第24話 王家の宝(二つ目)


うたかたの恋フレイルはその防御力・・・を活かして、いわゆる『勇者』の装備品として活躍。『魔王』と恐れられた存在を打ち倒す一助となり、後に王家の宝となりました≫


 この洞窟、王家の宝率が高すぎない? 高性能な魔導具が多すぎない? 聖剣アズベインに、うたかたの恋フレイルに、ゴーレムを作り出した水晶に……。というか転移魔法の魔導具でなんで防御力? 危機が迫ったら転移して逃げる的な? そもそもそんな『王家の宝』がなんでこんな場所に隠してあったのか……。


 ツッコミどころが多すぎる。

 けれど、人間の気にするツッコミどころなんて、剣であるアズからすればどうでもいいことのようであり。


≪人間とは妙なことにこだわるのですね。気になるのでしたら、うたかたの恋フレイルに尋ねてみてはいかがですか?≫


 ブレスレットに? まさかアズみたいに人格があるの?


≪あるにはありますが、答えるかどうかはマスター次第ですね≫


「…………」


 何で私が試される系の展開になっているのだろうと疑問に思いつつ、ブレスレットに尋ねてみる。もしもーし、ちょっとあなたツッコミどころが多すぎませんかー?


「……そうやって簡単に流されるから、波瀾万丈な人生を送るハメになるのでは?」


 私より5つほど年下であるミアからの呆れ&お説教であった。不思議なこともあるものだ。


 どうしてミアは私に呆れてばかりなのだろうと首をかしげていると、ブレスレットから応答があった。


 とはいえアズのように語りかけてくることはなく、ブレスレットの宝石が淡く光り輝き――その輝きを見つめていると、脳裏にとある光景が浮かんできた。




         ◇




 うたかたの恋フレイルに見せられた光景の中。

 複数人の荒くれ者たち。その中心に、見覚えのある男がいた。

 先ほどゴーレムに踏みつぶされた、山賊の頭領だ。


 彼の前には縛られた三人の子供。私たちが保護した獣人の子供――ではない。

 見た目からして貧民街の子供たちだろう。いなくなっても誰も悲しまず、ある日突然消えても誰も気にしない。そんな、この国の貴族が本来向かい合うべき問題。


 そんな子供たちを、山賊たちは容赦なく斬りつけた。


 悲鳴。

 泣き声。

 絶叫。


 子供たちの断末魔を気にすることなく、山賊の頭領はうたかたの恋フレイルを子供たちの傷口に押しつけた。


 私自身が魔法使いであるからこそ、分かる。

 子供たちの肉体から、ブレスレットへと。魔力が移動していることに。


 この世界の人間は例外なく魔力を持っている。個々人によってその総量に違いはあるけれど、魔力を使いすぎれば貧血ならぬ貧魔力となってしまうし、その状態でさらに無茶をすれば魔力欠乏症で死に至る。


 幸いにして。子供たちが魔力欠乏症で死ぬことはなかった。おそらくはうたかたの恋フレイルが(道具でありながら)せめてもの抵抗をしたのだろう。


 でも、子供たちが助かることはない。

 斬りつけられた傷がすでに致命傷であるし……そもそも、『使い捨て』として連れてきた貧民街の子供たちを、山賊たちが治療する気なんてなかったから。


 うたかたの恋フレイルに魔力を吸わせたあと。山賊の頭領たちはうたかたの恋フレイルを使ってどこかへ転移して……しばらく後、獣人の子供たちを誘拐してきた。


 そのために犠牲となった子供たちの死体は、アジトである洞窟のすぐ近くにうち捨てられた。この森は街道が通っているので魔物は刈り尽くされているけれど、腐肉を喰らう程度の小動物はいる。そんな小動物たちが遺体を『処分』することを期待して。


 …………。


 どうやら、あの頭領は死んで当然の人間だったらしい。

 今回捕らえた山賊たちも、貴族ミアを襲撃したのだから間違いなく縛り首となるでしょう。


 でも、それはあくまで貴族襲撃の罪。貴族から物を奪った罪。

 貧民街の子供たちを殺した罪ではないし、裁判の議題にも上がらないでしょう。


 この国では、命の価値に差がある。


 貴族としての贅沢な暮らしをしてきた私に、それを批難する権利はあるのだろうか?



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