特に肉系で!」
「…肉料理なら…塩を擦り込んでじっくり蒸した雉肉か、香辛料を絡め串に刺して焼いた羊、あとは豚のあばら肉を焼いてじっくり煮込んだスープ…」
「やっ、もういいっ…!めちゃくちゃ美味そうだ…!」
想像しただけでヨダレが出てきそうになり、目をギラギラさせて飲食店を探す。閃迅の様子に苦笑いを漏らすと、晩猶が朝市の列から外れた端にある露店を示した。店の天幕に入るなり近くの席に座り、
閃迅は見慣れない料理が並ぶ辺りの卓を興味深そうに見渡し、どのような料理が運ばれてくるのか楽しみにしていた。
「あっ…これ、祭りの屋台で見た事ある…」
「おまえ、穣華の生まれなのか?」
唐突に『閃迅』の出自を問われ、彼のことを知らない迅はどう答えようかしどろもどろになる。
「あっ、いや、えーと…そ、そうだよ!でも、昨日までの記憶がなくて…」
「……そうなのか?」
「気づいたらあの薄暗い小屋にいて、何が何やら分からないうちに…晩猶の世話になっていたんだ」
向かいに座る人狼の皇帝を見つめ、剥き出しになっている腕に触れる。ふわふわとした柔らかい毛に包まれてはいるが、その奥にある逞しい腕で抱え上げられたことは鮮烈に憶えている。
「…なぁ。俺の過去に何があった…?罪人って、何をやらかしたんだよ」
ずっと燻っていた疑問をようやく解明できるのではと、閃迅は畳みかけるように問う。しかし、本人が予想していたよりも晩猶の口はずっと重かった。
「おまえは…おれと祝言を挙げる前の晩、
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