第66話 い つ か 殴 る 。
国王陛下が、直接謝罪したいと申し入れてきた。
そこまではまぁいいとしても、なぜかアイルセル公爵家で。
なんでやねん。
思わずコテコテのツッコミをしてしまう私だった。
でも、なんでやねん。
なんで国王が直接動く話になっているのか。なんでアイルセル公爵家なのか。どうしてこうなった?
もう四年も前のことを蒸し返されたくはないし、今さら謝られても遅すぎる。……でもなぁ、直接謝罪されたら許すしかなくなるよなぁ。そして断れるだけの言い訳もなし。体調不良と偽ってもお見舞いに来そうな勢いだし。
というか謁見場所がアイルセル公爵家って。いくら公爵家でもホイホイ国王陛下をお招きできるわけじゃない。
何ヶ月も前から屋敷を改装したり庭を整えたり。
最高級の食材を使ったメニューを考案したり。
使用人一同の再教育をしたり。
使用人の中に怪しい人物がいないか再調査したり。
屋敷の警備態勢を見直したり、近衛騎士団と協議したり……。
そんな下準備を重ねてやっと国王陛下をお招きすることができるのだ。いきなり「ちょっと謝罪に行くわ」と言われて受け入れられるはずがない。
なによりも最悪なのが、ここは実家のリインレイト公爵家ではなく、今回の件では無関係であるアイルセル公爵家であるということ。
リインレイト公爵家に場所を変えてもらう?
でもいまさらレオに迷惑を掛けるわけにもいかないし、すでに国王陛下は「アイルセル公爵家で」と場所を指定されている。これを
(……私が王城に行くしかないじゃん!)
陛下にご足労いただくわけにはいかないので、自分でやって来ました。なんという忠臣の鏡! という展開。
事態を丸く収めるため、もはやその選択肢しか残されていない私だった。
い
つ
か
殴
る
。
◇
まぁ、王城にはいつか行かなきゃならなかったしね。騎士団員のケガを治療するってミッツ様とお約束をしたし。……と、自分を慰める私だった。健気。
≪そんなに嫌なら王城を吹き飛ばしてしまったらどうですか?≫
≪今のマスターなら十分可能だと思いますが≫
ちょっと、魅力的な提案をするの止めてもらえません? というか無理無理。王城を吹き飛ばしたら無関係の人間を巻き込んじゃうじゃない。王城には騎士団の他にもたくさんの人が働いているのだから……。
≪では、王のプライベートな空間だけを吹き飛ばしては?≫
≪王妃候補であったなら場所くらい知っているでしょう?≫
…………。
おっといけない。かなり本気で検討してしまったわ。
それはともかく王城へ。
と、簡単に行けるものでもない。
四年の間に礼儀作法も細かく変わっているかもしれないし、相手方との予定の調整もある。なによりドレス、ドレスがない。
四年前に追放されたときは着の身着のままでギュラフ公爵領に移送されたし、その後は王城に行くこともないだろうと礼服の準備もしていなかったのだ。いや同格の貴族邸に招待されたときのものや、夜会に出られるレベルのものなら作ってあるけど、さすがに王城で陛下に謁見できるレベルのドレスと比べると『格』が足りないのだ。
つまり今から作らなくてはならない。陛下に謁見できるレベルのドレスを。採寸やら生地選びやらをして、最新の流行を取り入れつつも下品にならないドレスを。
まだ喪に服す期間なのだから喪服でも――いや無理だわ。陛下と謁見するのに喪服はないわ。どうにかしてドレスを準備しなくては……。
(……めんどくせー)
やはり、いつか殴ろう。固く決意する私であった。
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