第45話 求婚(二度あることは三度ある)



 四年経っても変わらないミッツ様の様子にもはや感動すら覚えていると、ミッツ様は後ろのポケットに刺してあったらしいバラの花を私に差し出してきた。屋敷の庭に咲いていたものだろうか?


 情熱を現す、赤い薔薇。


 目の前で片膝をついた騎士様。


 なんだか求婚の場面みたいね、なぁんて考えてしまったのはこの数日で二回も求婚されてしまったせいだろうか?

 もちろん、求婚であるはずもないのでありがたく受け取る。まったく妄想激しくて嫌ねぇ思春期じゃあるまいしと自分自身に呆れていると――


「――子供は何人欲しいですか?」


 うん?

 今、なんと?

 子供とな?

 この場面で子供とか言われると、『あなたと私の子供』という意味に聞こえますよ?


 いやしかし、ミッツ様だしなぁ。本人はいたって真面目に世間話をしている可能性もなきにしもあらず。というか、そっちの可能性の方が高そうだ。だってミッツ様だし。だってミッツ様だし。だってミッツ様だし。子供は聖龍が運んでくると本気で信じていそうだ。


「え、ええっと……、一姫二太郎……いえ、最初は女の子で、二人目は男の子がいいですかね?」


 いやそれは子育てのしやすさとみたいなものだから、基本的に乳母やメイドに子育てを任せる貴族には関係ない理屈なのかしら? なぁんてことを考えていると、ミッツ様はうんうんと頷いていた。


「わかりました。経験はないですが、最善を尽くしましょう」


 うん?

 やっぱり『あなたと私の子供』という意味でした?


 いやいやあんた。四年ぶりくらいの再会で、求婚すらせずに子供の話とか……色々とすっ飛ばしすぎじゃありません?


 さすがの私もドン引きしていると、ミッツ様がすくっと立ち上がり、私に向けて一歩踏み出した。


 ――真面目な顔だ。

 少し、頬が赤らんでいる。


 あぁ、彼は本気なんだな、と察する。

 やり方は不器用を通り越してぶっ飛んでいるけど、彼なりの本気。本気で私と結婚して子供を成したいのだなと分かってしまう。


 なんだかその不器用さすらも微笑ましく思えてきて――



「――この! バカ兄がぁあああああぁあぁああっ!」



 真横に吹き飛ぶミッツ様。

 一瞬遅れて、ミアがドロップキックしたのだと認識する。


 いや、セナちゃんといい、この世界の女性は男性にドロップキックするのが基本なんですか? というか貴族令嬢のドレス(裾が長くてとても重い)でドロップキックするとかどういう身体能力しているのかしら?


 私が心の中でツッコミをしていると、吹き飛ばされたミッツ様は庭の大木に激突し、ミアは不機嫌そうに着地したのだった。




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