第51話 トラブル遭遇女


「リリーナは強い。よく分かっているじゃないか」


「リリーナ嬢は強い。当然だ」


 ガッシリと握手を交わすガースさんとミッツ様だった。いや、うん、男同士の友情は美しいのだけど……そのきっかけが『リリーナis強い』ってどういうことよ?


≪実際強いですし≫


≪実際頭おかしいですし≫


 頭おかしいって……。


 ま、まぁ、でもその認識はいずれ改められるでしょう。お父様と結婚してから特に鍛えてはいなかったし。ミッツ様はその間ずっと訓練していたのだし。ガースさんだって、真正面からやり合えばそう簡単に魔法に当たってはくれないはずだ。


≪はいはい≫


≪はいはい≫


 呆れたように肩をすくめるアズと、呆れたような声を上げるフレイルだった。


 何で私が脳筋みたいな扱いをされなきゃいけないのだろうと首をかしげていると、ガースさんとミッツ様がほぼ同時に馬車の中で腰を浮かせた。


「「殺気!」」


 え? 殺気?


「なんという濃密な殺気! ガース、なんだこれは!?」


「分からん。分からんが……『質』は獣人族の殺気に似ているな」


 人間と獣人族では殺気の質が違うの? と、ツッコミを入れられる雰囲気ではない。


 ガースさんとミッツ様が同じ方向を睨め付けていたので、私もそっちに意識を向けてみる。……う~ん? たしかに嫌な雰囲気がする? かも?


≪この人殺気を感じ取ってますよ……?≫

≪戦闘職でもないのに……。いよいよ人間離れしてきましたね≫


 その理屈では殺気を感じ取れたガースさんとミッツ様も人間離れしていることになる……いや獣人族最強の戦士と、若くして近衛騎士に選ばれる実力者。わりと人間離れしている肩書きね。


「リリーナはここで待っていろ」


「外の様子を確認してきます」


 おぉ、レディを残して偵察に行くとは、なんてイケメンな二人でしょう。……なんか死亡フラグっぽいなと思ってしまったのは絶対の秘密だ。


 幸いなことに死亡フラグは回収されることなく。馬車の屋根に登って周囲を偵察したガースさんとミッツさんは無事に戻ってきた。


「リリーナ。馬車で逃げると動きが諭されやすい」


「馬車はここに放置して、徒歩でこの場を離れましょう」


「……いや二人がそう言うのなら、そうした方がいいんだろうけど……なに? 何かあったの?」


 私の疑問を受け、ガースさんは不機嫌そうに歯ぎしりし、ミッツ様も憮然とした顔をしながらも答えてくれた。


「獣人族の軍勢が、こちらに向かってきています。――おそらく、このまま王都へ向かうのでしょう」



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